(Elliot King)

 企業向けストレージの大きなトレンドの1つは,ストレージ・インフラの管理ソフトの範囲が広がっていることである。各企業は,徐々に様々な形態のネットワーク・ベースのストレージへ移行している。それにつれて,各ユーザーは資産をより効果的に利用するために,ストレージ・リソース管理ソフトウエアやストレージの仮想化といった技術を探し,導入しつつある。将来的には,ストレージ・ネットワークの管理がネットワーク運用全体に緊密に統合されると見ておくのが賢明だ。

EMCが意欲的なプラットフォームを発表
 米EMCが2005年3月に発表した次世代エンタープライズ・コンテンツ管理プラットフォーム「EMC Documentum 5.3」は,ストレージ・ベンダーたちにITインフラの別のエリア,つまりいろいろな技術が重なっている部分のうちデータ管理層で,自分たちの方式をプッシュしていることを思い出させた。

 EMC Documentumのリリースは,EMCが公式にはここ数年に企業のコンテンツ管理で最も重要な成果を示すもので,EMCが米Documentumを買収して以来,初めて発表する製品である。

 このプラットフォームは実に意欲的な狙いを持ったものであり,広範囲な製品群に統一されたアーキテクチャを提供する。その主要な機能の中には,次のようなものがある。
(1)Documentumと企業の内外にある他のサード・パーティ製のコンテンツ・リポジトリを1カ所からのアクセスで検索できるようにする連合検索機能
(2)Outlookフォルダのルック&フィールを生かしながら電子メールと添付ファイルをDocumentumのリポジトリに保存できるようにするOutlookのクライアント
(3)デスクトップの文書や画像,音声,ビデオといったコンテンツを互換性のあるコンテンツ・タイプに変換するのを助ける変換サービス
――などである。

 こうした主要機能は,新しいリリースのごく一面でしかない。Documentumはビジネス・プロセスの管理と,様々なコラボレーション・サービス用に広範な機能も提供する。この新しいリリースは,企業が文書保管と法的規制の要件を満たせるように,舞台裏のポリシーを作成しその徹底を図るために,Documentumプラットフォームのリポジトリ・サービスも強化する。「Retention Policy Services」という機能は,リポジトリ・レベルで動作し,あらゆるタイプのコンテンツに適用できる。そのおかげで,各組織はコンテンツが廃棄されるべき状況や,情報ライフサイクルとの兼ね合い,そのほかの基準に従いイベントや条件に基づいた保管ポリシーを練り上げられる。

 最後に,EMCは「Trusted Content Services」を提供することでDocumentumプラットフォームのセキュリティを強化した。このサービスは,Documentumプラットフォームを利用するあらゆるアプリケーションに共通のセキュリティ・モデルと監査証ログを提供するものである。他の主要な機能の中でもTrusted Content Servicesは,複数のルールに基づくアクセス制御とデジタル・シュレッダ機能を内蔵する。デジタル・シュレッダは情報を廃棄しストレージ・メディアから取り出されないようにするための確実な方法である。

コンテンツ管理の主導権を握るのは?
 明らかにDocumentumは重要なリリースだ。同社代表は「競合他社では,共通のインターフェースを介してゆるく統合されただけのアプリケーションを提供している。それに対して,EMCでは統一的なアーキテクチャを基にした,初めての真に包括的な製品を提供する」と主張する。同社幹部は,伝統的なEMC製品の機能に加え,各プロセスとリポジトリ・サービス群,コラボレーション,オートメーション,そしてセキュリティを内蔵する完全に統合されたスタック――などを提供することで,エンドユーザーは情報ライフサイクルの全ステージで自分たちが持つ情報の最大の価値を理解する一番よい位置に立てると言う。

 もちろん,こうしたコンテンツ管理機能を提供することに努力しているベンダーはEMCだけではない。米IBMは3月初めに,新しいソフトウエア・ポートフォリオを発表した。これは普通のビジネス・プロセスの一部として複数のリポジトリにわたってあらゆるタイプのコンテンツを捕そく,管理,検索できるように同社の製品のWebサービスを拡大するものだ。その発表内容によると,同社は「DB2 Content Manager 8.3」のワークフローの能力と「DB2 Document Manager 8.3」の自動ドキュメント・ライフサイクル管理機能を強化した。そのほかのベンダーも,この分野に注力している。

 つまりEMC Documentumの発表は,ストレージ・ベンダーとそれ以外の会社の競争が新しい局面を迎えるものである。従来通り,EMCはストレージ・ネットワークの効率的な管理のためのツール群を提供する。その一方で,デバイスに記録されたコンテンツを効率的に管理するツール群も提供し始めた。多くのストレージ管理者にとっては,法的規制やデータ容量の問題と同レベルで,コンテンツ管理が差し迫った課題になっている。

90年代末にも似たような争いが
 いろいろな意味で,EMCがデータと情報の管理に参入する動きは,1990年代末の音声とデータ・ネットワーキングの争い似ている。その当時に問題だったのは,米Cisco Systemsのようなネットワーク機器ベンダーが,次世代の大規模な通信設備を提供し始めるのか,それとも伝統的な通信設備のベンダーがデータ・ネットワーキングの分野に進出するのか,ということだった。現時点では,Ciscoが少し先に出ているようだ。

 今回の場合,EMCは技術の集積の中のデータ管理層で先駆けようとしている。同社が支配力を持つのか,それともデータ管理ベンダーがストレージ・インフラもカバーするような強い支配力を発揮するのか。この問いに対しては,今後2年ほどで結論が出るだろう。その間,ゲームは続くのだ。