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赤池 学「ひとにやさしいIT」

究極の大根おろしをデザインする-Leading Edge Design山中俊治氏インタビュー(2)

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赤池 学=ユニバーサルデザイン総合研究所所長 2006/09/28 日経パソコン

「やさしいITのハードは、まずは"技術と触った時の感触"を大切にしないとダメ」。初っぱなからこうご提言いただいたインダストリアルデザイナー、山中俊治さんに、氏が最近手掛けた、触った時の感触を大切にデザインした、ユニークな大根おろし開発の逸話を続けてもらうことにしよう。

OXOの大根おろし

「アメリカのOXO社というメーカーから出た大根おろしが、この4月に発売になりました。OXOは、「グッドグリップス~素晴らしい握り」をキーワードに、いろいろなキッチンツールを中心とした道具をデザインしているメーカーで、ここ15年位ですごく急速に伸びた、それこそグッドデザイン賞を総なめという感じのアメリカのブランドなんですね。そこがたまたま、アジア向けの商品を展開したいんだけど、と僕に声を掛けてきて、もちろんこれ以外にもいろいろデザインしたんですけど、この大根おろしプロジェクトが始まったんですね。

 大根おろしって、しばらくおろしていると、滑ってつるつるしちゃって、する向きを変えるか、斜めにおろすかしないと、ちゃんとおろせないという状況になりますね。あれは実は、大根おろしの刃が1列に並んでいる、どっちかの向きに機械で作った一定ピッチの歯の植え方がもたらす弊害なんです。どっちかの向きに並んでいると、例えばそれが斜めであっても、そっちの向きに1回すっちゃったら、その途端に大根にそういうレールができちゃって、そこからなかなか外すのが難しくなるんです。

これは実は、昔ながらの職人さんが手で作った大根おろしでは起こらないことなんですね。それはなぜかというと、職人が手で目立てしていくので、ピッチがどうしても一定にはならない。かくして、歯の目立てがランダムな昔の大根おろしは、シャリシャリとちゃんとおろせるんですね。

これまでの機械加工の世界では、こうしたランダムさを忌避するべきものづくりとして捉え、どっちかの向きに厳密に正確に、そして一定にしようという価値観で、ものづくりが行われてきたんですね。これは僕の発見じゃなくて、近角聡信さんという物理学者が、『日常の物理事典』という本の中で、「ランダムさの効用」というタイトルで書いてある提言です。

ここからインフォメーションテクノロジーの話になりますが、だったらランダムさを初めからちゃんと設計しちゃえばいいじゃないか、とOXO社に提案したんですね。大根おろしの刃ってすごいたくさん、刃が並んでいるじゃないですか。何をしたかというと、僕はCADの上で、あれをちょっとずつずらしていったんです。一つ一つ刃の高さも微妙に変えたんですけど、それでそのCADでだーっと眺めたときに、わーっと歯がランダムに生えている状態のおろし板の試作品を、NCで削って作ったんです。それは、どこから見ても1列に並んでいない状態で、ポイントはCADの上だから作れるというのが1つ、意図的に作れるというのがもう1つです。

どのぐらいの刃のピッチが最もいいのかとか、刃の高さが変わるとする効率がどう変わるのかって、どこにも文献も何もないんです。そこで、もうしらみつぶしに試作をやってみることにしました。刃の高さはこのぐらいがちょうどいい、配置はこれじゃ粗過ぎる、穴の大きさなんかも小さいと詰まっちゃうし、ちょうどいい穴のサイズを探すとか、そういうのを丁寧に最適化して作ったのが、今回の大根おろしなんですね。使っていただけると、結構劇的に違うことをご体感いただけると思います」。

こうした実践は、PCや携帯電話などのものづくりの世界でも、今までほとんど行われてこなかったことは言うまでもない。CADとNCで徹底的に試作しない限り形にはならないし、何よりお金も掛かるし、開発の手間も掛かるからである。
 
さて、ここで山中氏から、やさしいITのために学ぶべきことは、「フィジカルな状況のデザイン開発には、試作品こそが大切なのだ」、という重要な事実である。CADやラピッドプロトタイピングというのが、フィジカルなものと情報、そしてさまざまな空間上にデザインされたものたちを結び付ける時の、とても重要な技術なのだということである。こうした試作品を作る手間さえ省かなければ、もっともっと人にやさしいIT関連のものづくりを形にできるはずなのである。

編集者から、「ちなみに、それで作った大根おろしというのは、やっぱりおいしいんですか」という質問が出た。山中さんは語る。

「これは逆に難しくて、粒度の粗さというのは結構、本当に人によってがらっと好みが変わるんです。同じ刃でも、真っすぐおろした時と、ちょっと回すようにするとか、斜めにするとかで全然違うので、今、僕らが作ったのは比較的、そのままやると粗めにできるんですけど、細かいのが欲しい人は、ちょっと回すように使ってねということで、最終的に形は、それでいこうということにしたんです。

 ここで僕が言いたいのは、試作品を作って、使い勝手を練ろう、ということではなくて、最新技術を駆使して、人に寄り添う努力をすることの大切さです。さまざまな調理器具や食器のグリップ一つをとっても、そこには、すごく文化性が宿っているから、とても丁寧にローカルに調査していかないとうまくいかないんですね。フィジカルなことというのはみんなそうで、その国独特の国民性や文化性や身体的特徴とか、いろいろなものを背負っています。一概にこれでいけるはずみたいな、今までの経験だけの予想というのは、うまくいかないんですね」。

一定のピッチで刃を植えるとレールができて、そこから逃げられなくなる。既存のITに対する、暗喩的にもものすごく面白い話である。デジタルが陥りがちな、一定に作る、グリッドで作る、こうした発想を超克した時、さまざまなやさしいITハードが見えてくるに違いない。

地球規模の細胞ネットワークとしてITが進化するなら、それはもうそもそも根元的に、マスプロダクトであることが否定されるべきなのである。ワールドワイドに1つの物が通用するかどうかが、ビジネスとして成功するか否かの境目だった時代は、プロダクトアウトな過去の情報社会のものである。多様に成熟していく市場においては、マスプロダクトからカスタマイズプロダクトを実現すること、もっと世界中の多様な個人たちに寄り添った形で工業生産が行えるような仕組みこそが望まれているのである。

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