図1●Exchange Serverバージョンアップ作業の概要
 「本当の原因は何だったのか,今でも分からない」と首をひねるのは,松井証券のグループウエア移行作業を請け負った日立情報システムズの片山敏彦氏(ソリューションサービス事業本部 金融情報サービス事業部 第一設計部 主任技師 )だ。

 松井証券は現在,社内の情報共有のためにマイクロソフトのグループウエア「Exchange 2000 Server」を利用している。しかし,実は昨年の夏から秋にかけて,旧バージョンのExchange Server 5.5から現在のExchange 2000 Serverに移行する際に,2つの大きなトラブルに見舞われた。一つは,ディスク・アクセスの障害。もう一つは,データ移行の障害である(図1[拡大表示])。

 情報システム部門とインテグレータの試行錯誤と奮闘努力によりトラブルは何とか乗り切ったが,一時は「頭を丸めて社員に謝るしかないと覚悟した」と松井証券 総務部 システム課長 樋口昭博氏は振り返る。

 両社が進めたプロジェクトは,社内情報システムのWindows NT環境から同2000環境への移行である。4つあったNTドメインを1つのActive Directoryに統合する。併せて,Exchangeをバージョンアップして,これもActive Directoryに統合する。

 Active Directoryの構築は全く問題なく終了した。Exchangeのバージョンアップに進んだところで,予期せぬ事態が勃発した。

難しくないはずだった

 日立情報システムズは今回,Exchangeのバージョンアップの方法として“メールボックス移動方式”を採用した。これは,Exchange 5.5が稼働している既存ハードを捨て,新しいハード上にExchange 2000環境を構築してデータを移行する方法である。

 作業の手順は,(1)新規ハードにExchange 2000をインストールする,(2)Active Directoryの管理ツールからExchangeタスクを起動し,メールボックスなどをExchange 5.5からExchange 2000に移動する,(3)Exchange 2000にクライアントを接続する,の3つ。

 片山氏のチームでは念を入れて,社内のPCを使ってテスト環境を整えた。テストは何事もなく完了した。

最悪のタイミングで不具合

図2●最初のトラブルの概要
重要なデータを移行しようとした矢先に,ハード障害が発生。再起動しても修復せず,バックアップ・データのリストアにも失敗。半日ですむはずの作業が2週間に及んだ

 最初のトラブルは,移行作業の直前に起こった(図2[拡大表示])。作業に移る前に片山氏は旧サーバーに未適用のパッチをあて,その上で移行作業に取り掛かることにした。業務が止まる週末の半日でその作業を終わらせる予定だった。

 ところが,作業直前に不具合が起きた。SCSI接続している4つのハードディスクのうち,1つがアクセス不能になってしまったのだ。Exchange 5.5を稼働させていたPCサーバーはもともと不具合が多く,ディスクにアクセスできなくなることがたまにあった。

 「いつもは再起動すれば直るのに,この時だけは何度やってもダメだった」(松井証券の樋口氏)。そこでテープからのリストアを図る。不幸なことに,使っていたバックアップ・ソフト「VERITAS Backup Exec」の利用方法を把握している樋口氏はこの日出勤しておらず,電話で作業担当者に操作手順を説明した。ところが,これでも何度やっても復旧しない。

 このディスクには,メールボックスやパブリックフォルダを含むインフォメーションストアという重要なデータが格納されている。これがないと移行作業を始められないばかりか,週明けからの社内の業務が止まってしまう恐れすらある。樋口氏は,電話口で青ざめていた。

 結果的には,Backup Execの単純な操作ミスであることが後で判明する。もちろんこの時は,そんなことは分からない。最後の手段として代替機を用意し,そこにディスクを移し替え,データを読み込ませることにした。

 代替機に旧環境と同じExchange 5.5をセットアップし,そちらにパッチを適用。その上でインフォメーションストアを格納したディスクを旧サーバーから代替機に付け替えた。これは,うまくいった。万全を期すため代替機の動作検証を翌週末に行ったので,半日作業に2週間を費やしてしまった。

 加えて,移行が完全に終了するまでユーザーは遅いレスポンスに我慢を強いられる羽目になった。急を要したこともあって,代替機にスペックの低いサーバーを選んでしまったからだ。


(尾崎 憲和=ozaki@nikkeibp.co.jp)