(Paul Thurrott)

 インターネットによる現実世界への影響を調べる団体Pew Internet & American Life Projectが2005年7月に最新の調査報告をまとめた。内容は私たちの大半がここしばらく疑っていたことを証明するものだった(該当サイト)。スパイウエア,つまり普通はあなたのシステムにこっそりとインストールされて,不穏な活動をする不正ソフトが,人々のインターネットの使い方を変化させているというのだ。

利用方法が慎重になってきたユーザー
 その数は驚くべきものだ。報告によると,インターネット・ユーザーの96%はスパイウエアを避けるためにブラウジングの仕方を変えており,81%は安全だと確認できるまでメールの添付ファイルを開かず,ほぼ半数は自分たちのPCにこっそりスパイウエアをインストールしているのではないかと恐れている。ユーザーは同時に,特定のWebサイトを訪問するのを止め,さらに25%はピア・ツー・ピア(P2P)のファイル共有ネットワークから音楽などをダウンロードするのを止めたという(最後に上げた数字はなぜもっと高くないのかと思うに違いない)。

 テロや地球温暖化現象のように,スパイウエアは恐怖のオーラを生み出した。ただし,他の例とは違い,スパイウエアは未知のものではなく,非常によく出遭う既知の恐怖である。2004年10月の時点に戻ると,ほとんどのインターネット・ユーザーは自分のPCに何らかの形のスパイウエアをインストールされていた。この数字は今日もっと高くなっているようだ。

 クレジット・カード番号やパスワードのような重要な個人情報の盗難といった,はっきりした問題は別として,スパイウエアはPCの使い方に実質的に影響している。感染したコンピュータは遅くなったり,フリーズしたり,クラッシュしたりする。また,新しいデスクトップ・アイコンとアプリケーションが出てくるようになり,あなたのInternet Explorer(IE)のホームページが変わったり,新しいIEツールバーが現れたりする。

スパイウエア対策は管理者の必須業務に
 私はWindows XP Service Pack 2(SP2)ベータをテストしている2005年5月に,初めてトロイの木馬の攻撃を受けた。それ以来何度もスパイウエアについて書いてきた。2005年5月に私はWindows IT Pro UPDATEの2本の記事「基礎講座:スパイウエアの脅威」と「マルウエア対策をめぐるMicrosoftの戦略」でスパイウエア問題を扱った。ではその時から何が変わったのか?嘆かわしいことに多くのことが変わった。

 第1に,スパイウエアは今やWindowsプラットフォームでの現実の生活問題であり,あなたがWindowsシステムを管理しているのなら,スパイウエアがエンドユーザーのクライアントPCに入り込まないよう保証する責任がある。つまり,管理されたスパイウエア対策ソリューションを早めに用意しておく必要がある。ウイルス対策や他の電子的な防御措置と同様に,スパイウエア対策は今や解くべき方程式の一部になっている。あなたがスパイウエアを止める方法を持っていないのなら,やるべき仕事をしていないことになる。

 第2に,あなたは電子的な攻撃が成功した場合に備えて,計画を立てておく必要がある。スパイウエアがユーザーのシステムに既に感染している場合に何が起きるのか?侵入者が重要なデータを既に盗んだ場合に何が起きるのか?個人にとってデータを盗まれることはぞっとする心配事だが,企業のデータについてはどうか?あなたの会社のCEO(最高経営責任者)のラップトップは十分に守られているか?

スパイウエアがWindowsを滅ぼす?
 最後に,Pew Internet & American Life Projectの調査が言うスパイウエアの本当の影響は,大衆のコンピュータの使い方を変えて,より基礎的な部分で変化を起こしたことである。ほとんどの読者は,米Apple Computerが衝撃的な成功を収めたMP3プレーヤ「iPod」のことをよく知っているだろう。恐らく大半の人はiPodを持っているのだ。私はたまたま複数持っているが,それはまた別の話だ。多くのアナリストたちと業界通たちは,iPodの「ハロー効果」(後光効果)は,Appleの他の主要製品つまりMacintoshの購入も検討させるだろうと予想していた。そういう人たちは,このハロー効果は,Macの売り上げ増につながるもので,コンピュータ市場の力学を変えるものだと言った。しかし,スパイウエアを嫌ってMacに流れる可能性もある。

 これまでのところでは,ハロー効果が本当にあると証明するのは不可能だ。しかしMacの売り上げは2005年第1四半期で43%,第2四半期では35%成長しており,これは2005年上期のPC業界の平均成長率である14%よりかなり高い。アナリストたちは今,WindowsベースのPCを苦しめているスパイウエア問題が,Appleの急成長に貢献するかどうか大いに悩んでいる。何人かはそれが唯一最大の要因だと言っている。iPodのハロー効果よりも新しいユーザーには,はるかに重要視されることだという訳だ。

 その証拠には説得力がある。PCユーザーはスパイウエアに感染したコンピュータを修復しようとするよりも放棄している。問題はスパイウエアに感染したPCが,修復できないことがよくあるということである。代わりに,あなたはそのシステムをきれいにして最初からまた設定し直す必要がある。管理された環境では,このことには重大なデータをバックアップしておくという以外に大きな問題はないが,個人にとっては悪夢だ。PCの価格が300ドル以下から始まるようになって(エントリ・レベルのMac miniなら約500ドルだが),一般の消費者が最初からやり直そうとしている。そのほうがより簡単だ。

 パーソナル・コンピューティングが1980年代初頭に初めてトップ・ギヤに入った時,コンピュータ好きたちはこの技術をビッグ・ビジネスにする責任があった。最初にVisiCalcを搭載したApple IIコンピュータがビジネスに登場し始め,Lotus 1-2-3を走らせるIBM PCが後に続いた。今日では,MacのノートPC,いわゆるPowerBookが,私が立ち回る飛行機の機内やインターネット・カフェやプレス・ルームにどんどん登場し始めている。テック・エンスー(技術的に影響力のある人や技術マニア)は,どんどんMacへ流れている。

 MicrosoftとそのWindowsを使う顧客にとって,この変化は問題になりかねない。あるいはあなたがより安全なコンピューティング利用に関心があるなら,この変化は1つのソリューションになる可能性がある。多くのビジネス・ユーザーは,Mac上では動かないWindows専用のアプリケーションを必要とするだろうが,Windowsユーザーのかなりの人たちは,ワープロや電子メールやWebブラウジングといった,ほんの基本的なサービスしか必要としない。これらのニーズはMacでも,さらにはLinuxベースのPCでも十分満たされるし,どちらも今日ではWindowsマシンより恐らく安全である。

 当然疑問が起こる。よりヘテロな(異種混在)環境が本当に安全なのか?あるいは単に複雑さを増すだけなのか? Windowsに代わるものは,より良い設計や,ハッカーが少ないなどの理由で安全なのだろうか?――これらは回答に時間のかかる質問だと私は思う。スパイウエアがWindowsの牙城を崩そうという唯一最新の脅威である現状では,こうした選択肢はあまり意味がないのではないかと思い始めている。