西武百貨店は,2001年1月に全社導入したExchange 2000システムを使って,業務改革を推し進めている。ネットワークのサーバーOSは,従来のNT 3.51から,一気にWindows 2000 Serverに切り替えた。
■ExchangeのクライアントでもあるOutlook上に業務ポータル画面を用意した。情報共有の高速化など,早くも成果を上げつつある。
■クライアントにもWindows 2000 Professionalを導入した。グループ・ポリシーを使ってユーザーの環境を一括管理し,パソコン故障時に業務の中断を最小限に抑える仕組みを整えた。

図1●西武百貨店が導入したWindows 2000 ServerとExchange 2000 Serverによるネットワークの概要
25店舗を含む29拠点をシングル・ドメインで構築する。各拠点にドメイン・コントローラを配置し,Windows 2000ドメインのサイトを分ける。本部やユーザー数の多い拠点には複数のExchangeサーバーを置いて,ユーザーを分散する。

 西武百貨店は2001年1月に,全社のネットワーク・インフラをWindows 2000 Serverで再構築した。同時に全国25店舗を含む29拠点に,マイクロソフトが2000年11月に発売したばかりのExchange 2000 Serverを早くも導入し,本番稼働を始めた(図1[拡大表示])。

 デジタル・ダッシュボードと呼ぶポータル画面をExchangeのクライアントでもあるOutlook上に作り,業務の多くをポータル画面から実行するように業務改革も進めている。新しい店舗ディスプレイを全店舗に指示するような場合に情報伝達/共有のスピードが大幅に向上するなど,すでに成果を上げつつある。

 同社は従来,NT Server 3.51とExchange Server 4.0でシステムを構築していた。電子メールや掲示板で活用していたものの,それだけでは「情報の伝達スピードや社内の知識共有は不十分だった」(情報システム部情報システム課の小中貴文課長)。こうした課題を克服するため,各種の業務別にポータルを設けることにし,そのプラットフォームとしてExchange 2000 Serverへの移行を決めた。

 同社は現在,POSの販売管理システムなど,既存の業務システムを全面的にWebアプリケーション化する作業も進めている。情報系のシステムだけでなく,これらのWebアプリケーションもポータルに集約して利便性を高め,業務の刷新を図る。

既存ドメインからの移行を見送り 全社ドメインを新規に構築

 Exchange 2000を導入するには,Windows 2000ドメイン(Active Directory)の構築が前提となる。西武百貨店は今回,全社規模のシングル・ドメインを構築した。同社は従来,拠点ごとにNTドメインを構築していた。既存のドメイン情報を新しいWindows 2000ドメインに生かすなら,まず複数あるNTドメインを1つに統合しなければならない。

 しかしNT/2000では,あるドメインのユーザー情報やアクセス権情報を別のドメインに移動するには,移行ツールなどを使った面倒な作業が必要だ。そのためドメインの統合は容易ではない。西武百貨店は,ドメインの移行やその検証作業にかかる費用を考慮し,既存のNTドメインからの移行をあきらめた。そして全く新規にWindows 2000ドメインを構築した。

 各拠点にWindows 2000の物理ネットワークの分割単位であるサイトを設定し,ドメイン・コントローラとExchange 2000サーバーを配置した。クライアント数が1200台を超える本部には,ドメイン・コントローラ,Exchangeサーバーともに,4台ずつ配置。アクセスするユーザーを分散させている。ユーザー数の多い池袋西武と渋谷西武,そして,群馬県館林にある富士通のデータ・センターにも,2台のExchangeサーバーを導入した。

 サイトを分けることで,認証トラフィックを少なくした。店舗の掲示板は店舗のExchangeサーバーに,全社掲示板は館林のExchangeサーバーに格納するなど,Exchangeサーバー間のデータの複製ができるだけ少なくて済むような工夫も施した。

 サーバーの運用は,システムの構築も手がけた富士通ビジネスシステムが担当している。ネットワーク・サービス・センターと呼ぶ管理拠点から,常時監視している。「システム119」と呼ぶサポート・デスクでは,ユーザーからの問い合わせ内容をデータベースに蓄積し,西武百貨店の情報システム部門に公開している。将来は,ナレッジ・データベースとして,一般ユーザーにも公開する予定だ。

