Point
1. 32台の部門ファイル・サーバーを撤廃し,1台の大型NAS装置を導入
2. Active Directory環境が必要になったが間に合わずSambaで代用
3. 「遅くて使えない」「アクセスできない」――などのトラブルを経験

写真1●プロジェクトの担当者
三菱重工業 高砂製作所 総務部 システム課 主任チーム統括 内海泰史氏(左)と同 システム課 金沢孝平氏(右)
図1●新旧のファイル・サーバー環境
以前は部門のファイル・サーバー32台のうち,20台以上はバックアップが確実に取られていなかった。運用負担を上げずにバックアップを確実に取るため,ファイル・サーバーを1台のNAS装置に統合した
図2●NAS装置の導入スケジュール
選定したNAS装置(富士通のETERNUS NR1000F)を導入するには,米MicrosoftのActive Directoryが必要だった。Active Directoryの導入が延期されたためSambaを一時的に代用。Active Directory導入後はSamba環境下のファイルを変換して利用した
 部門ファイル・サーバーのバックアップ実施率は3割――。「このままでは万一の時に業務に支障を来たす」と三菱重工業の金沢孝平氏(高砂製作所 総務部 システム課,写真1右[拡大表示])は危機感を抱き,同社はバックアップが確実に取れる環境を目指すことになった。選択した方法は,大型NAS(Network Attached Storage)装置の導入である。部門ごとのファイル・サーバーを撤廃して1台のNASに統合。そうすればバックアップは確実に取れる。

 金沢氏は,「NASを大きなファイル・サーバーみたいなものと考えていたが,導入はそれほど簡単ではなかった」と振り返る。NAS装置ではなく,NASのユーザー認証環境などがトラブルの根源になった。

「リスクが大きくなるばかり」

 三菱重工業 高砂製作所(兵庫県高砂市)で情報システムを担当する金沢氏は2001年11月,部門に設置していたファイル・サーバーのバックアップ実施率を調べた。結果は高砂製作所にある32台のサーバーのうち,バックアップを確実に取っていたのは約10台。7割のサーバーは取っていなかった。

 「バックアップを取っていなければ,サーバー上で失われたファイルは復元できない。何も起きなければいいが,ハードウエアはいつか壊れる。このままの状態ではリスクが大きくなるばかり」(金沢氏)との思いから,部門ファイル・サーバーの見直しを始めた。バックアップを取るのは,部門ごとのサーバーの管理者が担当している。しかし管理者の運用スキルにばらつきがあり,通常の業務の合間に作業をするため,確実にバックアップを取ることが難しい。「(バックアップを)人手で行うのは限界」(三菱重工業 高砂製作所 総務部 システム課 主任チーム統括 内海泰史氏,写真1左[拡大表示])に来ていた。

 統合したファイル・サーバーをシステム担当者の管理下に置き,そこで確実にバックアップを取るしかないとの結論を導き出した。部門からファイル・サーバーの新設要求があったが,2002年4月からそれらを凍結。2003年3月のカットオーバーを目指して,部門ファイル・サーバーの統合プロジェクトが動き出した(図1[拡大表示])。

「SANは自力で運用できない」

 ファイル・サーバーを統合するには大容量のディスクが必要になる。大型のディスク装置を1台導入する案と,多数のPCサーバーを一カ所にまとめて導入する案があった。試算では両案の初期コストは同程度。運用は,台数が少ない方が作業も少ない。また,大型のディスク装置にはバックアップ機能が豊富に備わっている。金沢氏は,大型のディスク装置に注目した。

 大型ディスク装置には,大きくSAN(Storage Area Network)向けのディスク装置とNAS装置がある。SANとNASのどちらが良いのかを独自に情報収集し,コスト面などからNASが有利と見ていた。その後2002年4月から8月にかけて,イーエムシージャパンや日本IBM,デル,富士通などから提案を受けた。三菱重工業のほかの事業所でSANを導入しているシステムがあり,そのシステムの担当者にも話を聞いた。

 それらの情報を総合した結果,「SANとNASでコストに大きな差は無いが,運用に違いがあることが分かった。SAN対応のディスク装置を使うとベンダーのエンジニアを常駐させることになり,自力では運用できない」(金沢氏)。金沢氏はベンダーに頼らなくても運用できることを重視し,NASに決めた。複数世代のバックアップを少ないディスク容量で取る「スナップショット」機能が搭載されていることなどから,富士通のNAS装置「ETERNUS NR1000F」を選定した。

ADが必要だが間に合わない

 ETERNUS NR1000Fを導入するには,ユーザー認証などのために米MicrosoftのActive Directory(AD)を導入する必要があった。2002年8月当時,三菱重工業は本社が主体となって全社的にActive Directoryを導入中であり,高砂製作所には2003年2月に導入する予定だった。

 しかし2002年11月,Active Directoryの導入が遅れるとの情報が入った。統合ファイル・サーバーの稼働予定日までに,Active Directory環境を構築することは不可能になった。稼働予定日を延期したいところだが,部門ファイル・サーバーの新規購入を凍結していることなどから,一部の部門だけでも予定通りに使えるようにしなければならない。

 この状況を解決するために,ベンダーの富士通から,SambaソフトをActive Directoryの代用にしようという提案があった。Sambaとは,UNIXやLinuxのサーバーを,Windowsのファイル・サーバーとして使えるようにするためのソフト。Linuxサーバーを1台用意し,そのサーバーの配下にETERNUS NR1000Fのディスクをマウントする。Active Directoryが導入されるまではこのような構成で乗り切り,Active Directoryが導入されれば,SambaからActive Directoryに環境を変更しようと考えた(図2[拡大表示])。

(松山 貴之=matsuyam@nikkeibp.co.jp)