写真1●グループウエアの画面
図1●Linuxをホスト運用に乗せる
メインフレーム上にLPAR(論理区画)を設定し,OS/390とz/Linuxを並行稼働させ,Linux上にグループウエア・ソフト「desknet's」を導入した。ホストの運用手順が確立していたため,バックアップや監視作業の枠組みにLinuxを追加することで,新たな運用工数の発生を抑えた
図2●グループウエア導入の経緯
保守サポート切れを見越し,メインフレームを新機種にリプレースすることを2002年6月に計画。zSeries 800上でLinuxが動くことを知り,運用上のメリットから,グループウエアもメインフレームで稼働させることにした。本番稼働前に,8000人のユーザーを想定した負荷テストなどを実施した
 竹中工務店は2003年7月,グループウエア「desknet's」の全店への展開を完了した(写真1)。Linux上で稼働させたグループウエアを,約8000人の社員がWebブラウザから利用する。特筆すべきは,このLinuxがメインフレームで稼働していることだ。

 同社は,古くからメインフレームを使い込んできた。「手順や役割分担などメインフレームの運用は固まっている。グループウエアもそこに乗せれば,長期にわたって安定して利用できる」(インフォメーションマネジメントセンター インフラ運用担当課長 野田新一氏)と考え,メインフレーム版Linuxの導入に踏み切った(図1[拡大表示])。

現行機種のサポート切れが迫る

 Linuxを導入したきっかけは,メインフレームのリプレースにあった。

 同社では,米IBMの「S390 9672-R63」を利用して,営業や会計,人事といった基幹業務を構築してきた。TPモニターに「CICS」,データベースに「Adabas」を導入。アプリケーションは4GL「Natural」などで開発した。

 導入から6年あまりが経過した2002年6月,「9672-R63の保守サポートが2003年12月で終了する」との発表があり,リプレースの検討を開始した。性能面など9672-R63に不満はなかったので,同じクラスのマシンに乗り換えれば十分だった。9672-R63の処理性能は,115MIPS(Million Instructions Per Second)である。リプレースの時期は,「12月の決算の1カ月前には新マシンで安定稼働に入っておきたい」(インフォメーションマネジメントセンター 主任 インフラ運用担当 高橋均氏)という理由から11月に定めた。

 ここまでは,単純にマシンを更新するための計画だ。ところが途中から,新マシンに“Linuxを導入してグループウエアを稼働させる”という要件が加わった。

メインフレームでLinuxを動かす

 グループウエアを導入したいというニーズは,確実に社内で高まっていた。「掲示板」や「伝言管理」などの必要に迫られ,ロータス ノーツを独自に導入する部門もあった。「導入は全社的に行い,運用コストを抑えたい」(野田氏)とは常々考えていたが,支店主導で導入しようという動きに至り,情報システム部門が主導権を押さえた。

 ユーザーは8000人に上るため,Webブラウザをクライアントに使い,管理の手間を軽減したい。そのため,グループウエア・ソフトはサーバー側で稼働させる。しかしサーバーの数が増えれば運用負荷は高まる――ここで,グループウエアの導入とメインフレームのリプレース計画が交差する。

 新マシンを選定する過程で,「zSeries 800」上でLinuxが稼働できることが分かった。メインフレームの運用は練れている。グループウエアをそこで稼働すれば,新たな運用の手間は生じない。また,「メインフレームで稼働させることで信頼性が確保できる,LinuxをIBMが保守サポートしてくれることも重視した」(高橋氏)。

 早速,Linuxで利用可能なグループウエア・ソフトを調査した。いくつかの製品が候補に上がったが,最終的にはdesknet'sを選択。8000人利用という規模に耐えられる,国内での導入実績が豊富,という2点を評価した。

8000人規模で負荷テストを実施

 選定を終えたとはいえ,desknet'sがメインフレーム版Linux(z/Linux)で稼働した実績は皆無だ。「別にファースト・ユーザーになりたかったわけではなく,安定稼働できることが必須の条件だった」(野田氏)。この条件を満たすべく,開発元のネオジャパンに対して,IBMがz/Linuxへのポーティングを依頼。2002年7月から,兼松エレクトロニクスが稼働検証を行った。

 8月には,desknet'sがz/Linux上で安定稼働できることを確認し,「zSeries 800」の導入を決定した。9月には負荷テストを実施して,8000人規模で十分なパフォーマンスが得られることを検証。このテストにより,マシンの機種(2066-0B1)を選定した。

 zSeries 800を導入したのは2002年10月。予定どおり11月に,基幹業務を旧マシンから切り替えた(図2[拡大表示])。基幹業務が稼働するOS/390とz/Linuxは,PR/SM(論理分割機構)という機能が提供するLPAR(論理区画)上で,それぞれ稼働している。

 z/Linux上のグループウエアは,desknet'sのほか,ApacheやDB2などで構成する。2003年2月に,約1500人のユーザーに対して先行してサービスを提供。7月には全店への展開を完了した。利用している機能は,「スケジュール」「伝言・所在」「設備予約」「回覧版」「ワークフロー」などである。同社にはWindowsベースのイントラネットがあり,スケジュール管理の機能も提供していた。しかし,グループウエアの全社利用開始とともに,この機能を廃止した。

Linuxのハングアップを経験

 当初の見込みどおり,Linuxの運用は,従来のメインフレームの運用で吸収できた。管理コンソールは,OS/390用に加えてz/Linux用が並ぶことになったが,従来からの3交代制の要員で運用をまかなえている。

 運用に当たっては,既存の仕組みを最大限に利用した。例えば,Linux上で稼働させたDB2に対するバックアップ。週次の処理では,zSeries 800に接続したディスク装置上のデータを,OS/390からバックアップしている。これは,従来から利用するAdabasに対する方法と同じだ。

 ただし,このバックアップはボリュームごとであり,その単位はかなり大きい。「既存の仕組みを生かした結果だが,細かくリカバリできるようにしたいので,DB2のバックアップ機能を使うことを検討している」(高橋氏)。

 また2003年9月には,z/Linuxがハングアップ状態に陥るというトラブルに見舞われた。停止時間が短く,定常業務時間後だったため,ユーザーへの影響は軽微だった。ただし,障害原因を解析するためのログが取得できなかった。必要なツールが足りなかったためだが,現在はツールを導入して解析可能とした。さらに,このような障害に備え,z/VM上に2つのz/Linuxを立ち上げ,冗長構成にすることを検討中である。

(森山 徹=tmoriyam@nikkeibp.co.jp)