オープンソースのECサイト構築パッケージ「osCommerce」を採用するユーザーが増えている。無償であるだけでなく,電子モール並みの豊富な機能を備えていることが普及の理由だ。

 日本では,osCommerceを利用したECサイトがすでに20以上,立ち上がっている。全世界でみると,利用サイトは1000を超える。

 osCommerceの特徴は機能の豊富さ。「ユーザーによる商品レビュー」や「売れ筋商品の自動表示」「特価商品の値引き表示」「クレジットカードによる支払い」など,大規模電子モール並みの機能を備える(図1[拡大表示])。ある商品を購入したユーザーが買った別の商品を提示し,まとめ買いを誘う機能もある。

 管理機能も多彩で,「商品管理」や「会員管理」だけでなく,「商品が閲覧された回数の統計」「メール・マガジンの発行」や「バナー表示の管理」も可能だ。

 osCommerceは,後述するように,もともと欧州で開発されたソフトウエアだが,メニューやメッセージ,マニュアルは日本語化されている。ヤマト運輸や佐川急便,ゆうパックの配送料金を計算するモジュールも提供されている。

 管理はブラウザ上から行うことができるため,コンピュータに関する知識がなくともECサイトを運営できる。開発環境はPHP,RDBMSにはMySQLといった,オープンソース・ソフトウエアを利用する。したがって,ECサイト全体を無償のソフトウエアで構築することができる。PHPとMySQLなどのソフトウエアが動作すれば,共用のレンタル・サーバーでも稼働する。

図1●osCommerceの概要
ユーザーによる商品レビューや,特価商品の値引き表示,クレジットカードによる支払いなど,豊富な機能を持つ。ボランティアの手によって,ヤマト運輸や佐川急便などの宅配便やゆうパック対応モジュールも提供されている
 
図2●osCommerceの構成
PHPとMySQLが使用できれば,共用レンタル・サーバーでも稼働する

強力な運営や商品展示機能

表1●osCommerceを採用したサイトの例

 osCommerceを使用しているサイトは,国内で20以上(表1[拡大表示])。コンピュータ関係だけでなく,衣料品,食品,酒類,雑貨,古書など,様々なジャンルの通販サイトで使われている。

 パソコン販売店を運用する三重化糧は,2002年5月,通販サイト「IDEA WEB STORE」にosCommerceを導入した。現在,このサイトで月間数百万円の売り上げがある。

 以前は,自社サーバー上でシェアウェアの「ショッピングバスケット・プロ」を使ってサイトを構築していた。しかし「商品ごとにHTMLページを作成しなければならず,商品が2000点近くまで増えてくると,管理が追いつかなくなってきた」(店舗・法人営業部 永田雅彦氏)。

 電子モールなどのASPサービスやパッケージも検討したが,月間数十万円といった費用に見合う効果が得られるのかどうか明確でない。「通信販売をやめようかとも考えた」(永田氏)。そのときにosCommerceを知り,無料で使用できるため導入してみた。「日本語のドキュメントもあり,容易にインストールできた」(同氏)。

 商品はDBMSで管理し,ブラウザから登録できるため,1商品あたり30分以上かかっていた登録作業は5分から10分で済むようになった。商品の見せ方も,単なる一覧表示だけでなく,「お薦め商品」「新着商品」といった多様な見せ方ができるようになった。サイトの機能向上に商品力向上などが相まって,「osCommerce導入前に比べて,売り上げも20~30%向上した」(同氏)。

自由にカスタマイズ

 ソースコードが公開されているため,カスタマイズも自由にできる。

 酒販売店の合田平八商店は,2002年11月,osCommerceを使ってワイン通信販売の専門サイト「わいんネット」を開設した。従来,ホームページを担当している合田功氏が,PHPを使った簡易通販システムを自作していたが,osCommerceの存在を知り,機能とコストを評価し,採用した。合田氏は,配達先に,住所に加えて電話番号を追加するというカスタマイズを行った。

 東京で美容院を経営するアンジーは,ポータル・サイト構築用のオープンソース・ソフトウエアPHP-Nukeと,osCommerceを組み合わせてサイトを構築した。PHP-Nukeは,WWWブラウザからコンテンツの追加や編集のほか,会員管理,会員によるコメントの投稿などができるソフトウエアである。osCommerceと同様,PHPとMySQL上に構築されている。

 同社は2002年7月,自社ホームページ上で通信販売を始めるにあたって,osCommerceで通販システムを構築した。楽天などの電子モールやビッダーズなどのオークション・サイトへの出店も検討したが「個性を持ったサイトにしたかった」(アンジー 取締役 山本明氏)ためだ。個性を出すための手段の一つが,ポータル・サイト構築システムとの統合である。しかし,PHP-NukeとosCommerceがそれぞれ会員管理機能を持っており,別々に会員登録してログインしなければならない。

 そのため,ユーザー管理機能をPHP-Nukeのものに統合することにした。osCommerceがユーザー情報を使用する際には,osCommerceではなくPHP-Nuke側のデータベースにアクセスする。PHP-Nukeの会員情報になかった住所テーブルは,新たに追加した。

日本語の資料やコミュニティ

 osCommerceは,ドイツ在住のHarald Ponce de Leon氏を中心とするチームが開発を進めている(公式サイトはhttp://www.oscommerce.com/)。日本語化は,オープンソース開発を支援するサイトSourceForge(https://sourceforge.jp/projects/tep-j/)上で行われており,日本語版もここからダウンロードできる。また,情報交換が行われているメーリング・リストも,ここから加入できる。

 日本語化作業の中心になっているのは,インテグレータであるビットスコープ 代表取締役 田村敏彦氏らである。ビットスコープのサイト(http://www.bitscope.co.jp/tep/)で,日本語のインストールやショップ運営のマニュアルが公開されている。

 また,ビットスコープやピークなど,osCommerceを使ったECサイト構築サービスを提供しているインテグレータもいる。

(高橋 信頼=nob@nikkeibp.co.jp)