マイクロソフトのサーバー・アプリケーション・ファミリである「.NET Enterprise Servers」の.NET環境に向けた強化が新しい段階に入っている。

 汎用性の高いサーバー製品における機能強化を中心とする対応が一段落し,いよいよ具体的なソリューション製品で.NET環境への本格対応が始まった。2002年6月14日に出荷が開始された電子商取引サイト構築ソフト「Commerce Server 2002」はその第1弾である。

インフラ部分の強化は一段落

図1●.NETシステムの構成
OSとして機能する「Windows+.NET Framework」と,データ・ストレージ機能を提供するSQL ServerとExchange Serverがシステム構成の単位になる。これらをBizTalk Serverの「オーケストレーション」機能がまとめ上げる。

 これまでマイクロソフトは,比較的汎用性が高く,インフラとして活用される製品を中心に,主に機能強化で.NET対応を進めてきた。

 サーバー製品としては,データベース管理システム「SQL Server 2000」やメッセージング・システム「Exchange 2000 Server」,アプリケーション連携のハブ機能を果たす「BizTalk Server 2002」が例である。これらでは主に「XML Webサービス・ツールキット」と呼ぶ追加モジュールやサンプル・アプリケーションで.NET環境への対応強化が図られた。

 3月にWindowsを.NETシステムのOSとして拡張する「.NET Framework」と,その開発環境である「Visual Studio .NET」をリリースし,汎用性の高いサーバー製品の.NET対応を済ませたことで,マイクロソフトはインフラ的な製品の対応に一区切りをつけたといえるだろう。

 .NET対応のサーバー製品や.NET Frameworkを組み合わせると,現在は図1[拡大表示]のようなシステムがマイクロソフト製品で構築できる。

 注目したいのは,.NET戦略のキー・テクノロジであるSOAP(Simple Object Access Protocol)やXML(Extensible Markup Language)が利用可能であると同時に現行のCOM(Component Object Model)ベースのアプリケーションとの互換性が維持されている点だ。

アプリケーション開発を.NET環境へ

図2●Commerce Server 2002の構成
電子カタログやユーザー・プロファイル管理など中核機能を提供するCOM(Component Object Model)ベースのコンポーネント群と,ユーザー・アプリケーション構築のための.NETベースのクラス・ライブラリで構成する。

 今回出荷の始まったCommerce Server 2002(CS2002)では,こうした新しいインフラをフルに活用している。特に.NET Frameworkをベースにアプリケーションの構造までが見直されている点で,これまでのサーバー製品の.NET対応とは一線を画す。

 Commerce Serverは,電子カタログやユーザー・プロファイルの管理など,電子商取引サイトを実現するコアとなるコンポーネント群と,それらを使って構築したカスタマイズ可能なサンプルWebサイトから成る。

 .NET対応という観点で見たCS2002の最大のポイントは,従来ASP(Active Server Pages)で構築されていたWebアプリケーション部分を,.NET Frameworkの機能の1つであるASP.NETに移行したことである。製品に付属するサンプル・サイトもすべてC#ベースのASP.NETアプリケーションとして書き直された。

 Webアプリケーションの開発環境がASP.NETに移行したことで,Visual BasicやC#など,生産性の高い開発言語を利用してサイトを構築できるようになる。

 従来COMベースで提供されてきた中核機能は引き続きCOMコンポーネントとして提供されている。CS2002は図2[拡大表示]のように,COMベースのコア・コンポーネントと,それを.NET環境で利用するためのクラス・ライブラリが一体となっている。マイクロソフトは,「(CS2002で)既存環境の資産を.NET環境に融合するいい例を提供できたと考えている」(製品マーケティング本部 プラットフォーム製品部 北川裕康部長)という。

SharePointの次期版も.NET対応へ

 CS2002に続いて市場に投入される.NET Framework対応アプリケーションは,企業内ポータル・サイト構築システム「SharePoint Portal Server(SPPS)」の次期版である。

 米Microsoftは5月20日,SPPS次期版を.NETベースのシステムにすると発表した。詳細な情報は公表されていないが,SPPSもCommerce Serverと同様,ASP.NETベースのWebアプリケーション環境に移行することになるだろう。

 ただ,SPPSを.NET Framework対応にする意味はCS2002とはやや異なる。情報を集約/選択して提供するというポータル・システムの性格上,様々な情報システムとの連携機能が強化される点がより重要である。

 現在マイクロソフトは,SPPSとWebサイトのコンテンツ管理ツール「Content Management Server(CMS)」を統合するパッケージ「CMS/SPPS2001 Integration Pack」をリリースしている。SPPSの検索機能をCMS経由でインターネットに公開したり,CMSのドキュメント管理をSPPSのワークフローで処理できる。

 Microsoftはこのパッケージを,イントラネット向けのSPPSとインターネット向けのCMSを統合する第1歩と位置付けている。SPPS次期版では.NET対応により,統合の度合いをより強めたものになるはずだ。

 登場間もないCS2002とSPPS次期版の連携も視野に入っているようだ。Microsoftの発表では,シングル・サインオンやコンテンツのパーソナライズ機能を強化するとしている。強力なプロファイル管理/パーソナライズ機能を持つCS2002との連携機能を強化することで実現すると見られる。

(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)