システムの移行時期を左右する大きな要因に,ソフトウエアのサポート期限がある。ユーザーからの不満が多かったこともあり,メーカー各社は現在その見直しを進めている。個別製品では,この1月にマイクロソフトがWindows98/Meのサポート期間を急きょ延長した。ほかにもOS,ミドルウエアの分野でいくつかの変化がある。

図1●主要ソフトウエア(OS,DBMS,APサーバー)メーカーの製品ライフサイクル
年数はミニマム。出荷は米本社での出荷年月日を指す
 ソフトウエア・サポートについての課題は「分かりやすくすること」と「期間を長くすること」。ソフトウエアのサポート期間は,メーカー/製品ごとに体系がバラバラで,ユーザーには分かりにくくなっているからだ。基幹システムに使っているソフトなら,長期間のサポートが望まれる。

 主要ソフトウエア・メーカーは現在,そうした問題の改善に向けて動き出している。

 動きの一つは,サポート体系の一元化。複数あるOSやミドルウエアを一つのサポート体系でカバーする。かつ,サポート終了日がなるべく同じタイミングで訪れるようにし,バージョンアップ計画を立てやすくする。日本IBMやサン・マイクロシステムズが,これに取り組んでいる。

 もう一つは,サポート期間の長期化。日本オラクルが新規修正プログラム(パッチ)提供期間の延長をサービス・メニューに加えたほか,日本BEAシステムズがサポート期間全体の長期化について社内で検討に入っている。

 一口にサポート期間と言ってもメーカーがフェーズを分けている。フェーズによって「パッチ提供の有無」「サポート料金の有無/格差」などが変わってくるため,メーカーごとのフェーズの考え方を正しく理解しておこう。さらに,個別契約で本来のサポート期間後もパッチの提供を受けられるケースは多いので,必要に応じて確認しておきたい。

 ここでは,OS,DBMS,アプリケーション・サーバーの主要製品を開発・販売するメーカー6社のサポートを解説する(図1[拡大表示])。文中,サポートの年数が出てくるが,最低限保証するとされている期間である。

日本IBM

全製品「3年以上」で統一

 日本IBMは,サポート体系の全体像が分かりにくいメーカーの典型だった。OS(AIX,OS/400など),ミドルウエア(DB2 UDB,WebSphere)など豊富なラインナップを持ちながら,各製品ごとにサポート体系を独自に設定してきたからだ。これを問題視した米IBMは2003年8月に「IBM Software Support Lifecycle」を発表。すべてのソフトウエア製品を一つのサポート体系に統一することを宣言した。現在,旧体系からの移行過程にある。

 Software Support Lifecycleの骨子は,(1)サポート期間は出荷から3年以上とすること,(2)サポート終了日は4月または9月に設定すること,(3)その告知はサポート終了日から1年以上前に行うこと,の3点である。対象ソフトウエアは,2003年1月以降に出荷した製品。

 2003年1~8月に出荷開始した製品については,既に告知した期限をいったん白紙に戻す。サポート終了日の1年以上前に,改定後のサポート期限を改めてWebサイトや販売パートナーを通じて告知する。

サン・マイクロシステムズ

ミドルウエアをSolaris流に

 サン・マイクロシステムズのソフトウエア製品も,IBMと同様の問題を抱えていた。特に,アプリケーション・サーバーをはじめとするミドルウエアや開発ツールの多くが買収によってラインナップに加わった製品なので,結果的にはサポートの体系が最も複雑に入り組むことになった。

 2003年10月に発表した「Java Enterprise System(JES)」では,乱れたサポート体系を統一することを目玉の一つに打ち出した。JESに含まれるミドルウエア製品群は,Solarisとほぼ同じ体系でサポート期間を設定することになる。

 Solarisは,2世代サポートが原則。2世代サポートとは,製品が出荷されてから,次々バージョンの出荷に合わせてサポートを終了するもの。現行バージョンと一つ前のバージョンをサポートの対象とし,少なくとも2世代ごとにはユーザーが製品をバージョンアップすることを前提とした考え方だ。

 Solarisは,出荷から次々バージョンの出荷日がバージョン終了日(End of Version)となる。そこから90日後を最終受注日(Last Order Date)とし,さらに90日後に最終出荷日(Last Ship Date)を設定する。新規パッチは最終出荷日から2年間提供。さらにその後3年間は既存パッチのみの提供を行う(セキュリティ・パッチは新規も提供)。1年半ごとに新バージョンが投入されると仮定すると計算上,出荷から新規パッチの提供終了までは5年半,サポート終了までは8年半となる。

 実際はもう少し長い。サポート終了日を明示しているSolarisの直近3世代(2.51,2.6,7)の実績を見ると,出荷から新規パッチ提供終了までは6年4カ月から7年。サポート終了までは9年4カ月から10年となっており,ルールを上回る期間,サポートを継続している。

