◆ユーザーの課題◆2000年に生まれ変わった新生銀行(旧日本長期信用銀行)は,新たに始めるリテール・ビジネス向けのシステムを早期かつ低コストで立ち上げる必要があった。また365日,24時間のサービス提供を目指すために,ノン・ストップ稼働が求められていた。

◆選んだ解決策◆開発の速さと低コスト化を狙って,勘定系を含む基幹業務もWindows 2000 Serverで構築した。すべてのサーバーを2重化するなど,十分な安全対策を施した。ソフトウエアは実績のある業務パッケージを全面的に採用し,カスタマイズを最小限にして開発コストの削減と期間の短縮を図った。

◆結果と評価◆メインフレームを採用した場合と比べて,10分の1のコスト,3分の1の開発期間で完成させた。同時に,ATM(自動現金預け払い機)のOSにもWindowsを採用してレスポンスを向上させた。今後,メインフレームなどで構築した既存システムも,Windowsで全面的にリプレースする計画だ。

 「システムを安く作り,ATM(自動現金預け払い機)利用料,振り込み手数料を無料にしてお客様に還元したい」。2001年12月の六本木支店開店セレモニーで,新生銀行の八城政基社長は同行の方針を改めて明確にした。

 新生銀行の前身である日本長期信用銀行は,1998年10月に金融再生法に基づき一時国有化され,2000年3月に米投資組合「ニュー・LTCB・パートナーズ・C.V.」に買収された。新たな経営体制の下で,同年6月に行名を新生銀行に変更した。

 新生銀行の社長に就任した八城社長はシティグループの日本代表を務めた経験があり,スタッフにも同グループ出身者が多い。新生銀行は,業務の主軸を従来の金融債の発行と事業法人への融資事業から,個人顧客を相手にするリテール・バンクを主軸の1つとしていく方針だ。

 厳しい銀行間の競争に勝ち抜くために,同行は冒頭の発言にあるような手数料の無料化を打ち出した。円普通預金,外貨普通預金,投資信託などの複数金融商品を1つの口座でまかなう「PowerFlex」や,インターネット・バンキング,コール・センターによるサービス提供,2001年12月から始めた年率2%の定期預金――。こうした矢継ぎ早の新サービスは,すべてWindowsを全面的に採用したシステムで運用されている。基幹系システムにはメインフレームを使うのが半ば常識の銀行にあって,Windowsベースの“異例”な基幹系システムが新生銀行の改革を支えている。

徹底した低コスト化を図る

図1●今回開発したリテール業務のシステム構成図
すべてにWindows 2000 Serverを採用し,Webベースの3階層で構築した。

 今回,新生銀行が開発したWindowsベースのリテール業務用システムは,徹底したコストの削減を図り,パッケージ・ソフトとWebシステムを基盤としていることが特徴である。

 フロントエンドに7台のWebサーバーを配置し,17台のアプリケーション・サーバーと2台のデータベース・サーバーでリテール業務を処理する(図1[拡大表示])。データベース管理ソフトにはOracleとSQL Serverを採用した。アプリケーション・サーバーとデータベース・サーバーはすべて2重化し,システム障害に備えた。クラスタ構成やコールド・スタンバイ機を合わせて約50台を運用している。

 サーバーには,いずれも2~4プロセッサを搭載するミドルレンジのマシンを採用した。「16プロセッサや32プロセッサ搭載のサーバーを使うより,小さいマシンを多数並べたほうが処理効率も価格性能比もよい」(システム企画部のPieter Franken部長)。

 サーバーはデルコンピュータとコンパックコンピュータ製。全国25店舗とコール・センターにある3000台強のクライアント・マシンは,すべてデル製だ。「国産メーカー製も検討したが,価格性能比を重視してデルやコンパックを選択した」(システム企画部の大川 信之シニアマネージャー)。

 Webベースのシステム・アーキテクチャを採用した理由の1つは,既存システムとの共存だ。従来,メインフレームにアクセスするときは専用端末が必要だった。しかし,メインフレームへのアクセスもWebベースにすることで,1台のPCからリテール向けシステムとメインフレームの両方にアクセスできるようになる。

ソフトはパッケージの組み合わせで

2000年6月 要件定義
8月 単体テスト,カスタマイズ開始
11月 システム統合テスト
12月 ユーザー・アクセプタンス・テスト
2001年4月 行内での先行稼働
6月 サービス提供開始
表1●システム開発の履歴
トータルで1年と金融システムの開発としては非常に短い期間で完成した。

