◆ユーザーの課題◆これまで使用していた経理,商品管理,在庫管理用のパッケージ・ソフトは連携機能が弱く,1枚の伝票を3つのソフトにそれぞれ入力する必要があるなどの手間がかかっていた。同社は観葉植物のWeb直販事業にも進出して取り扱いデータが急増しており,業務の効率化が急務だった。

◆選んだ解決策◆中小企業向けの統合業務ソフト「PCA Dream21」を導入して,会計,商品,資材在庫のデータベースを一元管理することにした。同ソフトの機能は「COM+」経由で外部アプリケーションから利用可能なので,他の業務アプリケーションはDream21と連携できるように開発し直した。

◆結果と評価◆伝票の入力回数が大幅に減少したほか,商品システムと資材在庫システムを連携させて商品の正確な原価把握が可能になった。業務システムの中核部分は,2人の社員がおよそ3カ月で導入できた。

 システムのアドオンが容易な中小企業向けの統合業務パッケージを利用して,会計データベース(DB)や商品DBと連携した業務システムをVBScriptだけで自社開発した企業がある。主に観葉植物の種や苗(種苗)を輸入・販売する広島市の山田農園である。

 同社は種苗の輸入業のほかに,公共施設の庭園を造成する造園事業,観葉植物を銀行のロビーなどに貸し出すレンタル事業,Webサイト(http://www.e-28.jp/)での観葉植物の直販事業などを手がけている。

 山田農園は従来,会計管理などに中小企業向けの業務パッケージ「奉行シリーズ」(オービックビジネスコンサルタント)を利用していた。会計システムは造園事業を営む関係で建設業向けの「建設奉行」を利用し,販売管理には「商奉行」,資材・在庫管理には「蔵奉行」を使っていた。

 山田農園の悩みは,これら奉行シリーズの各ソフト間でデータを連携させる機能が乏しいことだった。例えば同社の経理スタッフは,1枚の伝票を処理するのに,会計情報は建設奉行に,商品情報は商奉行に,在庫に関する情報は蔵奉行にそれぞれ手入力する必要があったという。

 商品の原価も把握しにくかった。商品である観葉植物は商奉行の商品DBに登録されているが,観葉植物の構成要素である「植物」や「鉢」は外部から調達したものなので蔵奉行の資材在庫DBに登録されていた。原価を調べるには両者をマッチングさせる必要があるが,その仕組みがなかった。

 観葉植物は典型的な多品種少量生産の商品で,アイテム数が非常に多い。そのため,手作業で原価を調べるのはほとんど不可能だった。

 また種苗輸入業務には貿易業務用のパッケージ・ソフトを利用しているが,このデータも建設奉行に自動的に転送できなかった。経理スタッフは,貿易業務に関する膨大な量の伝票を建設奉行にも手入力していたのである。

各種のDBをDream21に統合

図1●山田農園が稼働させた新システム
山田農園は,会計,商品,資材在庫のデータ管理を,統合会計パッケージである「PCA Dream21」に統合した。直販サイトの管理システム(兼商品販売システム)やレンタル業務システムなどのカスタム・アプリケーションは,いずれもDream21の商品,資材在庫データベースと連携している。サーバー・プラットフォームは全てWindows 2000 Server。
図2●「PCA Dream21」と他のアプリケーションとの連携図
「PCA Dream21」は,全機能がCOM+で実装されており,他のアプリケーションから全機能を直接利用できる。山田農園では,ASP(アクティブ・サーバー・ページ)で開発したWebアプリケーションやExcelファイルから,VBScriptを使ってDream21の機能を利用している。

 こうした非効率な業務システムを改善するため,山田農園は会計,商品,資材在庫のDBを一元管理し,各DBと業務用アプリケーションとを連携させることを決意した。実際に2003年7月から順次導入を開始したシステムが図1[拡大表示]である。

 会計,商品,資材在庫のDBはピー・シー・エーの中小企業向けの統合業務パッケージ「PCA Dream21」で管理する。このDream21の特徴は,会計や販売管理,在庫管理といったソフトウエアの全機能がWindowsのソフトウエア・コンポーネント技術「COM+*」のサービスとして実装されている点だ。Dream21のあらゆる機能のインターフェースが公開されていて,外部のプログラムやVBScriptから容易に利用できる。

