◆ユーザーの課題◆機械部品メーカーの日本精工で生産設備の設計/開発を担当する部署「生産技術センター」は,技術文書や特許情報など,やり取りされる情報を満足に共有するインフラがないことに悩んでいた。高額なシステム構築費用をねん出するだけの余裕もなかった。

◆選んだ解決策◆全社で導入したSharePoint Portal Server 2001を「間借り」して,センター独自の部門ポータルを構築した。利用に必要な知識を極力減らすため,コンテンツを登録する担当者を置いたり,組み込み機能を使わず単純なポータルにした。

◆結果と評価◆必要な情報を取りそろえる本来のポータル機能を充実させたことに加え,習得の容易さを重視した設計も奏功し,ポータル活用に向けた利用者の意識改革が進んだ。

 日本精工(NSK)はベアリングを主力とした機械部品メーカーである。ベアリングの生産量は国内1位,世界でも2位の大手だ。2001年9月にはマイクロソフトのSharePoint Portal Server 2001(SPS)を使った社内ポータルを稼働させている。

 この全社向けポータルのサーバー・マシンに「間借り」する形で,自分たちだけの部門ポータル・サイトを立ち上げた部署がある。同社の藤沢工場(神奈川県藤沢市)にある「生産技術センター(以下,センター)」である。工場にある生産設備の設計・開発を担当する技術部隊で,およそ120名のエンジニアが在籍する大所帯だ。

 全社向けポータル用に情報システム部門が導入したものと同じマシンで稼働しているが,別の「ワークスペース」に構築してある。ワークスペースとはSPSで文書を格納する論理的な領域で,通常1つのワークスペースが1つのポータルに相当する。このため論理的には全社向けポータルから独立しており,運用ルールなどにもセンター独自の創意工夫を凝らしている。

手探りでサイトの自作に着手

 部門ポータルを作る計画が立ち上がったのは2000年秋のこと。紙文書の回覧が中心の,非効率な情報共有に業を煮やした当時のセンター所長の決断だった。ファイル・サーバーはあったが,皆が好き勝手にフォルダを作って保管するだけで,どこに何があるか分からない状態になっていたという。

 構築を任されたのは,自身もユーザーとしてそのポータルを利用することになる生産技術センターの2人のエンジニアである。所長の要望は「技術文書の共有と,特許情報の検索の2つをシステム化すること。ただし予算はゼロで」というものだった。

 「初めは全く手探りの状態だった」(生産技術センターの船津隆弘副主務)。「『ナレッジ・マネジメント』という言葉すら知らないまま取りかかったが,ソフトウエア・ベンダーのセミナーなどで勉強するうちに,使いやすいポータル・サイトを作ればうまくいきそうなことがわかった」(生産技術センターの木村伸司主務)という。

 最初に行き当たった問題は「予算ゼロ」の条件だ。当時SPSがベータ・テスト段階にあり,必要な機能を備えていることは分かっていたが,購入する予算はない。その矢先,本社の情報システム部門がSPSを導入することが分かった。全社向けなのでセンター用のライセンスも当然含まれている。情報システム部門に頼み込み,このSPSに専用のワークスペースを用意してもらうことで難関をクリアできた。

コンテンツ管理は担当者を置く

 システム構築にあたって2人が念頭に置いたのは「とにかくサイトを見に来てもらうこと」である。センターのエンジニアは,常にコンピュータに向かって仕事をしている人ばかりではない。まずは様々なコンテンツを取りそろえるようにした(図1[拡大表示])。

 センター所長の2つの要望のうち,まず文書共有の機能から着手した。SPSの文書管理機能をベースに独自の工夫を重ねている。重視したのはコンテンツ提供者に極力余計な手間を掛けさせないことだ。

 SPSの通常の使い方は,ユーザーが対等の立場でコンテンツを登録したり,閲覧するというものだ。コンテンツを提供する人に対して「作成者」の権限を割り当てて運用することが多い。作成者はWebブラウザを使ってワークスペースを操作できる。この機能はSPSの大きな特徴だが,利用するにはSPSのバージョン管理機能などの知識が必要になり,ハードルが高くなってしまう。そこで2人が考え出した解決策はSPSの想定する使い方ではなく,代わりに登録担当者を置いて,コンテンツを管理することだった(図2[拡大表示])。

図1●構築した生産技術センターのポータル・サイト
様々なコンテンツをそろえて,普段PCを使っていないユーザーが取りあえず訪れやすい情報を集めた。
 
図2●ポータル・サーバーへの登録作業を担当者1人に集約した
コンテンツを充実させるために,利用者に対するトレーニングを最小限に抑えることを目標にした。その結果,ポータル・サーバーに文書を登録する担当者を1人だけに限定する独特の仕組みができあがった。
(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)

次回(下)へ続く