 新生銀行がシステムを安く,早く構築できた秘訣は,ソフトの開発方法にもある。同行はパッケージ・ソフトを大胆に導入し,カスタマイズも最小限に抑えた。例えば入出金管理やローンなどの基幹業務にはインドにあるシティグループの関連会社i-flex solutionsの「FLEXCUBE」,新生銀行が重視する顧客マーケティング・システムには日本シーベルの「eFinance」を採用するなど,システムの大部分にパッケージ・ソフトを導入した。

 Franken氏は今回のソフト開発を「(おもちゃの)レゴのように組み合わせた」と話す。開発作業の大半は,パラメータ・ベースのカスタマイズとセットアップ作業だった(表1)。コーディング作業はおよそ4カ月で完了。その作業量は全工程のわずか1~2%程度に過ぎなかったという。

 Franken氏は大まかな数字だと前置きをしながら,「メインフレームで開発していたら3年と300億円がかかっただろう。だが今回のシステムは,1年と30億円で開発できた」と語る。

脱メインフレームの真意と確信

 金融システムでは半ば常識であるメインフレームを採用せず,Windowsでシステムを構築しようとした理由は,独自性を出し,コストや開発スピードの面で競争力を確保するためには不可欠だったからだ。

 メインフレームが金融機関で実績があるのは,各行が同じような営業形態だからだと大川氏は見る。9時から15時までの窓口営業,専用端末による操作,伝票処理を中心としたデータ管理,専用線での店舗間接続などだ。

 「メインフレームの世界では,他行用に開発したシステムをパッケージと称して80%程度使用し,残りの20%をゼロから開発している」(大川氏)。メインフレームで蓄積されたソフト資産は,差別化を図りたい新生銀行にとって,足かせになりかねなかった。

 それにしてもWindowsでシステムを構築するという,決断を下せた根拠は何だったのだろうか。一番大きな要因は,同行のシステム設計の中核メンバーがシティバンク在籍時に,同様のシステムを構築してきたという“経験”だったようだ。シティバンクでは1992年から,新規システムはUNIXかWindowsのどちらかで開発してきたという。そこでの技術的な蓄積が自信につながった。もちろん,システム開発を成功に導けたのは,開発チーム全体の技術レベルが高かったためであることは言うまでもない。

稼働後の半年でATMが1時間半停止

図2●インターネット・バンキングの画面
普通預金,外貨預金,振り込み,レート確認などが1つの画面で行える。一定の条件を満たせば手数料はかからない。
[図をクリックすると拡大表示]

 当初の目標通り,新生銀行は2001年6月にWindowsベースのリテール業務システムを稼働させた。だが稼働後,間もなくATMが1時間半停止する事態があった。

 原因はOracleに関連した問題だったという。業務系データベース・サーバーは,共有データベースに複数のマシンから同時にアクセスできるオプション機能「Oracle Parallel Server(OPS)」を使ってクラスタ構成にしていた。OPSはサーバー・メーカーが提供するノード間通信キットの「Operating System Dependent(OSD)」と一緒に利用するが,新生銀行はOPSかOSDのどちらかに原因があると見ている。だが,それ以上詳細に問題点を特定できなかったため,障害発生以降はOPSの使用を中止した。

 代わりに,フェイル・オーバー機能を提供する「Oracle Fail Safe(OFS)」を導入した。複数のマシンから同じデータベースに同時アクセスすることはできないが,一部のサーバーに障害が発生しても,他の正常なマシンに処理を引き継げる。OFSを導入した後は安定動作している。

 ATMのダウンは銀行にとって重大なトラブルだが,「Windowsベースのシステムだから不安定」というわけではなさそうだ。2001年10月に東京三菱銀行が約3時間ダウンさせたり,UNIX系システムを運用するソニー銀行が2001年6月と9月に2度のシステム障害を起こしたりするなど,他のプラットフォームでもときどき障害が起こっている。

 新生銀行は,まもなく提供開始する住宅ローン商品に対応したシステムの新規開発に着手する。一方,メインフレームで構築した既存のローン・債務用システムや,UNIXの投資信託用システムもWindowsベースで再構築する計画だ。いずれは新生銀行の全システムをWindowsプラットフォームに移行させる考えだ。

(茂木 龍太=mogi@nikkeibp.co.jp)