ディスク装置に技術革新の波が押し寄せている。「iSCSI」と「シリアルATA」である。この2つの技術はディスク装置を安価にし,ディスク環境やバックアップ方法を一変させる可能性を秘めている。iSCSIによってSANが安価になり,シリアルATAによってディスク・バックアップが身近になる。

 iSCSIはディスク装置の外部インタフェース技術。シリアルATAはディスク装置内のディスク・ドライブのインタフェース技術である。

 iSCSIの標準化は米IBMや米Cisco Systemsなどが中心になって進め,2003年2月に標準仕様が確定した。すでにIBMがディスク装置を,Cisco Systemsが既存ディスクに接続するスイッチを出荷していたが,2003年2月に米NetworkApplianceがiSCSIに対応したディスク装置の提供を開始するなど,製品が増えてきた。

 一方,シリアルATA(Serial AT Attachment)の標準化はすでに2001年8月に第1世代の仕様が確定し,米Maxtorや米Seagate Technologyなどのディスク・ドライブ・ベンダーが製品を提供している。そのほか米AdaptecはシリアルATA用のRAIDコントローラを,アドテックスはシリアルATAディスクを使ったRAID装置をそれぞれ2003年4月に出荷済みである。

IPのメリットがディスクにも

図1●iSCSIはSANを安価にする
iSCSIは,SCSIコマンドをIPパケットでカプセル化する技術。iSCSI対応のNIC(Network Interface Card)とディスクがあれば,サーバーと外付けディスク間にIP用のネットワーク機器が利用できるようになる。ディスク専用のネットワークである「SAN(Storage Area Network)」が安価に構築できる

 「iSCSI(Internet SCSI)」とは,SCSIコマンドをIPパケットで包み込む技術である。下位層がIPパケット,上位層がSCSIコマンドになり,サーバーとディスク装置間に社内LANと同じIP用のネットワーク機器が利用できるようになる。IP接続できるディスク装置には従来からNAS(Network Attached Storage)装置が提供されているが,ファイル・サーバー向けのNASとは用途が異なる。iSCSI対応のディスク装置は,データベースなどのデータを格納するのに適している。

 iSCSIを利用すれば,ストレージ専用ネットワーク「SAN(Storage Area Network)」のイメージが一変する。これまでのSANはファイバ・チャネル技術がベースとなっていたため,高価で互換性などの問題を抱えていた。それに対してiSCSIを利用したSANは,ファイバ・チャネルが抱えている課題とは無縁である(図1[拡大表示])。

 iSCSIはIP用のネットワーク機器が使えるのでコストが下がるし,IP技術は枯れているため互換性の問題はほとんど無いと見られている。現在のイーサネットは1Gビット/秒が最速であるが,高速化はさらに図られ,10Gビット/秒が視野に入っている。ネットワーク機器が速くなればそれだけiSCSIも速くなる。iSCSIの課題はSCSIコマンドのカプセル化処理によるオーバーヘッドであったが,カプセル化処理をハードウエアで実現する製品がすでに提供されている。

バックアップに適したディスク

表1●シリアルATAのロードマップ

 シリアルATAは,デスクトップ用PCのディスクに使われることの多い「ATA」の後継技術である。従来のATAは100Mバイト/秒が主流であるが,第1世代のシリアルATAの転送速度は150Mバイト/秒,その後2004年に300Mバイト/秒,2007年に600Mバイト/秒の製品が登場する予定である(表1[拡大表示])。さらにシリアルATAでは,オンライン中に部品を交換することが可能な技術「ホット・スワップ機能」をサポートする。ホット・スワップ機能は従来のATAでは難しかった。

 とはいえ,サーバー用途で使われるSCSI仕様のディスク・ドライブは320Mバイト/秒の製品があり,ホット・スワップ機能も備える。現時点で速度を比べるとシリアルATAが最速ではないし,信頼性の面でもシリアルATAはSCSIより劣ると見られている。

 ディスクの価格は,一般にATAディスクが安く,SCSIディスクが高い。シリアルATAディスクはATAディスクより若干高い程度である。価格と性能の両面で,シリアルATAはATAとSCSIの中間的な特性を持っている。

 では,このようなシリアルATAディスクは何に使うのか。主な用途として考えられるのは,ディスク・バックアップである。テープだけでなくディスクにもバックアップを取り,万が一の場合はまずディスクからリストアする。テープからリストアするのに比べ,ディスクからリストアする方が高速である。

 バックアップ用に使うディスクは大容量が必要なので容量単価の安いディスクでなければならない。かつ,大量のデータを読み書きするので速い転送速度も求められる。シリアルATAディスクは,これらの特性を備える。

 また,シリアルATAディスクを使い,iSCSIインタフェースを備えたディスク装置であれば,より安価になることが期待できる。そのような製品は年内には登場してくるだろう。

(松山 貴之=matsuyam@nikkeibp.co.jp)