 例えば山田農園の新システムでは,通販サイトの管理システムから商品DBに商品を登録したり,会計DBに販売データを登録したりできる。通販サイトの管理システムは自前で開発したASP*のWebアプリケーションで,ここからDream21の機能を直接呼び出して各DBを利用している(図2[拡大表示])。

業務とシステムが密接に連携

 新システムでは,COM+を利用したシステム間連携の仕組みが随所に組み込まれた。

 まず,通販サイトの管理システムだ。通販担当のスタッフが通販サイトの管理画面から商品を登録すると,それがDream21の商品DBに登録される。このとき,その商品を構成する資材の情報をDream21の資材在庫DBから参照できるので,商品の原価が自動的に把握できるようになった。

 商品の出荷に関する手続きも,システム間連携により自動化された。Webサイト上で商品の注文を受けると出荷管理用バーコードのタグが発行されるので,スタッフはこれを倉庫にある観葉植物に張り付けておく。商品を出荷するときは,このバーコードをリーダーで読み取ればよい。バーコードを読み込むと,出荷データと売り上げデータがDream21に自動的に登録され,在庫を減らす処理と売り上げの計上が行われる。従来なら別々のシステムに手入力していた作業が,バーコードの読み取りだけで済むようになった。

 通販サイト管理用のASPアプリケーションからDream21を利用する方法については,ピー・シー・エーが提供するExcelファイル用のVBScriptを参考にした。ASPの開発言語はVBScriptなので移植は容易だった。

 またバーコードの発行には,ブラザー工業の「P-touch 9500pc」という4万円のラベル・プリンタを使っている。この製品には専用プログラム以外からバーコード印刷などを可能にするソフトウエア開発キットがあるため,通販サイト管理システムにバーコード印刷機能を簡単に実装できた。これら基幹系システムの導入と開発は同課の横山浩一課長と二宗崇氏の2人が担当したが,かかった期間は3カ月だけだった。

新しい業務用システムを次々開発

 山田農園は通販サイト管理システムに続いて,様々な業務システムもDream21と連携するASPアプリケーションとして開発した。POSシステムや観葉植物レンタル用のシステム,造園業務用システムである。

 POSシステムは,同社のショールームを兼ねた販売店で利用するものだ。この販売店では,商品をそのまま持ち帰る顧客よりも,店で見たのと同じタイプの観葉植物を注文して,後日配送してもらう顧客のほうが多い。そこでPOSシステムは通販サイトの販売管理システムを流用し,店舗で受け付けた注文の出荷処理を通販処理の出荷処理と同じように処理している。

 レンタル業務用システムは,レンタル用観葉植物の単品管理をするシステムである。レンタル用観葉植物は,資材在庫DBに登録した上で,すべて2次元バーコードのタグを付加する(これも前述のラベル・プリンタで発行している)。観葉植物を貸し出す際には,貸出場所や期間を逐一登録する。

 この登録作業には,キヤノン製のWindows CEハンディ・ターミナル「プレア」を使用している。貸し出し時に2次元バーコードを読み取ると同時に,プレアに搭載した自社開発のアプリケーションから貸し出し先などを入力するようにしている。

 このシステムを導入したことで,個々のレンタル用観葉植物について「いくら稼いだか」「何日間稼働できたか」「枯れた場所はどこか」「枯らした担当者はだれか」が把握可能になった。

 貿易業務システムのデータのエクスポートも容易になった。この作業にはExcelとVBScriptを利用している。Excel上でVBScript稼働させて,貿易業務システムのOracleデータベースからODBC*接続でデータを読み込み,Dream21のCOM+インターフェース経由でデータを会計DBに登録する仕組みである。

 同社ECビジネス課の横山課長は「Dream21は奉行シリーズよりもユーザー画面の使い勝手が悪く,実はDream21への移行は経理スタッフの評判が悪かった。しかし,VBScriptやASPでこれだけのアプリケーションが開発できたのは,COM+ベースのDream21だからこそだった」と評価する。同社は今後も,出荷した商品の配送追跡システムなどを,Dream21と連携した形で開発する予定だ。

(中田 敦)