 ただし,JESのサポート期間がこの通りになるかどうか,まだよく分からない。と言うのは,Solarisは2世代サポートを原則としているのに対し,サンはJESについて「サポート終了日の基準となるバージョン終了日をどういうルールで定義するか決まっていない」(プロダクト・マーケティング本部 ソフトウェア製品事業部長 増月孝信氏)からだ。

日本オラクル

延長サポートをメニュー化

 ソフトウエア・サポートに関して,分かりにくさと並ぶユーザーの不満は,サポート期間の短さだ。

 日本オラクルは,これまで21カ月のフル・サポート(新規パッチ提供有),3年間のアシスタンス・サポート(同無)を提供してきたが,それに加えて「延長メンテナンス・サポート(EMS)」を2003年11月に新たにメニュー化した。EMSは,新規パッチの提供が終わるフル・サポート終了後にも,コストを上乗せすることでさらに2年間新規パッチを提供し続けるサービスだ。

 ただし,EMSを提供するのは,メジャーバージョンの最終版のみ。Oracle8iならR8.1.7だけが対象で,同R8.1.5/R8.1.6はEMSの対象外である。そのため,R8.1.5(またはR8.1.6)のユーザーがEMSを利用するには,いったんR8.1.7にマイナーバージョンアップする作業が必要である。

 OSの制約もある。すべてのミドルウエアに共通することだが,下位層のOSのサポートが終了してしまったりすると,製品単体でのサポートは不可能になる。Oracle8i R8.1.7の中でもSGI Unix(IRIX),UnixWare,AIX 4.3.3などのOS版については,EMSの対象外となった。

 EMS対象外のバージョンと,対象のバージョンとではフル・サポートの期間自体にも差がある。前者が「21カ月以上」に対して,後者は半年長い「27カ月以上」。基幹系で使い続けるなら最終版にしておくのが無難なようだ。

 実は,「これまで公表してこなかっただけで,Oracle7 R7.3.4とOracle8 R8.0.6についてもパートナーを通じて個別にはEMSを提供してきていた」(サポートサービス本部 サポート営業部 マーケティンググループ シニアマネジャー 山崎亘氏)と言う。今回,ユーザーへの影響を考慮して広く告知することにした。

日本ヒューレット・パッカード

hp-uxは10年サポート

 日本ヒューレット・パッカードは,hp-uxについて現行バージョンの11iから「10年サポート」を打ち出した。出荷当初から10年間は新規のパッチを提供することをユーザーに約束するもので,ルール化しているものとしては主要ソフト・メーカーの中で最長。

 ただし,今のところ「10年サポートはhp-uxのみ。その他のOS,ミドルウエアについては,2世代サポートを適用する」(エンタープライズストレージ・サーバ統括本部 ビジネスクリティカルサーバ製品本部 OEマーケティング部 部長 栄谷政己氏)。HP OpenViewやTru64など他の主要ソフトはすべて従来からのこの方式を踏襲し続ける。

 また,クラスタ構成ソフトのService Guardのように,パッチを含めて数カ月おきに新バージョンをリリースする製品もある。Service Guardの場合,単体のバージョンの実績だけを見るとサポート期間は最長でも5年強と短いが,パッチを適用するのと同じようにバージョンアップを繰り返していくといった使い方になる。

マイクロソフト

98/Meの延長サポートを延長

 マイクロソフトは製品出荷当初からサポート期限をユーザーに告知している数少ないメーカーである。フェーズの考え方や製品/バージョンごとの具体的なサポート期限がWebサイト(日本語)で公開されている。

 サポートの骨格は次の通り。ビジネス系ソフトウエアの場合,5年間のメインストリームサポートの後,2年間の延長サポートを経て,新規パッチの提供を終える。サポート終了はその1年後となる。

 メインストリームサポートは,すべてのサポート・プログラム(無償サポート,時間制/インシデント制有償サポート,ホットフィックスサポート)を提供する。延長サポートでは,時間制/インシデント制有償サポートと,有償ホットフィックスサポートが提供される。

 Windows98は2002年6月に,WindowsMeも2003年12月に,メインストリームサポートを終了している。従って,1月15日に発表したWindows98/Meのサポート期限延長は,延長サポートの部分である。メインストリームサポートの延長ではないため,有償契約を結んでいないとサポートは受けられない,修正プログラムの提供内容に制限があるなどいくつかの制約がある。

日本BEAシステムズ

サポート期間長期化を検討中

 WebLogic Serverを販売する日本BEAシステムズのサポート体系はシンプルだ。3年間のサポートと,1年間のエクステンドサポートで構成される。両方とも新規パッチが提供されるなど,その内容に違いはない。エクステンドサポートに入ると料金が上乗せされるのと,契約が1年単位から1カ月単位に変わることだけが異なる。

 現在「サポートとエクステンドサポートのそれぞれの期間を長期化することを検討中」(グローバルカスタマサポート ディレクタ 齋戸日出夫氏)である。

(尾崎 憲和=ozaki@nikkeibp.co.jp)