オープンソースのライセンスは,GPLやBSDライセンスなど様々な種類がある。改変部分のソースコードを公開する必要があるか,他のソフトウエアと組み合わせた場合,公開すべき範囲がどこまで波及するかなどが異なる。正しく理解しないと,ライセンス違反となる場合がある。

表1●各種オープンソース・ライセンスの比較
財団法人ソフトウェア情報センター「オープンソース・ソフトウエアの利用状況調査/導入検討ガイドライン」(http://www.meti.go.jp/kohosys/
press/0004397/1/030815opensoft.pdf
)56ページより抜粋

 このところ,Linuxをはじめとするオープンソース・ソフトウエアの採用が,官民を問わず世界中で相次いで進められている。その一方,後述のSCO問題が象徴しているように,オープンソースを使用したシステムの構築に不安な影を投げかける事件も発生している。こうした不安の根源を探ってみると,商業ソフトと比べてライセンス形態が特殊であることに起因している部分が多い。

 本稿では,法的側面からオープンソース・ライセンスについて解説し,ユーザー企業やシステム・インテグレータが注意すべき点を説明する。

 以下では代表的なライセンス条項として,Linuxに適用されていることでも有名な「GNU一般パブリック・ライセンス(GPL:GNU General Public License)」と,BSD系UNIXなどに適用されていることで有名な「BSDライセンス」を中心に取り上げる。他のライセンスや,それら特徴については,表1を参照していただきたい。

■GPLの概要:クローズドなソフトへの転化を防止

 GPLの本体部分は,全部で12条から成り立っている*1

 まず第0条は,GPLが適用されたソフト(以下GPLソフト)の複製,頒布,改変以外の行為は,GPLによるライセンスの範囲外であるが,実行については制約がないと明記する。したがって,ユーザーは何ら制約なく自由にGPLソフトを実行することができる。

 第1条は,GPLソフトのソースコード入手者が,そのままの形で複製して再頒布できる権利を認めている。再頒布時にGPLを添付することなどが条件とされ,私有ソフトと異なりユーザーからライセンス料を徴収することはできない。しかし,手数料の徴収や,有償で「交換における保護の保証」を行うことが許されており,これによってLinuxなどGPLソフトのディストリビューションを事業として存立させることができる。

複製・頒布の際はソースを入手可能にする

 第2条は,入手したGPLソフトの全部又は一部に改変を加えて「本プログラムを基礎にした著作物(work based on the Program)」を作る権利,そしてそれを第1条の条件で複製して頒布する権利をユーザーに付与している。

 「本プログラムを基礎にした著作物」は第0条で「the Program or any derivative work under copyright law」と定義されている。ここにある「derivative work」という言葉は従来,わが国で「派生物」と邦訳されてきた。しかし,著作権法上の(under copyright law)という形容詞が付けられている。FSFの母国である米国の著作権法では,第101条で “derivative work”という用語の定義規定が置かれており,日本の著作権法に言う「二次的著作物」概念に対応しているから「derivative work under copyright law」も,「著作権法上の二次的著作物」という訳語が,より適切であろう。

 とは言っても,同条の具体的な定義内容と,GPL第0条のそれとは内容が異なる点もあり,また動的リンク・静的リンクのうち,どの程度の範囲が該当するかという点など,未解明な点も多い。

 第2条に戻ると,ここで注意すべき点は,GPLでは改変して「二次的著作物」となったプログラムの複製と頒布は,あくまでもユーザーの「権利」として規定されているにとどまり,複製して頒布する「義務」は課せられていないという点である。したがって,改変を加えたユーザーが自ら使い続ける限度では,改変して「二次的著作物」となったプログラムを頒布する必要はない。ユーザーが個人ではなく組織の場合も同様であり,FSFが発表するFAQ(http://www.gnu.org/licenses/gpl-faq.html)では,「ある組織は,改変バージョンを用意してそれを組織外に公開することなく内部で利用できます。」と明記されている。

 なお,前記FAQでは,GPLソフトの改変を受託した者は「委託者がOKするまで公開しないことに同意する契約を受けることができる」とする。

 これに対し,改変した者が,自ら進んで複製して頒布を行う場合には,第1条の条件を満たす必要があるほか,一定の条件が課される。その中心となる点は,改変の事実と日時の明示と,第三者に無償でライセンスすることである。

 現在,米SCO Group(旧Caldera)が自ら著作権を有するUNIXのコードがLinuxに無断で取り込まれ著作権が侵害されたと主張,米IBMを相手取って損害賠償を求める訴訟を起こし,話題になっている。これに対し,オープンソース・コミュニティ側は,LinuxディストリビューターとしてSCOが,こうしたコードが付け加えられた形で頒布してきた以上,本条に基づきユーザーに無償ライセンスを与えたことになると反論している。

 第1条および第2条は,入手したGPLソフトをそのまま,もしくは改変プログラムをソースコード形式で複製・頒布する場合であるのに対し,第3条は,オブジェクト・コードまたは実行形式で複製して頒布しようとする場合を定めている。

 この場合,クローズドなソフトに転化することを防止してユーザーの自由を守るために,ユーザーが希望すればソースコードを入手可能にしておく必要がある。そのためソースコードを一緒に添付するか,あるいは手数料と引き換えに提供する旨の書面を添えることが条件となっている。頒布者がオブジェクト・コードなどだけしか入手していない場合には,例えばソースコードのダウンロードが可能な特定のインターネット・サイトのURLなどに関する情報を告知するなど,当該頒布者が得た情報を一緒に引き渡す方法でもよい(この方法は無償頒布の場合に限られる)。

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岡村久道(おかむら・ひさみち)氏

弁護士,近畿大学・奈良先端科学技術大学院大学兼任講師。専門分野はサイバー法、知的財産権法など。「迷宮のインターネット事件」(日経BP),「個人情報保護法入門」(商事法務),「サイバー法判例解説(別冊NBL)」(編,商事法務)「企業活動と情報セキュリティ」(監修,経済産業調査会)など著書多数。ホームページはhttp://www.law.co.jp/okamura/