上記のシステム機能に加えて,Experience Pack for Tablet PCには,3種類のスタンドアロン・アプリケーションとして「Ink Art」「Ink Crossword」「Media Transfer」が搭載される。これらのアプリケーションは読者の予想通り,Tablet PCのペンとデジタル・インクの機能を大々的に,そして遊び心豊かに活用するものだ。


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秀逸な新アプリケーション「Ink Art」
Ink Art:元々は米Ambient Designが開発し「Art Rage」と呼ばれていた「Ink Art」は,Tablet PCとペンを使ったナチュラル・ペイント・プログラムである。まるで本物の紙に筆やペン,鉛筆,クレヨンなどで絵を描いている気にさせてくれる。Art Rageは,2004年末に終了したMicrosoft主催のコンテスト「Does Your App Think In Ink?(アプリケーションでインク機能を活用していますか)」で大賞を獲得したプログラムだ。この新バージョンには,Tablet PCの画面を本当に絵の具やクレヨンで汚しているのではないかと思えるほど,リアルなツールが付いている(図9)。

 私は芸術家ではないが,様々なメディアや色,エフェクトを使ってユーザーが何時間も実験に費やしているさまを想像できる。最もクールなものの1つに,トレーシング・ペーパー機能がある。これは写真をインポートして,その写真の「上」に絵を描いたりできるもので,おどろくほど芸術っぽい作品を創り出す(図10)。ユーザーに芸術の心得があるかどうかにかかわらず,Ink Artは素晴らしくて魅力的なアプリケーションだ。

Tablet PCならではのクロスワード・ソフト
Ink Crossword:この名前が示す通り,「Ink Crossword」には12種類のクロスワード・パズルが入っている。もし,ユーザーがクロスワード中毒であればもっと多くのパズルを(パックでも個別にでも)ダウンロードできる(図11)。ダウンロード可能なパズルの一部は無料で,例えばUniversal CrosswordsやUSA TodayといったWebサイトからダウンロードするものは有料である。価格は,ピース数が60から100個で,9.95~14.95ドル。

 それぞれのパズルは,これこそクロスワード・パズルだと言えるもので,カウントダウン・タイマー機能や手詰まりになったときのための[reveal letter(文字を表示する)]といったチート機能がオプションで含まれる(図12)。いかに私がこの手のものを不得手とするかを説明するつもりはないのだが,クロスワード・パズルは手持ちのTablet PCで時間つぶしをするにはもってこいのものだ(私はいつも空港で見かけるソリティア・プレーヤたちに情報提供している)。実際の話,Experience Packのレビュー中に,このクロスワードに熱中してしまい,1時間が過ぎ去ってしまった(図13)。

 とにかく,Ink Crosswordは最高のTablet PCアプリケーションではあるが,いくつかの問題がある。私がテストしたバージョンは数回クラッシュしたし,文字認識は改善が必要である。例えば「I」の文字の上下に平行な棒を付けないと,「L」や場合によっては「T」だと誤認識されてしまう。まあ,いつもそうだという訳でもないのだが。また,たまに正しい文字が間違いと識別され,赤でマークされてしまう。しかし大筋では,Ink Crosswordは間違った文字を入力すると知らせてくれるのを除いて,紙のクロスワード・パズルとほぼ同じと言えるだろう。これらの問題は,修正されることを見越したあら探しのようなものだ。

改良の余地がある「Media Transfer」
Media Transfer:2004年終わりの「XP Reloaded」キャンペーン中に,Microsoftはよく分からない技術である「Windows Media Connect」というものを含む,多数のデジタル・メディア関連のアップグレード・ソフトをXPユーザー向けにリリースした。基本的にこのWindows Media Connectというものは,Windows機器ではないデジタル・メディア・レシーバといった機器に対して,デジタル・メディア・ファイルの存在を知らせる標準化された通信方法である。これは,ユーザーの自宅の別の部屋にあるメディア機器で,PCベースの音楽,写真,スライドショー,ビデオを再生するための,オプションのアドオン・ソフトウエアである。

