ユーザーはただ提出するだけでよい

 コンテンツを提供するには,まず文書受け付け用のWebサーバーにアクセスして「発行文書台帳」を呼び出す。これはSPSとは全く別のサーバーで簡単なデータベース・アプリケーションが入っている。この台帳に検索キーワードなどの情報を記入し,コンテンツを提出する。提供者の作業はこれだけで終わりである。ワークスペースへの登録は,SPSの操作方法を知っている特定の登録担当者が行う。

 提供者自身はSPSに関する知識を持つ必要がなく,ただ提出するだけでいい。しかも提供するコンテンツは電子データでなくても構わない。「文章まで手書きする人はほとんどいないが,紙の資料を切り張りせざるを得ない場面は少なくない」(木村氏)。そのような文書は,台帳に記入した後で登録担当者に手渡しすればスキャナで電子化したものを登録してくれる。

必要な情報を簡単に検索できる

 こうして提供を受けたコンテンツを活用するには,欲しいコンテンツを探し出す仕組みが必要だ。検索精度が悪いと利用者離れを招く。すると手間を掛けてコンテンツを公開する意味が薄れ,それがまたサイトの価値を下げるという悪循環に陥ってしまう。

 ここでも先のコンテンツ登録の仕組みが生きてくる。登録担当者が台帳への記入をチェックして,適切なキーワードが入っていないと判断すれば,コンテンツ提供者に修正を促せる。専用のワークスペースを持ったことも幸いした。SPSはワークスペースごとにインデックスを作成するので,センターの文書以外はヒットしない。ワークスペースを独立させなくても検索条件を細かく指定して技術文書だけに絞ることはできるが,「普通のユーザーはそんな面倒な機能は使わない。キーワードを入れて検索ボタンを押すだけで必要な情報を呼び出せるというのが望ましい形だ」(木村氏)という。

最新の特許情報を半自動で登録

 もう1つの要望だった特許情報の検索機能もシステム化にこぎ着けた。

 もともとNSKの商品であるベアリングや自動車部品に関しては,本社の知的所有権を管理する部門がクリッピングを行ってデータベース化している。ところが,センターでは製造機械に関する特許が興味の対象で,本社のサービスがあまり役に立たなかった。

 システム化する前は,本社でのクリッピングが済んだファイルをまるごともらい受けて藤沢まで運び,紙のまま回覧していたという。「何しろ膨大な量なので回覧するだけでも時間がかかる。半年かかるということも珍しくなかった」(船津氏)という。

 クリッピング作業自体は専門業者に外注することにした。「定型のフォーマットになってCD-ROMで送られてくるので,SPSに流し込むアプリケーションをVisual Basicで自作した。CD-ROMをドライブに入れて,後は半自動で最新情報を登録できる」(船津氏)。この結果,半年かかっていた特許情報の回覧も,ものの数分で全員が参照できるようになった。

ユーザーの意識改革が決め手

図3●本社が運用するサーバーに間借りしている
「予算ゼロ」でスタートしたため,ポータル・サーバーは東京の本社が運用しているSharePoint Portal Serverの領域を借りて構築した。

 こうして,当初の目標だった情報共有と特許検索は2001年秋口までに軌道に乗った。細かな改良を加えて1年余り運用するうちに,他部署でもこのシステムに興味を持ち,導入を検討したいという話が聞かれるようになってきたという。

 現在,大きな問題は抱えていないが悩みはある。1つは速度の問題だ。東京の本社を経由してデータセンターのSPSにアクセスしている(図3[拡大表示])。このため,藤沢工場-本社間の回線の細さがボトルネックになっていた。この件は11月末にも回線が増強されることになり解決のめどが付いた。

 もう1つの悩みは機能の改良がままならないことだ。「キーワードからその分野の適任者を捜す“Know Who”検索機能などに挑戦してみたいが,本業もあって大きな改良にはなかなか手が着かない」(木村氏)。

 ただ,様々な情報をそろえたり,使い勝手を良くしたりするばかりではなかなか「使ってもらえるシステム」は作れない。最後の決め手は「ユーザーの意識改革を促すこと。これに尽きる」(木村氏)という。

(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)