イー・トレード証券は7月から稼働したインターネット証券取引システムで,WebサーバーおよびAPサーバーとして三十数台のLinuxサーバーを使用している。UFJ銀行をはじめとするUFJグループは9月から順次稼働するグループ企業向け共通システムにLinuxを採用した。ともに価格性能比の向上を狙う。

図1●イー・トレード証券の新インターネット証券システムの構成
野村総合研究所がアウトソーシングで運用を請け負っている。WebサーバーとAPサーバーに三十数台(本誌推定)のLinuxサーバーを使用している
 「3年前にSun Enterprise 4500で構築したシステムに比べ,処理能力は2倍になったが,CPUの数は約5分の1になっている。APサーバーとして採用したWebLogic Serverのライセンス料が1CPU当たり100万円程度なので,その差だけでも大幅なコスト削減になる」。イー・トレード証券のシステム責任者である,ソフトバンク・インベストメント システム開発部ゼネラルマネジャー 木村紀義氏は,Linuxによるコスト削減効果をこう語る。

APサーバーは1CPU機で

 関連企業である米E*TradeはすでにLinuxサーバーを多数使用しており,イー・トレード証券でもシステムの刷新にあたって,Linuxを有力な候補と考えていた。とはいえ,証券システムは取引所の開始や終了間際に注文が集中し,高い負荷がかかる。Linuxで本当にその負荷に耐えうるのか,構築を担当した野村総合研究所とともに事前検証を行った。

 検証の結果,判明したのが「1つのJavaVM上でスレッド単位に並列処理を行う場合,CPUを2個にしても2倍に近い性能は得られない」(野村総合研究所 技術情報本部 システム技術部 上級テクニカルエンジニア 寺田雄一氏)ことだ。負荷分散装置によりAPサーバーの並列処理を行うことで必要な性能は実現できたが,試算の結果から2CPU機ではなく1CPU機を使用し,そのぶんサーバー台数を増やすことにした(図1[拡大表示])。同じ性能をより低いコストで実現できるためだ。

 検証過程では,高負荷時にJavaVMのJRockitがハングするというバグや,プログラムの変数が勝手に初期化されてしまうという現象に遭遇した。JRockitを開発した米BEA Systemsから技術者を呼んで原因究明にあたるなどして,約2カ月かけ解決した。

 このように徹底した検証を行ったことで,取材時点では稼働後3週間経過していたが,「トラブルは全くない」(ソフトバンク・インベストメント 木村氏)。

UNIXからほぼ無修正で移植

 UFJグループのシステムは「総合金融プラットフォーム」と呼ばれ,グループのIT企業であるユーフィットが構築,運用を手がける。まず9月1日から,(1)顧客企業向けに金融情報をメールで配信するシステム「Information Wave」の稼働を開始する。

 2004年1月には,(2)国内の対顧客デリバティブ(金融派生商品)業務をサポートするシステム,2004年春には(3)グループのリース会社向け基幹システムを稼働させる予定である。

 (1)および(3)はUNIXサーバーからLinuxサーバーへの移行で,WebLogicおよびOracle上のアプリケーションは,ほとんど修正なく稼働するという。

 「Java APサーバーおよびDBサーバーとしての性能比較を行ったが,UltraSPARC III(900MHz)を搭載したUNIXサーバーに比べ,Xeon(2.0G~2.4GHz)を搭載したLinuxサーバーは,平均して性能は2倍,価格は2分の1だった」(ユーフィット オープンプラットフォーム部 梅田康吉氏)。

 ハードは米Egeneraのブレード型サーバーBladeFrameを採用した。個々のサーバーはディスクやネットワーク・インタフェースを持たず,ラックに搭載された複数のサーバー間でそれらのインタフェースを共有し,構成を動的に切り替えることができる。管理が容易になる点などが特徴だ。

 UFJグループは2ラック,35サーバーを導入。前述の(1)~(3)はいずれも,WebLogicを搭載したXeon 3.06GHz 2CPUのサーバーが3台,Oracle RACによるクラスタ構成のXeon 2.8GHz 4CPUのサーバー2台からなる。待機サーバーは各システムで共有している。そのほか,他システムとの連携用のサーバーなどがある。

 Linux採用の検討は2003年4月から6月にかけて行った。検証過程で問題になったのは,Oracleではファイル・システムを介さずにディスクを操作する「RAWデバイス」を使用することが多いが,LinuxではRAWデバイスの数に制限がある点だ。調査の結果,米Oracleが提供するOracle Cluster File System(OCFS)を利用することで解決できるメドがついたという。

(高橋 信頼=nob@nikkeibp.co.jp)