 とは言うものの,理論的にWindows Media Connectは,Windows PCを使って自動で別のPC上にあるデジタル・メディア・ファイルを見つける目的で使用できる。これに必要なものは,ソフトウエア・ベースのWindows Media Clientのみである。「Media Transfer」とはこういうものなのだ。デジタル・メディア・ファイルを探し出し,ユーザーのTablet PCにストリームさせたりコピーしたりする,ソフトウエア・ベースの方法なのである。

 私の第1の不満点は,このアプリケーションにはTablet PCが「必須」だということだ。私の意見では,このアプリケーションにはペンでの操作に適した大きなボタン以外に,本質的にTablet PC特有といったものは何もない。しかし,Microsoftによると,Media Transferはユーザー・フィードバックのおかげで実現されたのだという。実際のところ,ほとんどのTablet PCユーザーは,Tablet PCをメイン・マシンとしては使っておらず,音楽やその他デジタル・メディア・ファイルを,メインPCからTablet PCへコピーする際のプロセスの自動化を求めていたのだと考えられる。

 Media Transferのユーザー・インターフェースはシンプルなものだが,まずここに問題がある(図14)。別のPC上にあるデジタル・メディア・ファイルと接続するには,Windows UpdateでWindows XPユーザー向けのオプション・ダウンロードとなっているMedia Connectソフトウエアを起動させておかなければならない。その上で,Media Connectクライアントを起動させる必要がある。この状態にすることで,このPCがやっと選択可能なコンピュータのリストに表示される。

 いったん接続が確立されると,鑑賞したい音楽や写真,ビデオ――などのメディア・タイプを選べて,検索範囲を少し狭められる(図15)。例えば音楽を選んだ場合,「Album(アルバム)」「All Music(すべての音楽)」「Artist(アーティスト)」「Genre(ジャンル)」「Play Lists(プレイ・リスト)」といったアイテムを含むメニューが表示され,「アルバム」を選択すると,アルファベット順にアルバムの一覧表が表示される(図16)。アルバムを選んだ場合,どの曲をTablet PCにコピーするか,または単にネットワーク経由でストリーム再生させるかを選べる(図17)。ダウンロード・オプションを選択した場合,実際に行っているのはキューの作成である。ダウンロードしたいすべての曲を選び終わった後で,すべてを一括でダウンロードする。

 ここでまたもう1つの不満に気づく。Media Transferでは,1人のアーティストのすべての曲を選ぶことや,アルバムのすべての曲を簡単に選べないのだ。こういった大き目のかたまりを手軽に選択できるように,ユーザー・インターフェースの各階層で選択ボックスが用意されていればよいのだが,現状ではリストに深く分け入って個別に曲を選択しなければならない(またはアルバム内ですべて選択する)。

 ダウンロードする曲を選択したところで,Media Transferの3つ目の問題が出てくる。ホストPCで作ったフォルダ階層を再現してくれないのだ。例えば,選択した曲のすべてが同じフォルダにまとめてダウンロードされ,未整理のファイル群を作ってしまう。それに,Media Transfer自体はメディア・ファイルを再生しない。その代わりに「Windows Media Player 10」やユーザーが通常使用しているメディア・プレーヤが使われる。

 欠点や制約はあるのだがMedia Transferはしっかり動作し,また高望みしないユーザーにとっては満足できるものではある。それでも私は,将来的にこのアプリケーションが大々的にアップデートされ,Tablet PC以外のWindows XPユーザーにも入手可能になるように望む。今はまだあと一歩のところだが,このソフトは素晴らしいソリューションに限りなく近い。

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 「Experience Pack for Tablet PC」は,Tablet PCユーザーがすぐにでも入手すべきWindows XP Tablet PC Edition 2005用のユーティリティとアドオンの素晴らしいコレクションだ。Microsoftが以前Tablet PC用にリリースしたPowerToyアドオンと同様,Experience Packに含まれるツールのほとんどは,遊び心のある面白いものである。Tablet PCのユーザー・エクスペリエンスを向上させてくれる,私のお薦めの一品である。