企業向けアンチウイルス・ソフト市場は,上位3社が2001年度の売り上げを2~4割伸ばす見通し。各ベンダーはサーバー版を購入しやすくする新ライセンス料金体系の整備や,2次店支援の強化を急いでいる。

図1●主なアンチウイルス・ソフトの出荷本数(クライアント数)
図2●主なアンチウイルス・ソフトの出荷金額
表●国内で販売されている主なアンチウィルス・ソフトの販売状況と販売強化策
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 2000年度の企業向けアンチウイルス・ソフト市場は,主要ベンダー6社の合計クライアント本数で642万本強(日経システムプロバイダ推定, 以下推定値には*),金額で153億円強*だった。

 2001年はSirCam,CodeRed,Nimdaなど様々なウイルスが猛威をふるい,8月には情報処理振興事業協会(IPA)に報告された発見や被害の届け出件数が過去最高に達した。「2001年は黙っていても売れる状況」(あるアンチウイルス・ソフト・ベンダー)と,各社の販促担当者は一様に強気だ。

 アンチウイルス・ソフトはウイルスを検出するための定義ファイルがその価値を決める。新種ウイルス発生時にどれだけ早くに定義ファイルを更新してユーザーに配布できるか,あるいはどれだけ優れた検出エンジンを搭載しているかといった点が重要だ。各ベンダーとも国内外で24時間365日,新種のウイルスの発生の報告を受けて定義ファイルを作成する研究開発拠点を持ち,販売店やユーザーからの新種ウイルス検出報告を受け付ける体制を持っている。

 例えば2000年10月に日本法人を設立した英ソフォスは「国内で24時間365日体制の新種ウイルスの報告受け付け/サポートを開始した」(日本法人のアラン・ブロデリック社長)ことを,企業ユーザーにアピールしていく方針だ。

 一方シマンテックは定義ファイルの更新に依存しない技術を開発し,新種ウイルスへの対応力を訴えている。同社は2001年6月以降の製品から,VBScriptやJavaScriptプログラムの動きを監視することで不正プログラムを発見する「スクリプト・ブロッキング機能」を搭載し始めた。これはVBScriptやJavaScriptベースのウイルスが増加していることに対応する技術。従来の検出エンジンがプログラム・コードの特徴などからウイルスを判別していたのに対して,未知のウイルスでもメール・ソフトに含まれるアドレスを一気に採取するような怪しい行動を検出して,実行中にユーザーに警告を出せるというものだ。

 こうした基本的な機能やサポートの強化が大事なのはもちろんだが,各ベンダーは,サーバー版の普及にも力を入れている。クライアントへの感染を防ぐためには,メール・サーバーでウイルス付きメールを食い止める方が効率的だし,共有ファイルを置くサーバーにもアンチウイルス・ソフトを導入するほうが安全だ。こうしたサーバー製品をユーザーに活用してもらおうと,サーバー版のライセンスを購入しやすくするライセンス制度改訂の動きが相次いでいる。

 Webサーバーに感染して他のWebサーバーにアタックをかけるような高度なウイルスの出現を背景に,セキュリティ技術者を有する2次店を個別認定して,重点的に支援しようとするといった動きも盛んだ。こうした動きを背景に2001年度は前年度比33%増の853万本弱*,金額では同30%増の200億円弱*の出荷が見込まれる。

2次店支援強化目指すトレンド

 早くからサーバー版製品の拡販をにらんだ販売網作りを進めてきた筆頭はトレンドマイクロだ。2000年度(12月期)にクライアント用のウィルスバスターを240万本*販売,サーバー版はファイル・サーバー用のServerProtectを中心に2000年度は6万本*販売した。同社が開示している単独決算は2000年度の売上高が94億円で対前年度比で31%の伸びだったが,このうち法人向けの売上高は約8割の76億円程度*の模様。

 同社は「チャネル作りに関してはとにかく打つ手が早かった」(競合ベンダー)ことで市場での優位を握った。96年にソフトバンクから35億円の出資を受けたこともあり,同年のサーバー版製品発売と併行して,ソフトバンクと共同でシステム・プロバイダの販売網作りを進めてきた。96年4月には「ワクチンバンク」と呼ぶパートナ網を立ち上げ,NTTデータや大塚商会など14社が参加したのを皮切りに,同社によれば2001年11月現在,販売店の数は1次店2次店合わせて3000社ほどに達しているという。「特にここ1年は,大塚商会やリコーのような事務機系の地方支店による,中堅・中小企業向け販売が伸びた」(同社)。

