Point
1. グループ会社9社にERPパッケージを導入
2. R/3とEAIツールを活用し,開発コストを2億円削減
3. 外部インタフェースを標準化し,運用保守性を向上

図1●EAIツール導入の工夫点とその効果
SAP R/3を中心とする四電グループ総合業務システムは,既存の36システムとの連携にEAIツールを用いた。運用管理面などで作り込みを行ったが,EAIツールをうまく活用したことで,開発費の削減や運用保守性の向上を実現できた
 ERPパッケージ(統合業務パッケージ)とEAI(Enterprise Application Integration)ツールをうまく活用し,開発コストを2億円削減できた企業がある。四国電力である。

 同社は4月1日,「四電グループ総合業務システム」を稼働させた。業務プロセスの効率化を目指し,ERPパッケージである「SAP R/3」を導入すると同時に,R/3と既存の36システムとの連携用に米SeeBeyondのEAIツール「e*Gate」を採用した。

 e*Gateの採用によって,業務で使うコード番号や項目属性,レイアウトなどの変換作業をEAIツールに切り出せた。また,開発の標準化を徹底し,開発効率も向上できた。例えば,仕様変更などで項目の追加や変更があった場合や,連携先のシステムが変更になる場合でも柔軟に対処できた。これは稼働後の,運用段階になっても臨機応変にシステム変更を行えるという運用保守性の向上にもつながる。

 結果的に,R/3のアドオン開発は当初予想された300本から150本に半減させることができ,そのぶん開発コストは2億円削減できた(図1[拡大表示])。

既存システムは改修したくない

 今回のプロジェクトは,四国電力の黒田晃氏(情報通信本部 情報システム部 経営革新チーム 課長)を中心に2001年ごろから構想されていた。「グループ内のルーチン業務を集約すると同時に,管理会計の切り口を取り入れてグループ経営の強化を目指す」(黒田氏)という考えで,生産管理以外へのSAP R/3の導入を決めた。

 2002年度から正式にプロジェクトとしてスタートし,1年間を業務設計に,次の2003年度の1年間を開発期間にあてた。導入対象となった会社は四電グループ9社。導入したSAP R/3のコンポーネントは6種類で,それに加えて経営管理用のSAP SEMとデータ・ウエアハウス用のSAP BWも同時に導入した。

 四電グループ総合業務システムを活用するには,既存の36システムとの連携が不可欠だった。一方で,「既存システムはできる限り改修しない」(今回のプロジェクトの中心的な役割をしたSTNet 情報システム本部 システム開発部 マネージャー 久米洋介氏)ことが開発方針だった。

 そこで,既存システムのレイアウトに合わせてR/3のインタフェースを設計するために,業務分析を行った。その結果,R/3のアドオン本数が約300本も必要なことが分かった。グループ各社で独自開発したシステムは,開発を担当したベンダーもまちまちで,運用も各社でいろいろなパターンがあったためだ。仮に,すべてをR/3の開発言語ABAPでアドオン開発した場合,開発工数や運用コストの増加,保守性の低下,バージョンアップ時の工数の増大など影響が広範囲に及ぶことが分かった。

実際にテストしツールを決定

 四国電力は,既存システムとの連携について業務面から見直すとともに,EAIツールの適用を検討することにした。EAIツールを使えば,アドオン開発を減らせると考えたからだ。

 EAIツールを選択するに当たり,まず5製品について机上評価を行った。評価した項目は4つ。(1)基本性能として,ファイル連携・コード変換・メッセージ連携ができること,(2)個別機能として,R/3の外部標準インタフェースであるBAPIやIdocとの連携や,IBMメインフレームとリアルタイムに連携できること,(3)性能,(4)拡張性――である。この4項目をカタログやマニュアル,EAIツールを提供するベンダーからの情報を基に評価した。

 机上評価の結果,2製品に絞り込み,今度は試行評価を実施した。テスト環境を実際に構築し,各製品についてインタフェース8本を開発。基本性能や操作性,開発生産性を評価した。試行評価で,カタログだけでは見えなかったことも分かった。例えば,試行評価したあるツールはIBMのメインフレームと同期連携できるとしていたが,「実際にデータを送ることはリアルタイムでできるが,場合によってはメッセージを非同期で返す作りになっていた」(STNet システム運用部 BASISチーム 小手川拓氏)。また,今回の案件と類似したシステムの導入企業にも訪問し,先行ユーザーの生の声を聞いた。結果としてe*Gateを選択した。


(岡本 藍)