●マイクロソフトは,統合開発環境の新版「Visual Studio .NET 2003」の最終ベータを2003年2月から一般向けに提供開始した。正式版の出荷は5月の予定だ。現行版の登録ユーザーはVS.NET 2003に無償でアップグレードできる。
●Visual Studio .NET 2003の特徴は,新しいアプリケーション実行環境「.NET Framework 1.1」を使ったプログラム開発ができること。新たにモバイル機器向けのアプリケーションの作成が可能になった。
●また,Visual C++ .NETのビジュアル開発機能が強化され,操作性・開発生産性が向上した。Visual J# .NETも搭載する。

 2003年5月に出荷予定のVisual Studio .NET 2003(VS.NET 2003)は,Visual Studio .NET(VS.NET)の後継製品だ。現行版のVS.NETが出荷されてから約1年という短期間で登場することから分かるように,VS.NETのマイナー・バージョンアップである。

 しかし,その差分の機能は注目に値する。次期サーバーOSのWindows Server 2003上で動くアプリケーションを開発するのに不可欠なものが,しっかりと詰め込まれているからだ。

 Windows Server 2003は,マイクロソフトの.NET戦略を具現化する製品でもある。その.NET戦略のカギを握るのが.NET Frameworkだ。

 .NET Frameworkは,WebサービスやASP.NETアプリケーションの開発・実行環境である。バージョン1.0が現在提供されているが,まだどのOSにも標準搭載されていない。

 Windows Server 2003は.NET Frameworkを標準搭載する初めてのOSになる。しかも最新版のバージョン1.1を搭載する。この最新版.NET Frameworkの機能を生かすアプリケーションを開発できるようにするのがVS.NET 2003の役割である。

モバイル向けアプリが作成可能に

 .NET Framework 1.0から1.1への最大の変更点は,モバイル対応である。Windows Server 2003ベースのシステムを携帯電話やPocket PCベースのPDA(携帯情報端末)といった様々なモバイル機器から利用できるようにするための機能が強化された。

 VS.NET 2003では,2タイプのモバイル・アプリケーションを構築できる(図1[拡大表示])。モバイル機器に対して提供するWebアプリケーションと,モバイル機器上で動作するアプリケーションである。

 従来,モバイル機器向けのWebアプリケーションを作成するには,cHTML(compact HTML)やHDML(Handheld Device Markup Language),MML(Mobile Markup Language)など,異なるマークアップ言語に対応したWebアプリケーションをモバイル機器別に開発する必要があった。キャリアの違う携帯電話やPDAなど,プラットフォームによって利用できるマークアップ言語が異なるためだ。

 しかしVS.NET 2003を使えば,こうした煩わしさから解放される。.NET Framework 1.1は,これまで単体で配布されていた「Mobile Internet Toolkit」が統合されており,マークアップ言語の差異はMobile Internet Toolkitに含まれるモジュールが吸収してくれる。アプリケーションを1つ作成すれば,多数のモバイル機器で動作させることが可能になる。

 モバイル機器向けのWebアプリケーションの作成は,VS.NET 2003に追加された新しいテンプレート「ASP.NETモバイルWebアプリケーション」を使う。これを選択すると,モバイル機器用のフォーム作成ウインドウや見慣れない画面が表示されるため,開発者は一瞬戸惑うかもしれない。しかし,開発手法そのものは従来のRAD(Rapid Application Development)スタイルを継承している(図2[拡大表示])。フォームにコントロールを配置し,それをダブル・クリックしてイベント処理を記述していけばよい。

図1●VS.NET 2003では2タイプのモバイル・アプリケーションを構築できる
 
図2●モバイル機器と通信するWebアプリケーションの作成画面
VS.NET 2003には新しいテンプレートとして,「ASP.NETモバイルWebアプリケーション」が加わった。このテンプレートに各種コントロールを配置しながらイベント処理を記述していけば,モバイル機器と通信するWebアプリケーションを構築できる。

(小野 亮=akono@nikkeibp.co.jp)