◆ユーザーの課題◆20数台のExchange Server 5.5が稼働していた大阪ガスでは,人事異動に伴うメールボックスの移動作業や多数のサーバーの運用管理に大きなコストがかかっていた。Exchange 2000 Serverへのバージョンアップを検討していたが,その全機能を利用するにはネイティブ・モードのActive Directory(AD)ドメインに移行する必要があった。

◆選んだ解決策◆Exchange 2000へのアップグレードと同時に,20数台のメール・サーバーを2台に統合した。ネイティブ・モードのADドメインに即時移行できない既存のドメインを段階的にアップグレードしつつ,電子メール専用のADドメインを別途構築してExchange 2000への移行をスムーズにした。

◆結果と評価◆Exchange Serverの統合により,異動に伴うメールボックスの移動作業をゼロにできた。サーバーの台数が激減し,センターで集中管理できるため,サーバーの運用管理コストも抑えられた。

 大規模な組織改革を実施する2003年4月を最終的な移行期限として,大阪ガスはWindowsネットワークと電子メール環境の短期刷新に取り組んだ。20数台の電子メール・サーバーを一気にリプレースする今回のプロジェクトは,Windowsドメイン構成の変更を含む大掛かりなものだったが,同社は2002年8月の計画開始から基本的な導入完了までを約5カ月の短期間で乗り切った。ここで採用されたドメイン設計は,移行をスムーズにする方法の1つとして非常に興味深い。

異動時のメールボックス移行が煩雑

 大阪ガスは5年ほど前,Windows NT Server 4.0のドメイン環境をベースに,電子メール/グループウエア・サーバーとしてExchange Server 5.5を導入していた。メール・アカウントの数は約1万に及び,拠点ごとに配置したExchangeサーバーの台数は20台を超えていた。

 こうしたExchange 5.5の利用企業に共通する悩みとして,人事異動が起こるたびにExchangeサーバー間でメールボックスを移動させなければならない――という問題がある。しかも,メールボックスの移動作業は面倒なマニュアル作業なので,利用企業にとって結構大きな負担になる。

 大阪ガスでは,メールボックスを移動させるのはユーザー自身だった。クライアント・ソフトのOutlookを介してメール・データをエクスポートし,異動先のExchangeサーバーにインポートしていた。この作業に半日くらいかかることもあるという。ヘルプデスクの負担も大きかった。

サーバーが減れば異動手続きも減る

図1●統合化されたExchangeサーバーのシステム構成
20台以上のExchange 5.5サーバーを,基本的に2台のExchange 2000バックエンド・サーバーに統合した。本番系システムの障害に備えて,コールド・スタンバイの予備系システムも用意。

 同社が2003年4月実施の「大規模な組織改革」までにメール環境を再構築したかった理由は,まさにここにあった。大量の異動者が出る組織改革までに,運用管理の手間がかからないメール・システムを導入しておきたかったのである。

 そのために大阪ガスが選択した方法は,20数台のExchange Server 5.5を2台のExchange 2000 Serverに統合し,システム・センターで集中管理することだった(図1[拡大表示])。約1万のメールボックスは,社員番号が奇数か偶数かで2台のサーバーに振り分けた。

 このように集中管理すれば,ユーザーの所属部署や勤務する拠点がどこになっても,メールボックスを移動させる必要がなくなる。実際,今年4月の組織改革のときでも,もくろみ通り,メールボックス関連の作業は一切発生しなかった。Exchangeサーバーを統合したメリットは非常に大きい。

 メール・サーバーの台数が10分の1以下に減るので,それだけ障害発生の回数は少なくなるし,障害が起こってもサーバーがセンターにあれば迅速に対応できるようになる。このメリットを重視していた大阪ガスは,「本当は1台のサーバーに統合したかった」(情報通信部情報システムチームの松本光司課長)という。だが,パフォーマンスの観点から2台構成にしたほうがよいと判断した。

既存ドメインの移行が
4月の組織改革に間に合わない

図2●大阪ガスにおけるWindowsドメインのアップグレード方法

 大阪ガスは理想的なソリューションを実現できたが,この環境を作り上げるには,それなりの準備と工夫が必要だった。

 一般に,Exchange 2000を導入する場合には2つの大きな課題があるとされる。1つは,Exchange 2000をインストールするときの前提条件となるWindows 2000 ServerのActive Directory(AD)環境に移行する必要があること。もう1つは,Exchange 2000のフル機能を利用できるように,ADを「ネイティブ・モード」で動作させることである。

 幸い,大阪ガスはNTドメインからADドメインへの移行を2002年8月に完了したばかりだった。拠点を地区別に整理して1ドメイン/7サイト構成のADドメインとし,各拠点と接続する通信回線も広帯域化していた(図2[拡大表示])。実はExchange 2000の導入プロジェクトは,この成果を受けてスタートしたのである。

 問題は,アップグレードしたADドメイン内にWindows NT 4.0のバックアップ・ドメイン・コントローラ(BDC)がまだ残っていた点である。つまり,ADが「混在モード」で動作している状態だ。混在モードでは,ADの一部の機能に制限が生じるため,ADに依存したExchange 2000の一部機能も制限される。

 しかし,BDCがファイル・サーバーとしても利用されていたり,BDCのハードウエア・リース契約の残り期間が長かったりしたため,早期にBDCを排除して「ネイティブ・モード」に移行するのは難しかった。特に,デッドラインとした2003年4月の組織改革までに移行するのは無理だった。

メール専用のADドメインを追加
グループ企業での共有も視野に

 そこで考え出された妙案は,Exchange 2000専用にネイティブ・モードで動作するADドメインを並行稼働させることだった。この方法なら既存のドメインが混在モードのままでも構わないし,Exchange 2000のフル機能を利用できる。

 メール専用ドメインには,既存のドメインと同じユーザー・アカウントを用意し,2つのドメインを信頼関係でつないだ。ユーザーは既存のドメインに1回ログオンすれば自動的にメールも使えるようになる。

 2つの異なるドメインに同じユーザー・アカウントを登録して維持していかなければならないが,「メンテナンスが必要なのは基本的に社員の入社時と退職時だけであり,作業を自動化する仕組みも用意しているので負担にならない」(オージス総研ネットワーク技術部ネットワーク開発チームの池田大氏)という。

 既存のドメインがネイティブ・モードに移行できた段階でメール専用ドメインを吸収することは可能だが,大阪ガスはメール専用ドメインを存続させる方針だ。グループ企業との連携強化を図るため,将来,このドメインとExchange 2000を他のグループ企業と共有することを視野に入れている。この点も今回のドメイン構成を採用した主要な理由の1つである。

(渡辺 享靖=takayasu@nikkeibp.co.jp)