クライアントOSとしてのLinuxに注目が集まっている。昨年秋の「Lindows(Linspire)」ブームは沈静化したものの,Windowsライクな使い勝手を提供するOSやオフィス・ソフトの登場で息を吹き返した。クライアントOSとしてLinuxは選択肢になり得るのか――現状と課題を探った。

図1●Linux搭載PCの店頭販売を開始したソフマップ
2月中旬からLinux搭載パソコンの販売をソフマップ1号店「Chicago パソコン・デジタル館」(東京都千代田区)で開始。東京フォレックス・フィナンシャルのノートPCモデルなどを取り扱っている
図2●企業ユースのクライアントOSとしてLinuxが備えるべき条件
既存ユーザーの多くがWindowsを利用しているため,Windowsに馴染みのあるルック&フィールは必須。日本語入力システムやキラー・アプリケーションの拡充,大手PCベンダーによる安定供給なども重要な要素となる
図3●Turbolinux 10 Desktopの画面例
Windowsユーザーに違和感を抱かせない画面や操作性の実現に力を入れた
図4●米Sun Microsystemsが開発中のJava Desktop Systemの画面例
(1)アイコンや(2)ファイル管理画面,(3)起動メニューなどは,いずれもWindowsユーザーに馴染みのあるルック&フィールを採用。国内では5月の発表が濃厚で,価格は5000~6000円/年になる見通し
表1●主要PCベンダーのLinux搭載パソコンへの取り組み状況(調査は4月上旬)
 いち早く反応したのが,ユーザー・ニーズに敏感な量販店。ソフマップは今年2月中旬からLinux搭載PCの店頭販売を開始した(図1)。取り扱う製品は東京フォレックス・フィナンシャルの「LINASIS」シリーズ。ソフマップ 総合企画部 広報・IR室 室長の松田信行氏は販売開始した理由について,「メールとブラウザ,オフィス文書の作成用途であれば実用域にきたから」と説明する。Windowsのユーザーが2台目以降のパソコンとして購入していくケースが多いという。「価格もWindows機と比べ最大で4~5万円安いのでウケている」(同氏)。

 昨年末からLinux搭載PCを販売しているPCデポは,6月以降に注文生産を店頭で受け付ける。「昨年秋頃から“Linux機は扱わないのか”と店頭で質問されることが増えてきた。自社生産に踏み切り,品揃えを拡充する」(商品部マネージャー 齋藤秀樹氏)。

Windows似の画面が好評

 サーバーOS市場において一定のシェアを獲得したLinuxだが,クライアントOS市場は相変わらずWindowsの寡占状態が続いている。しかしここにきて,クライアントに求められる条件をLinuxが備え始めるなど状況が変化,普及にはずみがついてきた(図2[拡大表示])。

 変化の1つがWindowsに似たルック&フィールの実現。ターボリナックスが昨年末に出荷した「Turbolinux 10 Desktop」のGUI画面は,Windowsのそれに近い(図3[拡大表示])。日本語入力システムにはジャストシステムの「ATOK」を,MS明朝/ゴシックに準拠するリコーの「TrueTypeフォント」を採用し「Windowsから乗り換えても違和感を感じないように工夫を凝らした」(ターボリナックス 営業本部 クライアントグループ プロダクトマネージャ 久保和広氏)。同社は,1997年頃からLinuxのディストリビューションを提供してきたが,「“使い勝手がWindowsと異なる”という拒否反応が先行してしまいLinuxの良さが理解してもらえなかった」(同氏)反省を踏まえ舵を切り直した。

MS Office互換ツールが後押し

 もう一つ大きな変化は,米Sun Microsystemsが提供する統合オフィス・ソフト「StarSuite 7」の登場である。同製品は,MS Office形式のファイルの読み込みや編集,保存機能などを備える。これまでクライアントOSとしてのLinuxの可能性を語るとき,「メールやブラウザが使えてもOffice文書が扱えないなら検討に値しない」という意見は少なくなかった。StarSuite 6と比べMS Officeとの互換性をより高めたStarSuite 7の登場で,Linuxはビジネス・ユースの最低条件をクリアしたことになる。

 そのStarSuite 7を提供するサン・マイクロシステムズもLinuxディストリビューションの出荷準備を着々と進めている。5月中の発表が濃厚なのが「Java Desktop System(JDS)」(図4[拡大表示])。開発中の画面を見ると同製品もWindowsのルック&フィールを意識しているのがわかる。同製品にはStarSuite 7が組み込まれており「文書作成やメール,Webブラウザの閲覧がメインのビジネス・ユースで,Windowsパソコンの代替需要を狙う」(プロダクト・マーケティング本部 ソフトウェア製品事業部長 増月孝信氏)。価格は未定だが,米国で50ドル(1年間の利用料金)であることを考慮すると5500円前後になる見通しだ。

ベンダーは搭載機の出荷に慎重

 新OSやオフィス・ソフトの登場で足場を固めつつあるLinuxだが,本格的な普及には乗り越えるべき壁が残る。大手PCベンダーがLinux搭載機の提供に踏み切るかどうかである。

 ターボリナックスは3月16日,「米Hewlett-Packardとの間でTurbolinux 10 DesktopのOEM契約を締結した」と発表した。日本ヒューレット・パッカードも「一部PCにおいて動作検証は完了しつつある」(パーソナルシステムズ事業統括 デスクトップビジネス本部 本部長 平松進也氏)と認めるが,「それと販売開始とは別次元の問題。開始時期は未定」(同氏)とあくまで慎重だ。

 4月上旬に調査した時点では,他の大手PCベンダーも同様の姿勢を見せる(表1[拡大表示])。取り扱いを始めない理由としては「市場が成熟しておらずニーズがない」といった意見が多い。種類がいくつかあるLinuxディストリビューションの中で,どの製品を担ぐか決めかねているのも本音だろう。

 その中でも特にPCベンダーが懸念しているのは,サポート体制の整備の負担だ。LinuxのOEM供給を受けて販売するからには,サポートの一次窓口としての役割がPCベンダー側に発生する。「ニーズの手ごたえがないうちに体制を整えるのは投資のリスクが高い」(日本HPの平松氏)。

 この状況を打破すべく,OSベンダーが手を打ち始めた。ターボリナックスは,PCベンダーが二の足を踏むLinuxのサポート業務を肩代わりできないか,インテグレータと協議を進めており「年内をメドに体制を整えたい」(久保氏)とする。米Sun Microsystemsは米国でJDSのサポートをインテグレータのEDSに一任しており,国内でもサポート分野でインテグレータと協業すると考えるのが自然だ。サポートの負担が軽減されれば,大手PCベンダーがLinux搭載機の販売に踏み切る可能性は十分ある。

(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)