 サーバーの移行に合わせ,クライアントもNT Workstation 3.51からWindows 2000 Professionalへの移行を進めている。すでに約3000台のWindows 2000クライアントを導入した。従来の業務アプリケーションの一部がWindows 2000で正常に動作しない問題があるため,現状では約1000台のパソコンはNT 3.51のままだが,業務アプリケーションのWeb対応が完了すれば,順次Windows 2000に移行する予定だ。

図2●業務別ポータル画面の例
売り場向けや管理業務向けに,個別のポータル画面を用意。管理業務向けには業界関連ニュースのクリッピング情報を提供するなど,ユーザーの業務に合わせたメニューを作成している。

ポータルで業務への入り口を統一

 新システムの導入目的の1つは,情報伝達の高速化である。メールや掲示板の利用はもちろんだが,これは従来のExchangeシステムでも利用していたもの。今回情報共有のスピードを大きく高めることができたのは,デジタル・ダッシュボードを使ったポータル画面によるところが大きい。

 デジタル・ダッシュボードは,Outlookの画面上にユーザーが頻繁に利用する様々な情報を使いやすい形でまとめて表示する仕組みだ。この機能を利用して,西武百貨店は,Outlook起動時の画面に,メールとスケジュール,本社または店舗掲示板を表示するようにした。更に,店舗用ポータル画面,管理用のポータル画面で業務に必要な情報を1カ所にまとめ,図2[拡大表示]のような形で提供している。

 情報共有のスピードアップは着々と実現されている。例えば同社には,店頭のショー・ウインドウや店舗内通路のディスプレイの仕方を,「ビジュアル・プレゼンテーション」として各店舗に知らせる業務がある。これをOutlookのポータル画面に載せ,全店舗に迅速に知らせることができるようになった。「従来のやり方では,このスピードは絶対に実現できないものだった」(小中課長)。

 現在Web対応を進めている業務アプリケーションなど,今後もポータルから利用できる業務システムを充実させていく。小中課長は,「小売業である当社は接客が主要な業務だが,接客以外の業務については,すべてをこのポータルに載せたい」と意気込む。個人の属性に応じてデジタル・ダッシュボードに表示する内容を使い分けることも検討している。

図3●IntelliMirror機能の一部と予備用パソコンで故障時の早期復旧を図る
Windows 2000のグループ・ポリシーを使って,ユーザーの作業環境をすぐに復旧できるようにしている。

パソコン故障時の業務中断を防ぐ

 西武百貨店は,Windows 2000の主要な新機能であるActive Directoryを高く評価している。小中課長は,「NTのドメイン管理は,パソコンを利用するためにしなければいけない設定でしかなかった。Active Directoryは,企業全体として利用できる情報インフラと言える」とActive Directoryの真価について語る。実際同社では,Active Directoryのユーザー情報に,基幹システムの人事情報からユーザー名や所属情報を取り込むなど,その機能を十分に活用している。

 クライアント・パソコンの管理にも,Active Directoryの機能をフルに使っている。クライアント環境を統合管理するためのグループ・ポリシーの仕組みを利用して,ユーザー・データの格納場所やデスクトップ環境をサーバー側で一括管理している(図3[拡大表示])。ユーザーのデータはすべてサーバー上に保存するように設定したほか,ユーザー自身がアプリケーションをインストールできないように制限をかけている。こうした管理の目的は,ユーザーのパソコンが故障した場合でも,データを消失することなく元の作業環境を短時間で復旧し,業務の中断をできるだけ短くすることだ。

 同社は各拠点に,アプリケーションやドメインへの接続を設定した状態の予備パソコンを用意している。パソコンに障害が発生したときは,ユーザーは予備機を使ってドメインにログオンし,Exchange Serverへの接続,デジタル・ダッシュボードを利用するための設定,プリンタへの接続などを設定する。OSやアプリケーションの設定,データの復元といった作業は必要なく,「エンドユーザーでも簡単に設定できる」(小中課長)。今後は必要に応じて,アプリケーションの配布やバージョンアップにも,グループ・ポリシーを利用していく考えだ。いわゆるWindows 2000の「IntelliMirror」の機能をフル活用することになる。

(森重 和春=morishig@nikkeibp.co.jp)