 ただし2000年までは1次店支援が中心で,2次店への個別支援は手薄だったとする。「販売店3000社のうち当社の営業が直接コンタクトをとっているシステム・プロバイダは50~100社ほど。特によく売ってくれているのはうち約40社だ。これらのチャネルの地方支店と共同セミナーを実施するなど,引き続き個別の2次店支援を強化していく」(同社)という。こうした2次店支援の強化を通じて,2001年度はクライアント版が前年度比5割増の360万本程度*,サーバー版は約3割増の8万本*,法人向けの売上高は4割増の106億円程度*を見込んでいる。

サーバー版の導入促進が焦点

 一方,2次店獲得の途上にあるのが米シマンテックや米ネットワークアソシエイツの日本法人など。シマンテックは2000年度(2001年3月期)にクライアント版170万本*を法人向けに販売,国内の法人向け売り上げ金額はクライアント版とサーバー版と合わせて米本社の売り上げの3%程度,34億円*。ただし同社のサーバーの出荷実績の推定は難しい。サーバーとクライアントの合計数だけでライセンス料を決める体系に変更したからだ。例えばEnterprise Solution Ver 4.5 Desktop & Serverの場合,最小構成は1サーバーと5クライアントで8万8000円だが,追加ライセンス1000本分を購入するとクライアントとサーバーの合計1000台以内まで,サーバーにどれだけ導入してもいい(ただしグループウエアのゲートウエイの場合はアカウント数を計算)。このケースでは1本当たりの追加ライセンス料金は1900円となる。事実上,サーバー版の大幅ディスカウントとも言える。

 シマンテックはこの秋から,2次店を含めたチャネルの技術力育成と個別支援の強化に本腰を入れたところだ。2001年10月から1次店2次店を問わず,セキュリティの4分野で認定技術者の養成を求め,技術力のあるパートナとはシマンテックの直接営業部隊と共同で見込み客の開拓を行うなどの体制を構築した。「アンチウイルス・ソフトの販売時には,感染したWebサーバーから他のWebサーバーにアタックをかけるウイルスに備えてファイアウオールを追加したり,個別のWebサーバーのOSやパッチ当てなどの状況を自動でチェックする監査ツールなど,多様な同時提案の機会が生まれる。こうした総合的な提案ができる販売パートナの育成・支援に重点を置いていく」(同社)考えだ。米本社が2000年にファイアウオールなどを手掛ける米アクセントテクノロジーズなど3社を買収し,製品群が大幅に拡大したことも背景にある。

 パートナの認定・育成策が奏功するのは2002年度以降になりそうだが,2001年度はクライアント数および売り上げとも前年度比2割程度伸びると推定され,本数は210万本*,売り上げは42億円*の見込みだ。

 2000年度(2000年12月期)に企業向けにクライアント150万本,23億5000万円を売り上げたネットワークアソシエイツも,ライセンス料金体系をシンプルにした。もともと99年からクライアントまたはサーバーのどちらかの最大導入数に応じてライセンス料金を決め,サーバー数を個別に申告する必要がない制度を採っていたが,2001年6月からは従来製品ライセンスとは別体系だったソフト保守料も同じ体系に含めた。このため同社のライセンス料は1年単位の使用料という形態になっている。

 ネットワークアソシエイツも2000年から2次店との関係強化を図っている。担当技術者のアサインや売り上げの目標管理などを受け入れる販売店を認定2次店(2001年11月で90社)とし,共同プロモーションを企画したり,ユーザー向けの直接営業部隊が同行営業したりする。同社は2001年度はクライアント数および売り上げとも前年度比で3割伸ばす目標で,クライアント本数は195万本,売り上げは30億5000万円を目指す。

 このほか,コンピュータ・アソシエイツ日本法人や日本エフ・セキュア,ソフォスなども一様に,今後の課題としてサーバー版を軸にしたシステム販売ができる販売パートナの増強を挙げている。巧妙かつ高度な動作をするウイルスの増加を背景に,システム技術に精通したチャネルをいかに確保するかが,今後の各ベンダーの明暗を分けることになりそうだ。

(井上 健太郎)