Question 最大で20Mbpsを超えるサービスが登場するなどADSLの高速化が進んでいますが,どのような点を考慮して導入すべきでしょうか?

Answer 当面は12Mサービスを利用するのが無難です。企業向けに信頼性を高めたメニューも増えてきましたが,コストとのバランスに注意しましょう


図1●高速化が進むADSLサービス
ADSLサービスが開始された当初は下りの速度が512kbps程度だったが,その後1.5Mbps,8Mbps,12Mbpsと高速化が進み,現在では20M超サービスも登場している。2003年秋には50M超を実現する技術も出てくる予定だが,詳細は未定である
 ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)を,WANのアクセス回線やインターネット接続に利用する企業が増えています。サービスが始まった当初は下り速度が最大512kbps程度でしたが,その後高速化が進み,現在は20Mbpsを超えるサービスも登場しています(図1[拡大表示])。2003年秋には50M超を実現する技術も出てくる予定で,どのような基準でサービスを選択すれば良いのか悩ましいところです。

企業では12Mサービスが中心

 企業ユーザーの場合,安定性や実績などを考えると当面は12Mサービスの利用が中心になります。最近登場した20M超サービスはダブル・スペクトラムと呼ぶ方式を採用しており,下りの周波数帯域の上限を従来の1.1MHzから2.2MHzに拡大することで高速化を図っています。高周波になると距離減衰の影響を受けやすくなり,NTT東西地域会社の収容局から2km程度以内でないと高速化は期待できません。

 ノイズの影響も12Mサービスと20M超サービスで異なり,ユーザーの環境によっては20M超サービスが12Mサービスより遅くなるケースもあります。12Mサービスでかなりの速度が出ている“環境が良好なユーザー”でないと20M超の恩恵を受けられない可能性が高いです。

 2003年秋以降に登場予定の50M超サービスになると,恩恵を受けられるユーザーはさらに減りそうです。50M超ではクアド・スペクトラムと呼ぶ方式を採用し,下りの周波数帯域の上限を3.75MHzにまで拡大するためです。仕様が決まっていないので,詳細は不明ですが,過剰な期待は禁物です。

 既にADSLを利用しているユーザーの場合は,サービスを変更する手間とコストにも注意が必要です。ADSLモデムの再設定が必要になるだけでなく,NTT東西の収容局におけるポート変更,ISPのサービス変更手数料などがかかり,1拠点当たり最低でも5000円前後の移行費用が発生します。1.5Mbpsを利用しているのであれば移行する価値もありますが,12Mbpsからの移行となると効果が出るかどうかが微妙なだけにお勧めできません。

信頼性を高めたメニューも充実

 企業では速度よりも,むしろ信頼性の方が重要です。最近では,24時間365日の障害対応やバックアップ回線の用意など,企業向けに信頼性を高めたサービスが充実してきました。ただし,信頼性を強化していくとコストがかかります。信頼性にどこまでコストをかけるかを十分に検討する必要があります。

 ADSLは主に個人を対象としたベスト・エフォート型サービスです。そのため,企業で利用する場合は,スループットが保証されない,工事や障害による通信断が専用線に比較して多い,夜間や土日は障害対応を実施しないサービスが多い――といった点に注意する必要がありました。

図2●信頼性を高めるための工夫も進む
フレッツ回線の信頼性を高めるため,(1)地域IP網の終端装置の障害に備えてバックボーンへのトンネリング接続を2つ持つ,(2)(1)を実施した上でアクセス回線を2重化する,(3)(1)を実施した上でISDNのバックアップ回線を用意する――といったメニューを提供している通信事業者もある

 これまでもアッカ・ネットワークスの法人向けサービスのように,ある程度の帯域保証と24時間365日の障害対応を実施する事業者はありました。今後はこれに加え,NTT東西のフレッツ・ADSLでも24時間365日の障害対応を受けられるようになります。NTT東日本は2003年9月から「アドバンスドサポート」,NTT西日本は2003年7月から「フレッツ・ADSL サポートメニュー」の名称でサービスを開始し,いずれも月額料金は2500円増しになります。ただし,電話と共用しないADSL専用型のみの提供となります。

 NTT東日本では,24時間365日の障害対応に加え,スループットを個人向けより良くした「フレッツ・ADSL ビジネスタイプ」も2003年9月から提供開始します。下り回線速度は20M超サービスと同じで,月額料金は1万1000円です。具体的にどの程度の効果があるのかは公表していませんが,「これまでは端末が5台程度の利用を想定していたのに対し,25台程度の利用を想定する」としています。

 このほか,回線の障害に備え,ISDNのバックアップ回線とセットにしたサービスを提供する事業者が増えています(図2[拡大表示])。NTTPCコミュニケーションズのように,(1)地域IP網の終端装置の障害に備えてバックボーンへのトンネリング接続を2つ持つ,(2)(1)を実施した上でアクセス回線を2重化する,(3)(1)を実施した上でISDNのバックアップ回線を用意する――といったメニューを提供している事業者もあります。ただし,月額料金は1万~2万円程度高くなります。

(本誌)