情報漏えい対策の一つとしてシン・クライアント製品の発表ラッシュが続く中,USBメモリーからOSをブートする新しいタイプの製品が登場し始めた。既存のPCを流用することで,専用端末と比べて半値以下の機器コストで済む点が特徴である。シン・クライアントの新たな選択肢となりそうだ。

表1●USBメモリーからブートするシン・クライアント製品の例
表1●Berry OS Enterprise
図1●USBメモリー型シン・クライアントの主な利用形態
SUSE Miniの例。業務アプリケーションはサーバー上で稼働し,画面情報のみをクライアントに転送する利用形態が想定される
図2●Windows XPから不要なファイルをそぎ落としUSBメモリーに格納
ロムウィンの専用ツールを利用すれば,Windows XPマシン上でアプリケーションを起動することでそのアプリケーションの動作に必要なファイルのみを自動的に検出し,ファイルを抽出してUSBメモリーに格納できる
 シン・クライアントとは,ハードディスクを搭載せず,ローカルにデータを保存する仕組みを持たない端末のこと。USBメモリーからOSを起動する新しい製品群(表1[拡大表示])は,クライアントにデータを書き込めないためPCをシン・クライアントとして利用できる。

 この「USBメモリー型シン・クライアント」の先陣を切ったのがBerry OS Japan。Linuxディストリビューションの「Berry OS」をベースにした「Berry OS Enterprise(USB版)」(写真1)を6月中旬から出荷開始した。価格は2万円から。同社代表取締役 社長の大場章弘氏は,「既に『モバイルPCで顧客情報にアクセスする用途で利用したい』といった商談が始まっている」と,大きな手ごたえを感じている。

 NTTコムウェアとノベルがそれに続く。両社は6月1日~3日に開催された「LinuxWorld Expo/Tokyo 2005」の会場でUSBメモリー型の「SUSE Mini」を参考出品した。ノベルの「Linux Desktop 9」をベースに開発した製品は,8月に出荷予定である。本誌執筆時点でSUSE Miniの価格は未定だが,「1台5万円前後のシン・クライアント専用端末と同じ価格帯では勝負にならない」(NTTコムウェア オープンソースソフトウェア推進部 OSS企画部門 北山秀安氏)としており,OS込みで2万円前後となる見通しだ。

画面情報を送受信する利用形態が主

 SUSE Miniを例に,USBメモリー型シン・クライアントの主な利用形態を説明しよう。まず,ユーザーは既存のPCのUSBポートにメモリー装置を装着してOSをブートする(次ページの図1[拡大表示]の(1))。必要に応じてBIOS画面でOSの起動設定を変更しておく。PCをシン・クライアント専用端末として利用するなら,PC内のハードディスクは無くても構わない。

 次に,起動したOS上でRDPまたはICAクライアントを立ち上げ,サーバー上のアプリケーションにアクセスする(同(2))。PCからサーバーへは,キーボードおよびマウスの入力情報を送信。PCへは画面情報を送信,データはサーバーに保存する。仕組みや考え方は,画面転送型のシン・クライアント専用端末(本誌2005年6月号レポート「情報漏えい対策で注目集めるシン・クライアント」を参照)と同じだ。

 SUSE Miniは標準でVPN接続に対応している。サーバー側でVPN接続の入り口さえ用意しておけば,USBメモリーを持ち運んで自宅のPCから社内のサーバーにアクセスするといった使い方も可能となる(同(3))。

 Berry OS Japanの製品には,RDP/ICAクライアントが標準搭載されていないが,「ユーザーの要望に応じて,搭載アプリケーションは柔軟にカスタマイズする」(大場氏)としており,図1と同様の利用形態が可能となりそうだ。同社は,モバイル・ユースの需要を見込んでおり,日本通信のPHSデータ通信カードの動作確認作業を進めている。

Windows XPを搭載した製品も登場

 USBメモリー型のシン・クライアント製品の中で,異彩を放っているのがロムウィンの「USB-ROM」である。なんとUSBメモリーの中に,Windows XPそのものを格納してしまった。最大の特徴は,市販されているWindows XP向けアプリケーションや周辺機器がそのまま利用できる点である。「SIベンダーと協業しながら指紋認証装置などと組み合わせたソリューションを提案していきたい」(取締役専務 西村和之氏)。

 USB-ROMのもう1つの特徴は,ユーザー自らがUSBメモリーに格納するアプリケーション群を自由にカスタマイズできる点である。仕組みはこうだ。Windows XPを搭載したPCに同社の専用ツール「スティックライト for USB」をインストールしておき,PC上でUSBメモリーに組み込みたいアプリケーションを起動する。この操作により,アプリケーションの起動に必要なファイル群をツールが自動検出する。検出したファイル群をUSBメモリーに格納し,最後に書き込みできない処理を施せば作業は完了だ。

 通常,Windows XPをハードディスクにインストールする際には1.5G~2GBのディスク容量が必要だが,Webブラウザを動作させるだけの環境であれば約150Mバイトの容量で済む(図2[拡大表示])。Windows XPに標準搭載されているアプリケーションに限らず,ICAクライアントやAdobe Readerなどのアプリケーションについても同様の操作でUSBメモリーに格納できる。

 気になるライセンスだが,すでにWindows XPを利用しているユーザーが,同じXPマシン上で利用するのであれば追加負担は発生しない。「ライセンス違反が起きないように,OSイメージを作成したマシンでのみ稼働する仕組みにする予定」(西村氏)という。

 USB-ROMと似たような製品としては,米MicrosoftのWindows XP Embeddedがある。必要なコンポーネントを選択してOSイメージを作成したり,XP用のアプリケーションや周辺機器がそのまま利用できたりする点は同じだ。ただし,XP Embeddedを利用するには,別途ライセンスを購入する必要がある。また,OEMライセンスしか提供されていないため,インストール作業はOEMベンダーに限られるといった制約もある。

(菅井 光浩)