(Paul Robichaux)

 私はサスペンス小説のファンで,トム・クランシーのような作家による合衆国諜報機関の技術の描写は大好きだ(技術的な部分を詳細に首尾一貫して正しく書く作家の1人はジョン・スタンフォードである。クリストファー・ウイットコムもいい勝負をしている)。こうした小説を読むと,諜報機関が電子メールをモニターできる根拠になる法律として合衆国信号情報指令18号(USSID18)がよく出てくる。もちろん通常は裁判所の命令なしにほかの機関や個人が自分のものでない電子メールを読むことは法律で禁じられている。だが,事実は必ずしもそうではないらしい。

無許可の盗聴と電子的通信の公開は禁止のはずだが…
 これから話す事件の舞台は,Interloc(現在はAlibris)というインターネット書店である。同社は取引先である希少本のディーラに(子会社を通して)電子メール・サービスを提供していた。

 申し立てによれば,1998年1月,Interloc副社長のBradford Councilman氏は,取引先ディーラとAmazon.com(Interlocの競争相手)との間でやり取りされる電子メールを監視・コピーするよう従業員に命じて,Interlocに市場での優位をもたらそうとしたという。米連邦大陪審は2001年7月に通信傍受法(Wiretap Act)の通称で知られる電気通信プライバシ法(ECPA。詳細を知るにはUS Code Title 18 Section 2511を参照のこと)の第1編に違反したとしてCouncilman氏を起訴した。この法律は無許可の盗聴と電子的通信の公開を禁じている。結末はかなり簡単そうに思える。

 しかし,実際には一筋縄ではいかなかった。Councilman氏は法廷に対して,通信傍受法はこの件に適用されないと主張して,起訴を取り下げるよう求めたのだ。彼の主張の核心は,次のような内容だ。――メッセージは「送受信中に」ではなく,(一時的にではあるが)サーバーに蓄積されている間にコピーされた。よって,蓄積通信法(Stored Communications Act)として知られるECPAの第2編の適用を受ける――。そして,彼はその法律に違反したという点においては起訴されなかった。6月末に米第1巡回区控訴裁判所(※)が無罪放免を確定している。他人の電子メールであっても,自分が管理するシステムに保存されている限りそれを読むのは合法だと思われるという理由だ(ひどいことである)。本質的には法律の欠陥と言える。すなわちECPAに定義された「電子的通信」の範囲に,蓄積通信を含めていなかった議会の失策なのである。これこそが少なくとも現時点でCouncilman氏が無罪になっている根拠だ。

自分のサーバーなら電子メールを読んでもよくなる?
 この判決によって,あなたは自分のサーバー上のものなら他人の電子メールを読んでもよくなるのだろうか?私はそうしないことをお勧めする。以下のような理由からだ。
・法廷の意見は全員一致ではなかった(Webサイトで今回の裁定とその反対意見を読める)。
・今回の裁判所の判例は米国全体ではなく,第1巡回区だけに適用される(もちろん今回の判決は米国外では全く意味がない。米国より厳しいプライバシとデータ保護の法律がある国もある)。
・政府は再びCouncilman氏を起訴できないが,その一方で今回の訴訟に関係する2人の当事者(Councilman氏の要求に応じて監視を実行したシステム管理者など)に対しては有罪判決を勝ち取っている。

 私は弁護士ではないし,法律的なアドバイスをするつもりもない。私の見方はシンプルだ。つまりプロのメッセージング・システム管理者であり,プロの倫理観(説明するまでもない昔からある常識)を持つ人なら,適切な法律上の権限によって強制されない限り電子メールを監視してはならない。電子メールの傍受はあなたとあなたの雇い主を非常に厄介なことに巻き込む可能性がある。その危険を冒す価値はない。この事件はそれで一件落着する話なのである。

※United States Court of Appeals for the First Circuit。管轄はMaine,Massachusetts,New Hampshire,Puerto Rico,Rhode Islandの各州