■ベンチャ企業のメディアゲートは,インターネット・オークション・サービスを利用した広告/販売推進サイト「プライスロト」をWindows 2000で構築。KDDIなどにコンテンツを提供している。
■システムには非常に高い負荷がかかるものの,安定性には問題がないとしてWindows 2000 Serverや同Advanced Serverを選択した。1秒当たり4000以上のユーザー・セッションを安定した動作で処理している。
■システムは東京のデータセンターで稼働しているが,運用管理のほとんどはターミナル・サービス経由で韓国から遠隔で実行している。

図1●メディアゲートが運営する「プライスロト」のWebサイト

 ベンチャ企業のメディアゲートは,インターネット・オークションを利用した広告/販売促進サイト「プライスロト」(http://www.priceloto.com/)をWindows 2000ベースで構築,2001年1月から運用している(図1)。現在,通信会社KDDIが運営するインターネット・サービス・プロバイダ「DION」,およびポータル運営会社エキサイトのWebサイトにプライスロトのコンテンツを提供している。

 メディアゲートは,韓国のDigitalFK社(http://www.digitalfk.com/)が,日本のベンチャ・キャピタルであるジャフコなどの出資を受けて設立した企業である。プライスロトのシステムもDigital FKの関連会社などが中心となって開発した。

安定性は十分,アプリも作りやすい

 インターネット・オークション・サイトには,瞬間的に多量のアクセスが集中することがある。例えばプライスロトでは,オークションの入札開始直後に1秒当たり4000以上のユーザー・セッションが発生するという。

 このように負荷の高いシステムのプラットフォームとしては,一般に高性能で安定性が高いと考えられているUNIXベースのサーバーを用いることが多い。しかし,韓国では,負荷の高いシステムでもWindowsがよく使われるようになってきたようだ。

 「確かに韓国でも,UNIX系OSの安定性について日本と同じようなイメージはある」(メディアゲート 開発室 鄭栽洙室長)。ただし,Windows NT 4.0以降,特にWindows 2000がリリースされてからは,Windowsベースでも十分に実用的な安定性を得られるという認識が広がってきたという。もちろん,余裕のあるハードウエアと適切なチューニングは不可欠だが,「安定性の面で不安がなくなれば,アプリケーションを作りやすいWindowsのほうが採用しやすい」(鄭氏)。

 英語版のソフトに対する抵抗が少ないことも,韓国でWindowsの利用が進む一因だという。実際にプライスロトのシステムでも,意図的に英語版のWindows 2000を採用している。英語版はService Packなどのリリースが他言語版に比べて早い。英語版を使えば,既知のセキュリティ・ホールをふさげないまま,戦々恐々としてService Packを待つといった事態を避けられる。

受付開始と同時に入札がひしめく

図2●プライスロトの仕組み
入札可能な金額の範囲をあらかじめ設定して,1つの額に1人だけ入札できるようになっている。落札者は入札金額にかかわらず抽選で決定,落札価格もその落札者の入札金額になる。このため,ほとんどの商品では入札開始と同時にアクセスが集中し,安い方から順に入札枠が埋まっていく。

 プライスロトのオークションは「ロトオークション」と呼ぶ独自形態のサービスである。一般的なオークションと異なり,あらかじめ入札可能な金額の範囲が決まっている。落札者は入札金額に関係なく,抽選で決める。

 例えば,100~1099円の範囲で出品された商品があるとする(図2[拡大表示])。入札は1円単位で,1つの価格には先着1人しか入札できない。この例では最大1000人までの入札者から抽選で落札者が決まることになる。

 このような仕組みを採っているため,プライスロトへの入札は受付開始時に集中する。つまり受付開始と同時に入札範囲の下限に近い方から順に入札されていく。図2の例では100円,101円という順に入札される。「例えば3000人限定での出品ならば通常は受付開始から数時間で入札がいっぱいになる」(メディアゲート 内田光昭副社長)という。オークション形態をとっているが,実際には抽選でのプレゼントに近いサービスである。出品者のほとんどは企業で,潜在顧客の開拓などセールス・プロモーションの媒体として利用している。

ASP/COMベースでIISアプリを構築

図3●プライスロトのシステム構成
集中的なアクセスに耐えられるように,負荷分散装置でWebアプリケーション・サーバーをスケール・アウト可能な構成にしている。データベース・サーバー以外のサーバー・マシンはすべてWindows 2000 Serverを搭載。

 プライスロトのWebサイトには瞬間的に大量のアクセスが殺到するため,複数台のWebアプリケーション・サーバーで負荷分散を図り,バックエンドに大型のデータベース・サーバーを置く構成にした(図3[拡大表示])。大規模なWebシステムとしては典型的なアーキテクチャである。

 現在,Webアプリケーション・サーバーが4台,データベース・サーバーが1台ある。そのほかに,ファイアウオールやメール配信のためのExchange 2000サーバーや,レポート作成のためのログ解析サーバーが稼働している。

 Webアプリケーション・サーバーへのアクセスは負荷分散装置を使って4台のサーバーに振り分けている。1台のWebアプリケーション・サーバーで,1秒間に2000程度のセッションを処理できるように設計した。それぞれのWebアプリケーション・サーバーはIIS(Internet Information Services)を搭載し,ASP(Active Server Pages)とCOM(Component Object Model)コンポーネントを組み合わせたWebアプリケーションを稼働させている。

 一方,データベース・サーバーにはインテルのXeonプロセッサを8個搭載したマルチプロセッサ構成のサーバーを採用した。Windows 2000 Advanced Server上でデータベース管理システムのSQL Server 2000を運用している。

東京のサーバーを韓国から遠隔管理

 構築したシステムは東京都中央区にあるKDDIのデータセンターに設置し,10Mビット/秒の回線でインターネットに接続した。9台あるサーバーは,ほとんどすべて遠隔操作で管理している。しかもサーバー管理者のほとんどは韓国にいる。サーバー側でWindows 2000のターミナル・サービスを動かし,インターネット経由で遠隔管理している。

 システムの稼働から3カ月程度は,技術者が日本と韓国を頻繁に行き来していた。稼働開始当初のデータベース・サーバーは,現在より小型の4プロセッサ・マシンと1世代前のSQL Server 7.0で運用していた。そのためか,Webサイトへのアクセス数が設計値を超えたとき,サーバーの動作がいま一つ安定しなかったのだ。

 そこで,サーバー・マシンを現在の8プロセッサ・マシンに切り替えるとともに,データベース管理システムをSQL Server 2000にアップグレード。さらにSQL Server 2000に細かなチューニングを施したところ,5月ごろからは安定して動作するようになった。それ以来,技術者が日本と韓国を行き来することは少なくなり,日本のオフィスに常駐する技術者は現在1人を残すだけとなった。

 メディアゲートは現在もプライスロトの会員を積極的に増やしている。2001年6月末で15万人だった会員数は,8月初めまでのおよそ1カ月半で既に20万人を超えたという。今後もアクセスの増加が見込まれるため,サーバーを別のデータセンターに移し,インターネット回線を100Mビット/秒に増強する計画だ。

 会員数の増加と回線の増強に伴って,システムへの負荷が一層高まる懸念はある。しかし,当分は現行のシステム構成のままでも,Webアプリケーション・サーバーをスケール・アウトすれば対応できるという。データベース・サーバーの処理能力にも,まだ十分な余裕がある。

(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)