■Windows XP Service Pack 2のベータ版がリリースされた。これが登場してくる背景事情と新しく搭載される機能の紹介をしよう。画像ギャラリーと合わせてご覧いただきたい」(該当サイト)。なお,このレポートに関する追加情報は,「続報・作り直されたWindows XP SP2ベータ」(該当サイト)に掲載している。

(Paul Thurrott)

 1996年半ばのことである。米MicrosoftはInternet Explorer(IE)を驚異的な速さで改良しつつあった。ある時期,IE 4.0のアルファ版とIE 3.0のベータ版の開発を同時に走らせていた。オリジナルのIE 4.0は,同社が1997年遅くに出荷したIE 4.0とは大きく異なっていた。オリジナルのIE 4.0は,ほとんどIE 3.0とそっくりで,なおかつサイトマップ(ユーザーが訪れている最中のサイトのレイアウトをエクスプローラのようなツリー型で表示したもの)やFTPの統合などを含んでいた。

 そのころ米Netscape Communicationsは「Windowsはバグだらけのデバイス・ドライバの集まり以上の何ものでもない」といい,Windowsデスクトップを「星座(Constellation)」という開発コード名のプロジェクトで置き換えると発表した。Microsoftの本社では,それを挑戦の言葉と受け取った。本当にMicrosoftがNetscapeの脅威をまともに受け取ったのかとお疑いなら,続いて起きたことを考えてみればいい。同社はオリジナルのIE 4.0プロジェクトを放棄して,われわれが最終的に手にしたようなIE 4.0を,最初から作り直し始めたのだ。そのIE 4.0は,(1)HTMLとプッシュ型コンテンツをWindowsのデスクトップと組み合わせた「Active Desktop」,(2)IEとエクスプローラの統合シェル,(3)サード・パーティがユーザーのデスクトップにコンテンツを配信できるようにするチャネル・バー――など,振り返ってみると明らかにNetscapeが既に発表した機能に対応する特徴をかなり備えていた。

 われわれはこの話がどういう結果になったかを知っている。Netscapeは実現不能な高尚な目標の下で内部崩壊した。一方,再び活気づけられたMicrosoftは,優れたIEを手にしてその後もNetscapeの出すものを凌駕しWebを制した。Microsoftの歴史の中でも画期的な出来事だったあの時から,もう数年が過ぎたが,2004年,Windows XP Service Pack 2(SP2)で再び歴史は繰り返そうとしている。

初期のTrustworthy Computingに限界
 今回はNetscapeのような競合他社からの脅威はない。その代わりに,挑戦はハッカーのコミュニティからやってきた。そのコミュニティは過去数年にわたり,Microsoft製品がセキュリティ上の大きな弱点を多数抱えて,安全性が低い,という烙印を押してきた。同社としては,いくぶんタイミングが悪かった。なぜなら,このソフトウエアの巨人は,この2年ほどずっと,自社が始めたご自慢の「Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)」戦略がセキュリティの弱点を修正するだろうとユーザーに話していたからである。しかし,Microsoftは社内で改善を進め,セキュリティ面で以前同社が描いていたよりも,もっと安全な製品をXP SP2で提供することにした。まさにそれこそ,同社が決断したことである。

元々はSmart Displayを意識していた
 元々セキュリティの強化は,このサービス・パックの目標ではなかった。2003年2月時点のMicrosoftの社内文書は「コンカレント・セッション」というXP SP2向けに計画された機能について記述していた。これは「ユーザーの簡易切り替え」(Fast User Switching:FUS)により,Windows XP Professionalシステム(非ドメインのシステム)が,同時に2人のインタラクティブなユーザーをサポートするというものだった。現在のXPにおいて,インタラクティブなユーザーは,一度に1人までと制限されている(訳注:正式版では複数ユーザーの同時接続が可能になることが確認されている(関連記事))。このユーザーは,XP搭載マシンのところに座っているか,Microsoftのターミナル・サービスのデスクトップ版であるリモート・デスクトップ接続(RDC)を使って,遠隔地からアクセスするかのどちらかである。

 XP SP2のオリジナルの計画では,XP Proは2人のユーザー(つまりローカルと遠隔地の各1人)を同時にサポートするはずだった。この能力は2つの目標を達成するものだ。まず,将来的にXP Home Editionに比べて,XP Proに付加価値をつけて(同社の関心事である),比較的高価なXP Proを,よりユーザーに魅力的なものにすることである。2つ目は,Smart Displayをより高機能にする予定だった。現在のスキーマでは,ユーザーがSmart Displayから自分のXP Proデスクトップにアクセスする場合,ローカル・システムからはログアウトさせられる。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は,Smart Displayへの不満にこたえて,同社がコンカレント・セッションの機能を将来の製品に追加すると約束した。XP SP2はこの目標を満たす1つの方策だったのだ。

 しかし,先に書いたように事態は変わった。まずMicrosoftはコンカレント・セッション機能をXP SP2から削除し,その代わり将来のSmart Displayにその機能を追加することに決めた(もしかすると将来のアップデートはないかもしれない。私はこのニュースのウラを取っていないが,見たところMicrosoftはSmart Displayの製品系列を止めるようだ)。

 新しいXP SP2は,バグとセキュリティの修正だけを含むことになってスリムになった。時期は,MicrosoftがXP SP1を出してほぼ1年後の2003年秋に予定されていた。同社は何本かのXP SP2ベータをテスターに送った。サービス・パックは期待した通りで,テスターはほとんど何も言う必要がなかった。このアップデートはうまく動作し,システムの安定性や使いやすさには影響しないようだった。

ハッカーの挑戦にこたえて作り直したXP SP2
 それから2003年の夏がきて,MicrosoftのユーザーはSoBig.FとBlasterという2つの電子的攻撃に見舞われ,地球上のすべてのWindowsの導入先に障害を与えた。ヘッドライトで突然照らし出された鹿のように,こうした攻撃に対するMicrosoftの反応は,いくらよく見てもほとんど出てこなかった。Microsoftは攻撃を許したコードを数週間から数カ月以前に既に修正していたと弱々しく主張し,非難の矛先を,システムを最新の状態に保ち続けていなかったWindows管理者に向けようとしているように見えた。だが同社は,社内で非を正そうと努力を続けており,それに対応した最初の一歩はXP SP2の作り直しだった。

 ゲームの終盤でSP2をそんなに大きく変更することは当然遅れにつながるもので,Microsoftはひっそりと新しいロードマップをWebサイトに公開したが,それには元々の予定からは9カ月の遅れ,最初のXPのサービス・パックからは1年半以上の遅れで,2004年第2四半期と書いてあった。Microsoftの有名だがよく濫用される「サービス・パックには新機能はない」という言葉を額面通り受け取るユーザーは,妙に思うだろう。しかし,XP SP2は実際には新しい機能を追加するはずであり,このソフトウエアの巨人がこのリリースでWindowsをより安全にするために採ったステップに関して,ほとんどだれも文句がいえない。実際のところ,安全性を高めるいろいろな技術のおかげで,SP2のリリースはXPのセキュリティに関する状況を必ず大きく改善するだろう。