■記者は,WinHEC 2005の取材でシアトルに来たついでに,次期Windowsの開発コード名である「Longhorn」の名称由来の地を訪れることにした。現地に立ったとき,記者は開発コード名とOSの運命の関係を幻視することになった…。(写真で構成する紀行文です。気楽にお読みください)

(中田 敦=日経Windowsプロ)


 マイクロソフトは現在,Windows XPの後継OSとして「Longhorn」(開発コード名)を開発中である。先日開催された「WinHEC 2005」でも新機能がいくつか公開されており,Longhornへの関心を高めている読者も多いはずだ(関連記事)。ところで読者の皆さんは,このLonghornという開発コード名がどのような経緯で付けられたのかご存じだろうか?

 実は「Longhorn」の名前の由来は,カナダのスキー場にあるサロン(レストラン・バー)の名前からとったという。どうしてレストラン・バーの名前が,開発コード名になったのだろうか。

 それはこのLonghornが,カナダ最大のスキー場である「Whistler Blackcomb Ski Resort」にあって,「Whistler(ウィスラー)」という山と「Blackcomb(ブラッコム)」という山の中継点に位置するからだ。WhistlerとBlackcombという名前にピンと来た読者はかなりのWindows通だ。WhistlerはWindows XPの開発コード名であり,Blackcombは,Windows XPの次期バージョンに当初付けられていた開発コード名であった。しかしBlackcombの開発は延期となり,中間リリースとしてLonghornが浮上した。

 以上は,日経Windowsプロの提携誌である米国「Windows IT Pro Magazine」が伝える話である。しかし記者は,このLonghornの由来が本当か,自分の目で確かめてみたくなった。

 Whistlerは,カナダ西海岸最大の都市であるバンクーバーから北に150kmほどの場所にある。Microsoftの本拠地であるシアトルからは450kmほどの道のりで,日帰りで行けない距離ではない。4月25日から4月27日までシアトル開催された開発者会議「WinHEC(Microsoft Windows Hardware Engineering Conference) 2005」に参加した記者は,意を決してWhistlerを目指すことにした。

4月29日午前6時


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写真1
 シアトルからWhistlerに行くには,自家用車が一番手っ取り早い。しかし,米国での運転経験がない記者が,東京-名古屋間に匹敵する距離を1人で往復するのはかなり荷が重い。しかも,取材でレンタカーを使用するのは日経BPの内規に違反する。そこで今回は,シアトル-バンクーバー間を空路で,バンクーバーからWhistlerへはバスで移動する計画を立てた。

 日帰りなので,移動時間はなるべく余裕をみたい。午前3時に起床して,シアトル・タコマ国際空港を午前6時に出発するエア・カナダ便に搭乗した。自動車社会である米国では,片道300kmの公共交通機関など「マイナー路線」に過ぎない。「Dash 8-300」という50人乗りの,随分と随分と小さな飛行機に乗せられた(写真1)。

4月29日午前7時30分

 空路50分で,バンクーバー国際空港に到着した。入国審査を済ませても,時刻はまだ7時30分である。Whistler行きのバスの出発時刻は9時30分なので,2時間ばかりをぼんやり過ごした。


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写真2
4月29日午前9時30分

 写真2はWhistler行きのバスである。バスというのは名ばかりで,既にスキー・シーズンが終わった4月は,大型のワゴン・カーがやってきただけだった。乗客も記者1人だけである。乗り心地のよい助手席に座って,Whistlerまでの2時間30分のバスの旅がスタートした。

4月29日午前10時


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写真3
 バスの運転手はロバートさんという親切な人で,記者にバンクーバーやWhistlerのことをいろいろと教えてくれた。バンクーバーでは2010年に冬季オリンピックが開催される予定で,Whistlerでも「スラローム」「ジャイアント・スラローム」などの主要なスキー競技が開催されるという。またバンクーバーは景気が非常によいらしく,ダウンタウンには新しいビルが林立していた(写真3)。


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写真4
4月29日午前11時

 バンクーバーのダウンタウンを抜けると,あとは高速道路99号線を北へとひた走るだけである。左にはフィヨルドの海岸線が広がり,右には切り立った崖が迫る道を1時間ほど進んだ(写真4)。


4月29日午前11時30分


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写真5
 ロバートさんが99号線の途中にある,「Shannon Falls」という滝を案内してくれた(写真5)。バンクーバーには1997年の香港返還の際に多くの香港人が移住したとのこと。こういった観光名所では中国系の家族連れをよく目にした。日本人と白人男性の2人組というわれわれは,ひどく浮いているような気がした…


4月29日午後0時40分

 ついにWhistlerに到着(写真6)。高速道路が工事渋滞だったほか,滝見物などをしていたため予定より30分ほど遅れたが,Longhornを見るだけなので特に問題はない。春の花が咲き誇るWhistlerは,想像以上に美しいリゾート地だった(写真7)。


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写真6
写真7

4月29日午後1時


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写真8

 Whistlerは意外に広い。10分ほど歩き回って,遂にLonghornに到着した(写真8)。Longhornがあるのは,Whistler Blackcombスキー・リゾートの中でも,Whistler行きのコンドラ(写真9)とBlackcomb行きのゴンドラ(写真10)の乗り場が隣接する広場であった。「Longhornバーガー」(写真11)がなかなか美味しいレストラン・バーである。


