MS Officeと共通のファイルと操作感

 ソフト開発会社のグッディでは,前述のようにほぼ全員がLinux上でOpenOfficeを使用している。総括部長の占部裕二氏は,以前Excelで作成した資金繰り表をOpenOfficeの表計算ソフトCalcに移して使用しているが,マクロを使用していなかったこともあり「問題なく移行できた」(占部氏)。

 また操作感に関しても,MS Officeに似ているため,ほとんど戸惑うこともなかったという。

 手芸やホビー用品販売の藤久は当初,店舗のパソコンにMicrosoftのWorksを導入していた。本社ではMS Officeを使用していたが,コストを抑えるため,店舗ではオフィス・ソフトの簡易版であるWorksを利用していた。

 しかし,OpenOfficeを評価してみたところ「Worksより無償のOpenOfficeのほうがMS Officeとの互換性が高かった」(情報システム部次長兼システム開発課課長 木浦潮氏)。サポートが必要だったことなどからOpenOfficeそのものではなく,有償版のStarSuiteを選択したが,それでも「MS Officeに比べ5分の1か6分の1のコスト」(木浦氏)という。

マクロや罫線で不完全な互換性

図2●産業技術総合研究所などが調査でリストアップしたOpenOfficeへの移行にあたっての課題
写真1●レイアウトが変わってしまう例
Windows上でOpenOffice Writer(左)とMS Word(右)で同じWordファイルを開いた。ファイルはマイクロソフトのホームページで配布されている日本法令提供のWordテンプレート
図3●OpenOffice 1.1とStarSuite7の違い
表2●OpenOfficeの情報源

 ただし,OpenOfficeにはいくつかの課題もあることを理解しておく必要がある。

 最も大きなものは,MS Officeとの互換性は高いものの,完全ではないという点だ。産業技術総合研究所でも,OpenOffice自体の機能は高く評価するが,従来使用してきた文書の中には,そのままでは移行できないものも多数あるという。

 産業技術総合研究所が導入実験にあたっての調査でリストアップした課題としては,図2[拡大表示]のようなものがある。まず,マクロの互換性がない。VBAなどによるマクロは,OpenOfficeでは実行できない。

 Excelの関数はOpenOfficeでも使用できるが,一部の関数はサポートされていなかったり,記述方法の一部が異なったりする部分がある。

 Excelのファイルにパスワードがかけてある場合,OpenOffice 1.1では開くことができない。

 Word文書をOpenOfficeで開くと,レイアウトが崩れてしまうこともある。特に罫線を使用した場合は,レイアウトが変わってしまう場合が多い(写真1[拡大表示])。

 レイアウトに関しては,Windowsの文書をLinuxで開く際,レイアウト崩れが発生しやすい。WindowsとLinuxで使用しているフォントが異なっている場合が多いためだ。またLinuxではプリンタ・ドライバが未整備などの理由で印刷に関する問題も発生しやすい。

 また,OpenOfficeには,MS Accessに相当するデータベース・ソフトはない。ただし,Calcがデータベース機能を備えており,ODBC*3 を介してDBMSに接続するなど,Excelのデータベース機能に相当する機能を持つ。

 MS Officeとの互換性向上のための開発は継続して行われている。例えば,マクロ・トランスレータの開発が行われており,2005年リリース予定の次期版2.0で提供される見込みだ。

運用の工夫などで問題を緩和する

 このように,これまでの資産を使用したり,対外的な文書としてMS Office形式で提出したりする場合には,運用面などで何らかの対処が必要だ。

 グッディでは,1台のパソコンにWindowsとMS Officeをインストールしている。取引先などにファイルを送る際に,そのパソコンで問題がないか確認する。

 OpenOfficeはPDFを作成する機能を標準で備えているため,外部に出す文書はPDFで作成するという方法もある。

 有償のStarSuiteである程度問題が緩和できるケースもある(図3[拡大表示])。Linuxで生じるレイアウトの崩れに関しては「StarSuiteであればTrueTypeフォントが付属しており設定もされているため,比較的レイアウトの崩れは少ない」(産業技術総合研究所 戸村氏)。

 また藤久では,あるプリンタを使用する際に発生した不具合をサポートに報告したところ,サンによって修正されたという。

 サンはStarSuiteを教育機関向けには無料で提供している*4。早稲田大学や岐阜県恵那市の小学校など多くの教育機関が提供を受けている。

 また,OpenOfficeを使いこなすには,インターネット上の情報を活用することも欠かせない(表2[拡大表示])。OpenOfficeの日本ユーザー会がチュートリアルやFAQなどのドキュメントの作成や,メーリングリストの運営などを行っているほか,MS Office 互換性情報を提供している。

 産業技術総合研究所は,導入実証実験のため作成したマニュアルや導入ガイドを公開している。

(高橋 信頼=IT Pro編集)