Question Webブラウザではサーバー名の代わりにIPアドレスを入力してもWebサーバーに接続できますが,メール・アドレスでも同じことができるのでしょうか。

Answer 相手に届くケースもありますが,基本的にメールは届かないと考えておきましょう。IPアドレスを使うメリットは特にありません


 確かにWebブラウザの場合は,URLでサーバー名の代わりにIPアドレスを入力してWebサーバーに接続できます。それなら電子メールであて先の「@」以降にIPアドレスを使っても,メールが相手に届くのではないかと思いがちです。しかし,Webブラウザで使うHTTPやFTPと,メール送信では仕組みが根本的に異なります。

 WebブラウザではURLとして入力したサーバー名が最終的なアクセス先になりますが,メール・アドレスの「@」以降にある文字列は最終的な送信先を意味していません。メール・サーバーをホスティングしている場合など,「@」以降の文字列とは異なるドメインのサーバーに配送することもあります。自分でサーバーを用意せずに「名前.com」といったメール・アドレスが使えるのも,このためです。

IPアドレスの利用は想定外

図1●メール送信の基本的な流れ
メール・サーバーがメールを受け取ると,メール・アドレスの「@」の右側にある文字列を基に,次に転送すべきメール・サーバーを調べる。これにはDNSサーバーに設定してあるMXレコードを使う

 具体的には,以下のような仕組みでメールを配送しています。nos@nikkeibp.co.jpというメール・アドレスに送信する例を見てみましょう(図1[拡大表示])。

 まず,メール・ソフトに設定したメール・サーバーに対してSMTPでメールを送信します((1))。メール・サーバーがメールを受け取ると,次にどこに転送すべきかを調べます。これには,「@」の右側にある文字列を使い,DNSサーバーに問い合わせます((2))。

 DNSサーバーにはメール配送先のサーバーを送信者に知らせるためのMXレコードが登録されています。これは,DNSに登録されている情報を調べるためのユーティリティであるnslookupやdigなどを使って確認できます。図1の右上ではnikkeibp.co.jpのMXレコードとして,bpns1.nikkeibp.co.jpとbpns2.nikkeibp.co.jpという2つの配送先を回答しています。preferenceに指定してある値は配送先の優先順位を表しており,数字が低いものほど優先度が高くなります。

図2●メール・サーバーが,IPアドレスを付けたメール・アドレスを処理する様子
Sendmailの場合,nos@202.26.186.51のように単純にIPアドレスを付けると,「Host unknown」というエラーが出てメールは送信できない。nos@[202.26.186.51]のようにIPアドレスを[]で括れば送信できるケースもあるが,あえて使うメリットはない

 メール・サーバーは問い合わせの結果,bpns1.nikkeibp.co.jpに送ればよいことが分かるので,そこにSMTPでメールを転送します((3))。こうしたSMTPによる転送処理は,受信者のメール・ボックスに届くまで繰り返します。図1の例では1回しか転送していませんが,複数のメール・サーバーを中継するケースもあります。最終的にメール・ボックスに届くと,受信者はPOP3やIMAP4などのプロトコルを使ってメールを取り出します((4))。

 このような仕組みのため,「@」以降にIPアドレスを使うことは想定されていません。メールの送信に使うSMTPの標準仕様を定めたRFC(Request For Comments) 2821でも,メール・アドレスの形式は「local-part@domain」と表現しています。

届くこともあるがメリットなし

 仮に「@」の右側にIPアドレスを書いた場合はどうなるでしょうか。nslookupで調べた配送先のメール・サーバー(MXレコード)のIPアドレスを使えば届くような気がします。

 まず,nos@202.26.186.51のように単純にIPアドレスを付けた場合は,「Host unknown」というエラーが返ってきます(図2[拡大表示]上)。「202.26.186.51.」という名前でDNSサーバーに問い合わせてしまうからです。

 次に,nos@[202.26.186.51]のようにIPアドレスを[]で括った場合は,送信先のメール・サーバーの構成や設定によって届いたり,届かなかったりします(図2下)。この場合,IPアドレスを基に送信先は解釈できるのですが,そのサーバーに相手のメール・ボックスがなければメールは届きません。あえてIPアドレスを使うメリットは何もないので,ドメイン名を使うようにしましょう。

(本誌)