●マイクロソフトはWindows XPの正規ユーザーだけに無償で追加ソフトを提供する施策を3月15日に開始した。正規品を購入するメリットを訴えて,不正コピーの防止を狙う。
●3月1日からは,OEM版Windows XPのプロダクトIDを使った場合のネットワーク経由のライセンス認証を中止している。OEM版でシステム展開ツール「Sysprep」を利用しているユーザーは,ネットワーク経由でライセンス認証ができなくなる可能性があり,注意が必要だ。

図1●マイクロソフトが3月15日から開始した「Windows Genuine Advantage Program(WGAプログラム)」の詳細
図2●WGAについて説明したWebページ
右の「How to Tell」ページでは,ソフトをダウンロードしなくても正規品かどうかを確認できる。
図3●Windows Genuine Advantage Programによる認証の仕組み
図4●正規品であることを証明するCOA(Certificate of Authenticity)
図5●Windows XPでネットワーク経由のライセンス認証が一部中止になった
 マイクロソフトは3月,Windows XPの不正コピー対策を強化する施策を相次いで実施した。3月15日から開始したのは,正規ユーザーに特典を与えて,不正コピーを抑止する「Windows Genuine Advantage Program」(WGAプログラム)である(図1[拡大表示],2[拡大表示])。これに先立つ3月1日からは,Windows XPのネットワーク経由でのライセンス認証(プロダクト・アクティベーション*)方針を変更している。盗難や転売されたOEM版のプロダクトIDを使った場合,ネットワーク経由でアクティベーションをできなくした。

正規品を使うメリットを訴える

 まずWGAプログラムでは,Windows XPの正規ユーザーに対して,付加価値のあるソフトを新たに無償で提供し,このソフトのダウンロード時に,Windows XPが正規品かどうかを認証する。マイクロソフトは,正規品を購入することのメリットを訴えて,不正コピーの抑止を狙う。「Genuine」には「本物の」「正真正銘の」などの意味がある。

 WGAプログラムは,不正コピー対策として米国で2004年9月から試験運用を開始しているもので,国内でも基本的には同様の仕組みで試験運用を始める。ただし,日本市場は偽造ソフトウエアの割合があまり多くない。そのため,マイクロソフト日本法人は「WGAは,Windows XPユーザー向けの特典提供プログラム」と位置付けている。

 試験運用中も,日本のユーザー向けにサポート・センターを設置し,認証の手順などの使い勝手に問題がないかどうか,意見を集める予定である。マイクロソフトのジェイ・ジェミソンWindows本部長は,偽装ソフトを防止する方法として「ソフトの偽造予防に投資する方法と,正規ユーザーに今まで以上の価値を提供する方法がある。日本は偽造がまだ少ないので,後者の施策に可能性がある」という。

 3月時点で,WGAプログラムによって提供される追加ソフトは,「Photo Story 3 for Windows」「Office OneNote 2003 180日間限定評価版」の2種類。4月からはLZH形式ファイルの解凍ツールも追加される。提供されるソフトは,今後も増やしていく予定。このほか,マイクロソフトのWebサイト「ダウンロード・センター」では,Windows Media Player 10やDirectX 9.0c End-User Runtimeをダウンロードするときに,WGAプログラムによる認証を受けられるようになっている。

ActiveXコントロールでXPをチェック

 WGAプログラムによる認証手順は以下の通りだ(図3[拡大表示])。まずダウンロード・センターにアクセスして,右矢印マークの付いたソフトをダウンロードしようとすると[確認を推奨]という表示が出る。ここで,[続行]をクリックすると,ActiveXコントロール*形式のプログラムがダウンロードされ,Windows XPが正規品かどうかの確認が始まる。Windows XP Service Pack 2を使用している場合は,Internet Explorerの情報バー*に警告が表示されることがある。この場合は,情報バーをクリックして[ActiveXコントロールのインストール]を選択する。

 ActiveXコントロールは,OEMプロダクト・キー,パソコンのメーカー,OSのバージョン,プロダクトID/SID(セキュリティ識別子)などをMicrosoftに送信し,正規品かどうかを判定する。なお,個人を識別するような情報は送信されない,という。

 この後,パッケージ版またはDSP版*を使用していて,ライセンス認証がまだの場合は,ライセンス認証用のWebページに切り替わる。ライセンス認証が済んでいて,正規品であることが分かると,目的とするファイルのダウンロードが開始される。

 プリインストールされたOEM版を使用している場合は,パソコン本体に張られた次ページの図4[拡大表示]のようなシール(COA)に書かれているプロダクトIDを入力して,認証を受ける。プロダクトIDを紛失した場合や,入力したプロダクトIDが間違っていた場合,ここで2回まで再入力を求められる。その後は画面が切り替わり,メーカー名,購入国名,購入店名の入力を求められる。この情報で認証されると,ダウンロードが可能になる。

 今回開始したWGAプログラムは,まだ試験段階であるため,正規品かどうかのチェックを受けるのは任意となっている。チェックを受けない場合や,認証に失敗した場合でも提供されるソフトのダウンロードは可能だ。

 ただし,2005年後半に予定されている本格運用へ移行した後は,Windows Updateサイトやダウンロード・センターからダウンロードするときに,必ず認証が必要になる。WGAの認証を一度受ければ,キーがハードディスクに格納され,以降の認証は不要である。なお,Windowsの自動更新機能でダウンロードするセキュリティ・パッチなどの修正プログラムは,本格運用への移行後も認証なしでダウンロードできる。本格運用に移行した時点では,Windows 2000もWGAプログラムの対象になる予定だという。

ライセンス認証方針を一部変更

 WGAプログラムの開始に先立って,Microsoftはネットワーク経由でライセンス認証する方針を一部変更した(図5[拡大表示])。対象となったのは,OEM版Windows XPのプロダクトIDを使って,ライセンス認証をしようとしたケースである。

 マイクロソフトの菅伸吾Windows本部シニアプロダクトマネージャは,「販売店で聞いたところ,店頭展示しているパソコンからCOAが盗まれたり,COAに書かれたプロダクトIDをカメラ付き携帯電話で撮影されたケースがあった。オークション・サイトでは,COAが販売されているケースもある」という。

 従来はこうしたプロダクトIDを使った場合でも,ネットワーク経由でライセンス認証ができてしまっていたが,今回の措置でできなくした。

 OEM版のWindows XPは,パソコンにプリインストールされて販売されるのが一般的で,この場合はライセンス認証が出荷前に済ませてある。このため,今回の方針変更でユーザーに影響が出るケースはほとんどない。

 ただし,OEM版に対してSysprep*のようなシステム展開ツールを使った場合は,ライセンス認証が求められるケースがあるという。今回の措置によって,ネットワーク経由のライセンス認証ができなくなる可能性があり,マイクロソフトは注意を呼びかけている。

 Sysprepは,企業で複数のパソコンを購入したときに統一した環境を構築するためツールである。本来,OEM版を使用するとSLP(システム・ロック・プリインストール)という仕組みによって,ライセンス認証は必要ない。SLPではパソコンのBIOSの情報とSLP情報を比較して,正規にライセンスされたパソコンでWindows XPが使われていると認識する。Sysprepを使ったケースでは,SLPが無効になり,ライセンス認証が求められることがある,という。

 これを回避するため,マイクロソフトは電話でライセンス認証をする手段を残している。しかし,台数が多い場合はSysprepによるシステム展開時に特定のコマンドを入力することで,回避することもできる。回避策を公開するかどうかについては検討中で,現在のところはマイクロソフトが個別対応している。

(坂口 裕一)