■BSDライセンスの概要:
ソース公開の義務なく,商用化が容易

 BSDとは,米California大学の「Berkeley校 Software Distribution」の略称である。

 UNIXはAT&T Bell研究所で開発されていたが,California大学 Berkeley校に持ち込まれ,その後はBell研究所との共同作業により改良が進められ,1977年からBerkeley校は独自開発コードをBSDとして頒布開始した。

 その後もBerkeley版UNIXの開発が重ねられ,1989年6月からBerkeley側の独自開発部分を,ソースコードのレベルで再頒布可能なプログラムとして,頒布を開始した*3。その際に用意されたライセンス条項が,BSDライセンスであった。

 BSDライセンスはユーザーにとって非常に寛大なライセンス条項であって「改変するかどうかにかかわらず,ソースおよびバイナリ形式での再頒布および使用を,次の条件を満たす場合に認める。」と規定している。

 ここに次の条件とは,(1)ソースコードの再頒布においては,上記著作権表示,この条項一覧,下記の注意書きを残さなければならない,(2)バイナリ形式での再頒布においては,上記著作権表示,この条項一覧,下記注意書きを,頒布物に附属の文書または他のものに再現させなければならない,(3)文書による事前許可なくして,著作者の氏名を,本ソフトウエアから派生した製品のプロモートには使用しない,というものである。

 以上のとおり,BSDライセンスでは,ソフトウエアのコピーを入手した者は,改変の有無を問わず,ソースコード形式での再頒布のみならず,実行形式で再頒布および使用でき,したがって,必ずしもソースコードを公開する必要はなく,以後どちらにしてもライセンス料を支払う必要はない。Berkeley校から直接入手するには実費の支払いが必要とされていたが,第三者からコピーを入手して複製することにも制限がない。しかも,実行形式で再頒布する場合でも,無償でなければならないという条件もない。再頒布の際にライセンス料を徴収することも可能となる。

 このようにBSDライセンスは,オープンソース・ソフトウエアを商用ソフトウエアに容易に転化できる内容のライセンス条項である。

 ただし,BSDライセンスの旧バージョンには,これに付加して,有名な「BSD宣伝条項」条項が存在していた。「宣伝条項」とは,「本ソフトウエアの機能または使用に関し触れた宣伝物には,必ず『本製品にはCalifornia大学Berkeley校およびその貢献者たちによって開発されたソフトウエアが含まれる。』という謝辞を記さなければならない。」(旧第3条)というものであった。

 こうした表示は通常においては広告の脚注として控えめに記載されれば足るはずであった。ところが,BSDライセンスはGPLと並んで著名だったので,これを模倣した他のプログラム開発者たちが,自己の名称を残す目的で,前記条項中の学校名部分を自己の名称に書き換えたライセンスを作成して氾濫させるという事態が多発した。

 その結果,数多くのコードを統合して開発されたプログラムや,数多くのプログラムを含んだCDなどを広告する場合,これらの膨大なプログラムに含まれた「宣伝条項」を順守するためには,ときには何ページにも及ぶ膨大な行数の表示を脚注に記載しなければならなくなってしまい,関係者の間で強い不興を買った。

 これを重く見たCalifornia大学当局は,1999年6月,BSDライセンスから「宣伝条項」を削除した新しいバージョンを公表している。しかし,削除前のBSDライセンスを模倣したままの「宣伝条項」付きライセンス条項は,なおもフリー・ソフトウエア市場に溢れているようである。

 前述のとおり,BSDライセンスでは,GPLと異なって,再頒布に関する制約が課せられていない。それゆえ,頒布元のプロジェクトとしては,修正されたソースコードを頒布元に還元させることが困難となる。

 その半面,プログラムの頒布を受ける側としては,GPLと比較して,より自由に再頒布などができるので,ユーザーからみた自由度は高い。したがって,派生プログラムを含めると,より市場シェアを取得しやすいという面がある。

*            *            *

 オープンソースのライセンスには,特許などに対するぜい弱性が残されている。また,GPLには未解明の点も少なくないので,前記FAQなども参考にしつつ個々の問題に対応していく必要があり,経済産業省では,「オープンソース・ソフトウエアの利用状況調査/導入検討ガイドライン」を2003年8月付けで公表している。同省のサイト(http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004397/)でも閲覧できるので,本稿で触れられなかった点について参考にされたい。

集団自殺,ネット詐欺,出会い系サイト,掲示板での誹謗・中傷,ウイルス,迷惑メール――。暴走するインターネットを誰も止められない。何を裁き,誰が罰せられるべきなのか。「迷宮」と呼ぶにふさわしいネット紛争を,「法律」をキーワードに描写した書籍『迷宮のインターネット事件』(岡村久道著)。ネット事件の背景を解明し,岡村氏の眼から見えるサイバー社会の「真実」をつづる。

岡村久道(おかむら・ひさみち)氏

弁護士,近畿大学・奈良先端科学技術大学院大学兼任講師。専門分野はサイバー法、知的財産権法など。「迷宮のインターネット事件」(日経BP),「個人情報保護法入門」(商事法務),「サイバー法判例解説(別冊NBL)」(編,商事法務)「企業活動と情報セキュリティ」(監修,経済産業調査会)など著書多数。ホームページはhttp://www.law.co.jp/okamura/