●最新のクライアントOSとして注目が集まるWindows XPだが,発売後2カ月弱の間に重大なトラブルが相次いで報告されている。
●新機能「自動システム回復」が全く動作しないほか,特定の操作でユーザー・データの一部が消失するなどの問題が発覚した。
●Windows XPの早期導入を検討している企業ユーザーは,入念に情報を収集して慎重な移行作業に取り組むべきだ。

 2001年11月16日のパッケージ発売から約1カ月半が経過した「Windows XP」。Windows 9x系OSの開発中止が決まり,Windows NT/2000系列に統合,鳴り物入りで登場した最新クライアントOSだが,「新機能の一部が正常に動作しない」,「データが消失する」,「特定のアプリケーションが動かない」などのトラブルが続発している。マイクロソフトは同社のWebサイトを通じて,判明したトラブル情報を公開し続けている。

 新バージョンのOSにはトラブルが付き物だが,Windows 2000をベースに開発を進めた割には重大なトラブルが目立つという感が拭えない。Windows XPの早期利用を検討している企業ユーザーは,必要な機能や利用したいソフト/ハードでトラブルが発生していないかの情報収集が急務だ。

自動システム回復機能が誤動作

 まず,Windows XPに搭載された新機能の1つが正常に動作しないことが判明している。Windows XP Professionalには,OSが完全にクラッシュしてしまった場合に,簡単な操作で正常な状態に戻すことができる「自動システム回復」機能が搭載された。一般的に「ディザスタ・リカバリ」と言われている障害回復機能で,サード・パーティ製のバックアップ・ソフトなどでは同様の機能を搭載済みの製品も多い。本機能はコンシューマ向けOSであるWindows XP Home Editionには搭載されておらず,企業ユーザー向けの目玉機能の1つだ。

図1●自動システム回復機能が正常に動作しない
自動システム回復ウィザードを実行するとシステム・エラーが発生して,OSの再起動処理を延々と繰り返してしまう
 ところが,この自動システム回復機能が正常に動作しない。本処理を実行すると,「システムエラー:パスワードを更新しようとしたときに,このリターン状態は,現在のパスワードとして指定した値が正しくないことを示します」という意味不明のエラー・メッセージを表示して処理が中断してしまう(図1[拡大表示])。その後,延々と再起動処理を繰り返し,データ復元処理は失敗する。編集部の環境でも確認できた。

 トラブルの原因は,エラー・メッセージの指示する「パスワードの不正」ではなさそうだ。自動回復システムは,「テキスト・モード」と「GUIモード」という2つのセットアップ・モードを利用して回復処理を実行するが,テキスト・モードでの処理中に問題が発生し,GUIモードに処理が引き継げないためトラブルが発生する。明らかにバグである。

 マイクロソフトはこの問題に対し,「現在のところ調査中」としている。詳細が判明次第,同社のサポート技術情報欄にて公開する予定という。期待していた新機能の1つだけに残念な結果だ。早急な対応が望まれる。

修復セットアップ中にデータが消失するケースも

図2●Windows XPの修復セットアップや再インストール時にデータが消失
Windows XPがプリインストールされたPCで修復セットアップや再インストールを実行すると,All UsersやDefault Userフォルダ内のデータが消失する恐れがある
表1●マイクロソフトのWebサイト上で報告されているWindows XPのトラブル情報(一部抜粋)
表2●特定のソフト/ハードとの組み合わせで発生するWindows XPのトラブル(一部抜粋)
 さらに,Windows XPマシンに格納したデータ・ファイルが,再インストールや修復,アップグレード作業により失われる場合があることが判明した。影響を受けるのは,Documents and Settingsフォルダの中の「All Users」フォルダに格納したデータや,「Default User」フォルダに格納した設定情報などだ(図2[拡大表示])。

 本トラブルはOEMベンダーがWindows XPをプリインストールして出荷したクライアントPCでのみ起こる。Windows XPのCD-ROMを用いてOSを再インストールしたり,CD-ROMから起動して修復インストールを行う,プリインストールされたWindows XP Home Editionを同Professionalにアップグレードするといった操作により発生するという。

 OEMベンダー向けには既に,この問題を解決する修正モジュールが配布されているという。ただし,修正モジュールは,Windows XP搭載パソコンの初期出荷には間に合っておらず,注意が必要だ。

 上記のトラブルは,ユーザー自身がファイル操作を行うことで対処することもできる。Windows XPのシステム・ファイルが格納されている「%windir%system32」(デフォルトではc:\Winnt\system32)フォルダ内の「Undo_guimode.txt」というファイルを事前に消去しておけば回避できる。ただし,回避策を実行する前にAll UsersやDefault Userフォルダ内のデータを失ってしまった場合は,バックアップを作成していない限りデータを復元する方法はない。

 このほかにも,Windows XPに関するトラブル情報は数多く報告されている。マイクロソフトが「問題と認識している」トラブルだけでも,本誌が調査した12月上旬の時点で200件近くあった。このほかに「OSの仕様」による制限も数多く存在する。特に企業ユーザーにとって重要と思われるトラブル情報を表1[拡大表示]にまとめておいた。

 Windows XPに関するトラブル情報は,マイクロソフトのWebサイト「サポート技術情報」で公開されている(http://www.asia.microsoft.com/japan/support/default.asp)。各技術情報には「文書番号」が割り振られている。上記Webサイトの上段右にある「サポートサイトの検索」欄に,表に掲載した文書番号を入力すれば,目的の文書の検索が可能だ。

 マイクロソフトは,いくつかの重大なトラブルについては修正モジュールの提供を開始し始めた。しかし,大半のトラブルは対応しきれていないのが現状だ。万全を期すならば,Service Packが出るのを待った方が賢明だろう。Windows XPのService Packは,次期サーバーOSであるWindows .NET Serverの出荷と同時期にリリースすると推測される。早くても2002年の夏頃になりそうだ。

「アプリが動作しない」問題判明は年末から年明けに本格化

 「Windows XP上で特定のハード/ソフトが動かない」といったトラブルも報告されつつある。例えば,米Intelの「i815チップセット」を搭載したPCにWindows XPをインストールするとOSがハングアップしてしまう,などだ。ほかにも,CD-Rライティング・ソフトやウイルス対策ソフトなどで動作しないといった問題が既に判明している。

 Microsoft Office製品群の1つである「PowerPoint」でもトラブルが起きている。PowerPoint上で「パターン付きの線を描写しても,印刷すると実線になる」というものだ。

 表2[拡大表示]は,サポート技術情報にて公開されたハード/ソフトの動作に関するトラブル例だが,氷山の一角に過ぎない。ハード/ソフトに関するトラブルは,ベンダーの検証作業に加え,実際にWindows XPを利用したユーザーからの報告により発覚するケースも多い。トラブル判明が本格化するのは年末から年明けにかけてと推測される。全貌は依然として不明なままだ。

 ソフトのトラブルの大半は,各ベンダーが提供する修正モジュールや今後出荷する新バージョンによって解決される見通しだ。状況は刻々と変化している。当面はベンダーのWebサイトなどでの情報収集が欠かせない。

(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)