●マイクロソフトは10月5日に,PDA(携帯情報端末)用OSの新版「Pocket PC 2002 Software 日本語版」(Pocket PC 2002)を正式に発表し,PDAメーカーに向けて供給を開始した。
●Pocket PC 2002は,メジャー・バージョンアップではないが,Windows XPに似たユーザー・インターフェースへの改良など,細かな改善がいくつも加えられている。
●中でも,VPN(Virtual Private Network)クライアントの搭載やセキュリティ・レベルを設定できるパスワード機能の採用など,企業向けに機能を強化した点が目立つ。
マイクロソフトは10月5日に,企業向けに機能を強化した,PDA用OSの新版「Pocket PC 2002 Software 日本語版」(Pocket PC 2002)を発表した(図1)。それに合わせて,ハード・ベンダー6社からもPocket PC 2002搭載PDAの新製品発表があった(表1)。従来のPocket PC搭載PDAベンダーから新たにNEC,富士通の2社が加わった。
Pocket PC 2002は旧版のPocket PCと同様に,Windows CE 3.0のカーネルをベースに作られており,メジャー・バージョンアップとはいえない。しかし,新版はVPN(Virtual Private Network)クライアントの搭載や,セキュリティ・レベルを設定できるパスワード機能の採用など,企業向けに機能を強化したものになっている。
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ハードウエア面は旧版とほぼ同様
新PDAのハードウエアは,ユーザーの目に付く範囲では目立った変更はなかった。しかし,見えないところで,若干の方針変更があった(表2)。
まず,Pocket PC 2002搭載PDAのCPUを米IntelのStrongARMに統一したこと。これまでPocket PCは,NECのMIPS,日立製作所のSH,IntelのStrongARMの3種類のCPUが使われていた。
StrongARMの1本にする理由として,「バイナリが異なり動作しないプログラムを少なくするため」(マイクロソフト 製品マーケティング本部 モビリティマーケティンググループ シニアマーケティングスペシャリスト 石川大路氏)と説明している。
もう1つは,マスクROMではなく,フラッシュROM搭載を義務付けたこと。「OSのアップグレードやソフトの不具合があった場合,ROMの書き換えが可能」(石川大路氏)と話す。これにより,PCのように,本体性能にさえ不満がなければ,ユーザーは最新のソフトウエアにバージョンアップして利用すればいい。
他にPocket PC 2002搭載PDAで増えてきたのは,拡張スロットとしてCFカード・スロットとSDカード・スロットの両方を備えてきたこと。GENIO e550をはじめ,PocketGearなどの3製品が2つのスロットを搭載するなど,拡張スロット関連は強化されている。
VPNで安全にデータを取り出せる
OSなどのソフトウエアの変更点で,一目で違いがわかるのが,Windows XPに似たユーザー・インターフェースだ。これまで立体感のないデザインだったのが改善されたのと,吹き出し形式のポップアップ・ウインドウなどが登場し,操作しやすくなっている。
ソフトの機能面で最も注目されているのが,VPNクライアント機能だ。VPNサーバー機能を搭載するWindows 2000 Serverを組み合わせて使用すれば,インターネットVPNを構築できる(図2[拡大表示])。
インターネットVPNは,データの暗号化やトンネリングという技術を使用することによって,インターネットをあたかもプライベートなネットワークのように利用する技術である。これにより,外出先からインターネットを通じて安全に社内のファイル・サーバーにあるデータを取り出すことが可能になる。従来に比べて,よりデータに対してアクセスしやすくなり,しかも安全性が確保された意義は企業ユーザーにとって大きい。
アクセス性の向上という観点ではもう1つ,マイクロソフトが2002年初めにリリース予定の「Mobile Information Server 2002 ActiveSync Edition」が大きな話題だ。同製品は,Exchange Server 2002とPocket PC 2002搭載PDAをインターネット経由で同期するソフトだ。外出先からExchangeのメールなどを閲覧できるようになる。
従来はローカルにつなげるか,モデムでRAS(Remote Access Service)サーバーにアクセスして同期を取るしかなかったので,モバイル・ユーザーの利便性は大幅に向上する。
新パスワードでセキュリティ強化 共有フォルダにもアクセス可能
Pocket PC 2002では,PDA本体のセキュリティも強化した(図3)。セキュリティ・レベルを設定できるパスワード機能を採用し,これまでのシンプルな4桁のパスワードよりも,もっと長いパスワードが使えるようになった。これにより,紛失してしまった場合などにも,大切な企業データをのぞかれる危険性が少なくなった。
さらに,デバイスが一定時間未使用の場合,パスワードを再び入力させるような機能も搭載された。設定した時間が過ぎれば自動的にパスワードを求められるため,PDA本体から離れることがあっても不正利用を防ぐことが可能になった。
企業向けの機能として,ネットワーク周りの機能も強化されている。
これまでは,Pocket PC標準機能として有線LANや無線LANのネットワーク・カードを挿しても,サーバー上の共有フォルダにアクセスできなかった。このため,共有フォルダにアクセスしたければ,Pocket PCではなく,640×200ドット以上の画面を備えたCE機などを使うしかなかった。
Pocket PC 2000を搭載したマシンでは手軽に,共有フォルダへのアクセスが可能になった(図4)。[ファイル エクスプローラ]を開いて,共有フォルダを表すアイコンをタップすると,パスを開く画面が表示される。ここで,「\\コンピュータ名\共有フォルダ」のように入力すると,共有フォルダを参照できる。ドメインにも参加できるので,アクセス権があればサーバーの共有フォルダも参照可能だ。
共有フォルダでファイルの一覧は参照できるが,直接ファイルを開けない。いったんPDAにコピーする必要がある。コピーすれば,Word文書であれば,Pocket PC用のWordに自動で変換してくれる。
ネットワークの接続設定の切り替えも楽になった(図5)。NTTドコモの「P-in Comp@ct」などを使ってインターネットを利用する[インターネットの設定]と,LANカードを使って社内ネットワークを利用する[社内ネットワーク設定]を,[ネットワークの接続先]で簡単に切り替えられる。
今回のネットワーク機能とセキュリティ機能の強化により,営業支援端末など企業のモバイル・システム構築に使えるものになりそうだ。
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