Linuxと商用UNIXはどこが違うか

 そして,商用UNIXと高い互換性を持つことも利点である。LinuxをOSとして見た場合,多くの部分は商用UNIXと同じプログラムで構成されているからだ。

 Linuxは,Linus Torvalds氏によって作成されたOSと言われる。しかし,この表現は必ずしも正確ではない。Torvalds氏(より正確には彼をリーダーとするグループ)が開発したのは,OSの中核であるカーネルと呼ばれる部分である。通常OSと言われてイメージするコマンドやライブラリ,その上のサービスの多くは,別のグループが開発したものだ。カーネルと,これらのオープンソース・ソフトウエアをパッケージ化したものが,Red Hat LinuxやTurbolinux,MIRACLE LINUXなどのLinuxディストリビューションだ*2

 そして,LinuxはUNIXの標準規格であるPOSIXに準拠して開発され,UNIXと高い互換性を備えた。その上で動いているコマンドやライブラリ,サービスの多くは,商用UNIXでも,そのまま使用されているプログラムを持ってきたものだ。例えば,Linux上で標準となっているWebサーバー・ソフトウエアはApacheだが,商用UNIX上でもApacheは標準である。英Netcraftの2003年3月発表の調査によれば,Apacheはインターネット上のWebサーバーの62.5%を占める。このほか,DNSサーバーのbindやWindows互換のファイル/プリント・サーバー機能を提供するSambaなど,多くの基本ソフトウエアが商用UNIXとLinuxで共に動作する。そのため,機能において商用UNIXとLinuxはほとんど差がないと言うことができる。

 では,商用UNIXに比べたLinuxの制限は何か。制限は,その違いであるカーネル部分に起因する。カーネル部分は,ハードウエアの制御やメモリー,プロセスの管理,ファイル・システムなどを司る。

 サーバー・メーカー各社は,自社のUNIXをハードウエア・アーキテクチャに最適になるようカーネルを改良,調整している。そのため,Linuxは商用UNIXに比べると,まだ大規模,高負荷な用途ではUNIXに比べてと弱いとされている。もちろん,改良に向けた努力は行われているものの,例えば,CPU数の多いマルチプロセッサ環境や,データベース・サーバーのようなファイル・システムに過大な負荷をかける用途,ネットワークに過大な負荷をかける用途には,現時点ではLinuxはまだ商用UNIXに比べると見劣りがする。

基幹に必要な機能は揃っているか

図2●インターネット上のサーバーのOS別シェア
調査会社英Netcraftによる2000年7月発表の調査結果(http://www.netcraft.com/survey/
index-200007.html
)に基づく

 基幹システムに必要とされるミドルウエアは,ほとんどLinux上に移植されてきている(図2[拡大表示])。

 データベースシステムについては,Oracle,DB2など,ほとんどの主要DBMSがLinux上で動作する。アプリケーション・サーバーも同様だ。WebLogic ServerやWebSphere Application Serverなどがそろっている。

 運用監視ソフトも,日立製作所のJP1やNECのWebSAMなどがLinux上で動作する。

 Linuxマシンをクラスタリングし,1台のサーバーに障害が発生したとしても,残りのサーバーで処理を継続できるようにするためのソフトウエアも揃っている。NECのCLUSTERPROや米SteelEyeのLifeKeeperなどが既に実績がある。

 Oracle9iのクラスタリング機能であるRAC(Real Application Cluster)は,最近国内での実績が出てきたばかりだが,既にLinux版がツタヤ オンラインで稼働している。

 もちろん,Linuxではまだできないこともある。まず,特定の業務専用のアプリケーションはまだまだ数が少ない。また,商用UNIX上の業務アプリケーションも,すべてLinux上に移植されているとはとても言えない。特定業種向けパッケージ・ソフトウエアなどは,現状ではWindows上で動作するソフトウエアが圧倒的と思ってよいだろう。

無償,無保証で大丈夫なのか

 よく言われるのが「商用のソフトウエアはサポートがある,Linuxのようなオープンソースではサポートがなく,すべて自己責任である」ということである。

 しかし,実際に,商用ソフトウエアの利用許諾を注意して読んでみると,まず間違いなく「ソフトウエアを使用した結果に対しては無保証」という記述がある。言葉上からはオープンソース・ソフトウエアと差がない。

 もちろん,実際にはほとんどのベンダーは何かあったときに,サポートを提供する。しかしそのサポートは,そのソフトウエアの動作が正しいことを「保証」するものではない。サポートの範囲において最大限の解決方法や,問題に対応した修正版を提供する,というレベルのものだ。

 オープンソース・ソフトウエアに対しても,有償のサポート・サービスを提供しているインテグレータやメーカーが存在する。IBMや富士通,NECといったメインフレーム・メーカーもがオープンソースに正式にコミットしている。このような有償サービスやサポートを活用すればよい。

太田俊哉(おおた・としや)氏

日本Sambaユーザー会 代表幹事
1999年に日本Sambaユーザー会の設立に参加し,2001年から代表幹事を務める。大手電機メーカーで,メインフレームやUNIXなどのSEを経て,現在はオープンソース・ソフトウエアに関する評価やサポートを担当している。『実践Perl DBI CGIによるWebデータベースの制御と応用』(ソフトバンクパブリッシング)など著書多数。