摩擦力の微妙なバランスで給紙を制御

 一言で用紙のトラブルといっても、その現象や原因はいろいろある。用紙のトラブルというと、紙詰まりを真っ先に思い浮かべる人も多いかもしれないが、意外と多いのが給紙不良だ。給紙ローラーなどの部品が消耗してくると給紙力が落ちてしまってうまく給紙できなくなる。こればかりでなく、用紙が2枚以上重なって給紙されてしまう「重送」という現象も少なくない。出力したプリント物を手にとって、白い紙がもう1枚貼り付いている経験をしたことがある人も多いことだろう。これが重送だ。前回は主に紙の搬送にかかわるメカニズムについて説明したが、何らかの原因で、このメカニズムがうまく働かなくなると、こうした現象が発生する。

 重送や給紙不良が起こる仕組みは、用紙トレイから紙を送り出すメカニズムを考えると分かりやすい(図1)。

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図1トレイから用紙を1枚だけ送り出す仕組み。ページプリンターで一般的に使われている、分離パッドを使った給紙の例

 給紙ローラーと分離パッドを使う、一般的な用紙給紙方法の場合を考えてみよう。カセットや手差しトレイにセットされた用紙は、給紙ローラーとの間に生じた摩擦で、給紙ローラーの回転方向、すなわち搬送方向に押し出される。このとき、2枚目の用紙も紙同士の摩擦力によって1番上の用紙とともに動き出す。しかし、2枚目の用紙が分離パッドに差し掛かると、分離パッドとの摩擦力が1枚目の用紙の摩擦力に打ち勝つことにより、2枚目は1枚目から引きはがされて、それ以上は送られない。これにより1枚目の用紙だけがプリンター内部に送られる。これが給紙の仕組みだ。微妙な摩擦力の大小関係で用紙を1枚だけ送り出すという、実にデリケートな方法を使っている。

 このため、経年変化や連続使用などで給紙ローラーや分離パッドの摩擦力が落ちてきたり、用紙同士の摩擦力がなんらかの原因で大きくなるなど、この仕組みの中で作用する摩擦力のバランスが崩れると、給紙不良を引き起こす。

 重送が発生しても、紙同士がきれいに重なって重送される分にはプリンターが止まらずに動作することも少なくない。しかし、用紙が大量にズレながら送られる「連れ重送」になると、プリンターの中にそれらの用紙がまとまって詰まってしまう。最悪の場合、プリンターを壊してしまうことだってありうるのだ。

継ぎ足しは×、さばくのは○

 では、給紙不良を起こさずにプリンターを使うためにはどうしたらいいのだろうか?

 まず、守りたいのは「用紙の量」だ。カセットや手差しトレイは、最大積載枚数が決まっている。これは、用紙をトラブルなく給紙をするために決められた分量だ。この量を超える用紙をセットしてしまうと、給紙の時に用紙にかかる圧力が変わって摩擦力の関係が崩れる危険性が高い。この場合、給紙不良が起きたり、ひどい連れ重送が起こりやすくなる。