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写真9
写真10
写真11

4月29日午後1時30分


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写真12

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写真13
 LonghornのGeneral Manager(店長)であるBrad Skerrett氏に話を聞いてみた。「Microsoftの人たちはここで毎冬パーティをやっているから,Longhornの名前が使われていることはもちろん知っているよ。ここは,Whistlerに行くのにも,Blackcombに行くのにも,一番便利な場所なんだ。昔はBlackcombが次のOSの名前だったけど,それが取りやめになり,WhistlerとBlackcombの中間にあるここLonghornが,代わりに選ばれたんだ」。Skerrett店長はそう証言した。

 このLonghornという店が,開発コード名の由来であるのは間違いないようだ。Blackcombを延期する代わりに,その中継としてLonghornを登場させたわけだ。もっともWhistlerのふもとにあるけれど,Blackcombにもすぐに行けるLonghornを選んだのは,「Blackcombをあきらめない」という意思の表れだ。Longhornの店内からは,Whistlerスキー場(写真12)も,Blackcombスキー場(写真13)も一望できた。



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写真14
 しかし,Longhornは今や「OS platform for the next 10 years(これから10年間の基盤となるOS)」(Windows技術統括責任者であるJim Allchinグループ・バイス・プレジデント)である。Longhornの居心地があまりに良すぎて,次のスキー場(Blackcomb)に行きたくなくなってしまったということであろうか――。

 Longhornの記念として,胸に「Longhorn」と書かれたユニフォームを着た店員さんに,Longhornのロゴの前で写真を撮らせてもらった(写真14)。バスの運転手のロバートさんもそうだったが,カナダの人々は非常に気さくな人たちばかりである。すっかりWhistlerが気に入った。

4月29日午後2時30分


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写真15
 帰りのバスは午後4時にWhistlerを出発する予定である。それまですることもないので,Whistlerを散策してみた。すると,なにやら面白そうな看板を発見した(写真15)。

 「Blackcombの冬季営業は終了しました。Whistlerは6月5日まで営業します」と書いてある。なんとWhistlerは,初夏の6月まで営業している,非常に「息の長いスキー場」だったのだ。

 記者は思わず唸ってしまった。開発コード名がWhistlerであるWindows XPは,既に発売から3年半がたとうとしているが,次期OSがいまだに登場しない非常に息の長いOSである。その秘密が開発コード名に隠されていたとは,全く驚きであった。「Whistlerの息は長く,Blackcombはすぐに(雪が)消えてしまう」という定めにあったのである。

 もっとも,Whistlerの営業が終了した後の6月11日からは,Blackcombの山頂で「氷河(グレイシャー)スキー」の営業が始まるのだという。Whistlerが消えた後に,Blackcombが再び復活する――,そう思いたくもある。

 さて,開発コード名の由来から考えて,Longhornはどうなるのだろうか。Longhornの店員さんは美男美女ぞろいだったし,Longhornバーガーはなかなか美味しかった。見た目(シェル)が美しいだけでなく,実際に使ってうれしいOSになってくれることを,願うばかりである。

4月29日午後3時


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写真16
 結局,Blackcombのふもとにまでやってきた。そこにあった看板によれば,Whistler Blackcomb Ski Resortには,企業スポンサーが存在するらしい(写真16)。コカ・コーラ,VISA,コダック,セブン-イレブンに加えて,米国の拠点がシアトルにある任天堂も名を連ねていたが,肝心のMicrosoftの名前はここにはなかった…

4月29日午後4時

 楽しかった旅も,いよいよ終わりが近付いている。4時出発のバスは行きと同じ大型バンで,今度はカナダ人夫婦と,スキー・シーズンはインストラクターをしていたというトロント在住の男性が一緒になった。

 予定では午後6時30分にバンクーバー国際空港に到着して,午後8時30分のシアトル行きの飛行機に乗って,シアトル到着は午後9時30分になる予定だ。ホテルに付くのは夜の10時30分を回っているだろう。気が遠くなりそうだし,世間話について行けるほどの英語力もないので,寝て行くことにした。

4月29日午後7時30分

 記者はLonghornを見るためだけに,シアトルのホテルから片道7時間かけてWhistlerにやってきて,スキーもせずに,その日のうちにシアトルに戻ろうとしている。

 シーズンの終わったスキー・リゾートに,日帰りで行ってきたわけで,米国に再入国する際は,入国審査官やバンクーバーの空港職員に非常に怪しまれた。ベルトまで外した持ち物チェックまで要求されてしまった(米国への入国審査はシアトルではなくバンクーバーで実施する)。

 それでも,Whistler,Blackcomb,Longhornをこの目で見られて,非常に満足であった。とはいえ今回の旅は,行き7時間,帰り6時間30分という,非常に辛いスケジュールであった。もっとも,LonghornのSkerrett店長が「シアトルからここまで3~4時間のドライブだろ?」と軽く語っていたことが気になって仕方がない。

 先にも述べたが,シアトル-Whistler間は450キロである。東京-名古屋間に匹敵する距離である。Microsoftの人たちも,本当にそんな短時間でWhistlerを往復しているのだろうか。スキーが大好きというWindows NTのアーキテクト,David Cutler氏に聞いてみたいものだと思った。

(中田 敦=日経Windowsプロ