「これまで文化を消費するだけだった人たちが、文化を生み出す側に参画できるようになってきた」。米スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授は、2006年9月27日から東京で開かれているイベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2006」の基調講演でこう語った。

 レッシグ氏は、著作者の権利を守りつつ、著作物の共有を促進するためのプロジェクト「クリエイティブ・コモンズ」(関連記事)の発起人として知られる。講演では、著作物の自由な再利用によって生み出された数々の映像作品を紹介しながら、インターネット時代の著作権のあるべき姿を説いた。同時に「現在の著作権法は、こうした人たちの創造性を阻害してしまう」との警鐘を鳴らした。

 レッシグ氏によれば、20世紀は著作物を生み出す側と消費する側がはっきり分かれていた。レッシグ氏はこの状態を「RO(リード・オンリー)」と呼ぶ。ROの時代には、著作物はトップダウンで提供され、人々はただそれを消費するだけだった。インターネットが普及しても、この状態は相変わらず続いている。音楽のネット配信などでコンテンツを購入することは簡単になったが、著作権管理のシステムによって、消費者はコンテンツの所有者に管理されている。

 その一方で、インターネットは「RW(リード・ライト)」への動きも促進した。インターネット上で公開されたコンテンツを編集、再加工して再度公開する「リミックス」が容易になったからだ。レッシグ氏は、いくつものリミックス作品を実際に聴衆に見せながら、その魅力を語った。例えば、バックにデュエット曲を流しながら、米国のブッシュ大統領と英国のブレア首相を交互に重ねた映像。二人の口の動きと歌詞がぴったりと合って、あたかも二人がデュエットをしているかのように見えるのがなんともユニークだ。また、ある人が公開したギターの演奏データに別の人がバイオリンの音色を重ね、さらに別の人が別の音を加え…といった具合にリミックスが繰り返さたという事例も紹介した。一度も顔を合わせたことのない人々によって、全く新しい一つの楽曲が作られたというのだ。

 こうしたRWの文化は「現行の著作権法と相反する。今の法制度では、せっかくのRW文化を拒否してしまうことにつながる」(レッシグ氏)。今の著作権法は、RO文化を守るものであるとレッシグ氏は言う。ROとRWによって生み出される作品を比べると、圧倒的にRWの方が多い。にもかかわらず、法律は少数派を守るために存在している。「価値のある創造性を、法律が阻害することがあってはならない。せっかく創造する側に回った人々を、再度受け身に戻してしまってはならない」(レッシグ氏)。こうした思いから、氏はクリエイティブ・コモンズの活動を推進しているという。

 だがレッシグ氏は、決して著作権を軽視しているわけではない。「我々は、海賊版の作成を推奨しているわけではない。既存の市場を破壊しようとしているわけでもない」(レッシグ氏)。氏が主張するのは、著作物を販売する「商業的モデル」と、自由に皆が著作物を自由に共有する「共有モデル」の融合だ。それぞれのモデルの価値観を大切にしながら、両者をうまく共存させていくことが必要だという。現時点で「それがどのような形に帰結するのかはまだ誰にも分からない」(レッシグ氏)。だが、自らの著作物を書籍として販売しつつ、同じ内容をインターネットで公開し、どちらも大成功を収めた作家がいる。映像作品に広告を付加することで、無償で公開しながら大きな収益を上げている例もあるという。

 レッシグ氏の言う「商業的モデル」と「共有モデル」との共存が、インターネット上のコンテンツの在り方を大きく変えていくかもしれない。