Point
1. 機密書類の管理にICタグを採用
2. セキュリティを高めつつ,社員の利便性も同時に高めた
3. 市販のパッケージでは要件を満たせず,スクラッチで開発

図1●顧客の納税に関する書類をICタグで管理
機密情報が含まれる書類をICタグで管理してセキュリティを強化するとともに,社員の利便性も高めた
図2●ファイルの貸し出し/返却手順
ファイルに張り付けたICタグと,社員に配布したICカードを,専用のリーダー/ライターに読み込ませて貸し出し/返却処理を行う。この手続きをせずにセキュリティ・ゲートを通過しようとすると警告ブザーが鳴る
 どの書類がどこにあるのかをすぐに調べられるようにしたい――。KPMG税理士法人は2004年1月,機密書類をとじたファイルをICタグで管理するシステム「Central Filing System」をカットオーバーした(図1[拡大表示])。ファイルの裏表紙の内側にICタグを張り付け,誰が,いつ,どれを持ち出し/返却したかを記録する。不正な持ち出しを防ぐ一方で,社員の利便性も高めた。

 ファイルの貸し出し/返却を管理するシステムは当初,市販のパッケージを利用して構築しようと考えていた。しかし,自社の要件に合った製品がなく,最終的にスクラッチで開発することにした。システム構築はエヌ・アンド・アイ・システムズが請け負い,ICタグやセキュリティ・ゲートなどを含めたトータルの構築コストは2000万円以上である。

貸し出し/返却を自動化

 KPMG税理士法人には,顧客の納税に関する書類をまとめたファイルが約2万5000冊ある。ファイルには,所得税や法人税などの内部資料,申告書の作成代行に当たって作成した基礎資料などが含まれている。税理士法に基づく守秘義務があるのはもちろん,外部に漏えいした場合は深刻な信用問題につながる。不正な持ち出しを防ぐための対策が不可欠となる。

 そこで,このファイルにICタグを張り付け,誰が,いつ,どのファイルを持ち出し/返却したかを管理するようにしたのがCentral Filing Systemである。具体的には,以下のような仕組みでファイルの不正な持ち出しを検知/防止する(図2[拡大表示])。

 まず,社員(税理士)はWebブラウザでファイルの貸し出し状況を確認する(同(1))。ファイルがファイリング・ルームにあることを確認できた場合は,ファイルを取りに行く((2))。ファイルを持ち出す場合は,ファイリング・ルームの出入り口にある貸し出し用のリーダー/ライターにファイルのICタグと社員のICカードを読み取らせ,貸し出しの手続きを行う((3))。出入り口にはセキュリティ・ゲートを設置してあり,この手続きをせずに通過すると警告ブザーが鳴る((3)')。ファイルを返却する場合も同様で,返却用のリーダー/ライターにファイルのICタグと社員のICカードを読み取らせ,返却の手続きを行ってからファイルを返却棚に戻す((4))。

24時間365日の持ち出し可能

 貸し出し/返却の処理を自動化したことで,24時間365日いつでもファイルを持ち出すことができるようになった。これまでは専任の担当者がファイルを管理していたため,その担当者がいる午前9時~午後6時の間しかファイルを持ち出すことができなかった。それ以外の時間はファイリング・ルームが施錠されてしまうため,不便に感じることが少なくなかった。例えば,「深夜や早朝に米国や欧州の顧客と電話で会議することがある。あらかじめ分かっていれば事前にファイルを取り出しておけるが,急な会議でファイルが必要になることもある」(コーポレート タックス サービス パートナー/税理士 中村智彦氏)。新システムでは,こうした不便さが解消され,「顧客へのクイック・レスポンスが可能になった」(同氏)。

 社員がWebブラウザを使ってファイルの貸し出し状況を確認できるようになった効果も大きい。「ファイリング・ルームに行ったらファイルがなかった」といった無駄はなくなる。

(榊原 康=sakakiba@nikkeibp.co.jp)