★米Microsoftは6月20日,.NETアプリケーションの開発ツール「Visual Studio.NET」のベータ2英語版を提供開始した。
★ベータ2はベータ1に比べてクラス・ライブラリが大幅に変更されている。Webホスティング・サービスやサード・パーティ・ダウンロードといった,ベータ1では提供されなかった新機能も搭載している。
★基本的な操作方法やユーザー・インターフェースはベータ1を踏襲している。

図1●Visual Studio.NETベータ2を発表するMicrosoftのBill Gates会長
6月19日から23日まで米国アトランタで米Microsoftの技術者向けコンファレンスTech・Ed 2001が開催された。2日目のキーノート・スピーチで壇上に立ったMicrosoftの会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのBill Gates氏は,.NETアプリケーション開発ツール「Visual Studio.NETベータ2」のリリースを発表し,1万人を超える参加者はそれを待ち望んでいたように拍手で歓迎した(図1)。2000年11月にベータ1が提供開始されてから約7カ月ぶりのベータ版提供になる。日本語版は8月28日から開催されるTech・Ed 2001 Tokyoで提供される予定である。

 英語版ベータ2は,同社のソフトウエア開発者向け技術情報提供サービスであるMSDNのWebサイト(http://msdn.microsoft.com/vstudio/nextgen/beta.asp)からダウンロードすることもできる。ただし,ダウンロードできるのは企業開発者向けライセンス「ユニーバーサル」会員だけである。

 製品版の出荷時期は未定だが,Gates氏は講演の中で「Visual Studio.NETは.NET戦略の中核を担う開発製品である。年内または2002年の第1四半期に出荷できるように努力している」と述べた。

 Visual Studio.NETは,Microsoftの次世代戦略「Microsoft.NET」向けアプリケーションを開発するためのツール群で構成されている。今回のベータ版は,プログラム開発者向けのProfessional版に相当するもの。開発ツールを複数備えているが,オブジェクトのビジュアル設計ツールなどは含まれていない。製品版では,このようなソフトウエア設計者向けの機能を含んだ製品も提供される予定だ。

.NET Frameworkに合わせてクラス・ライブラリを大幅に変更

図2●Visual Studio.NETベータ2で変更/追加された主な機能
 ベータ2で注目されるのが,ベータ1のものと大きく変わったクラス・ライブラリと,Webサービスのホスティング機能などの新機能だ(図2[拡大表示])。

 クラス・ライブラリは,NETアプリケーションの開発・実行環境である.NET Frameworkのプログラミング・インターフェースを開発者が使いやすいようにオブジェクト群として整理したものである。.NET Frameworkのプログラミング・インターフェース自体が大幅に変更されたのに伴って,Visual Studio.NETでもかなりの数のクラス・ライブラリが変わっている。

 クラス・ライブラリはVisual Basic(VB)やVisual C++(VC),新しいプログラミング言語C#で共通に使うものなので,ベータ1を利用していたユーザーに大きな影響を与えるだろう。

 変更点はドキュメント・ファイル(C:\Program Files\Microsoft.NET\FrameworkSDK\Docs\api_change)に列挙されている。これを見ると,数万を超える部分が追加/削除されているのが分かる。クラス自身の数が増減しているというより,クラスのメンバー関数や属性が追加・削除されているものが多い。ベータ1で作成したアプリケーションのソース・コードの多くは,ベータ2ではそのまま使えず,修正が必要になるだろう。

図3●Visual Basic.NETベータ2の画面
画面は前回のベータ1とほとんど変わっていない
図4●新しく搭載されたWebホスティング機能の画面
図5●サード・パーティ・ダウンロードの画面
Visual Studio.NETベータ2は,Microsoftやサード・パーティのWebサイトから自社の製品や開発に関する最新情報を取得し表示する機能を備える
 変更個所が最も多いのは,Windowsの画面を表示するためのフォームだ。7000個以上のインターフェースが追加され,1万個以上が削除されている。マイクロソフトによれば,この変更は,画面上にグラフを表示するような既存のサード・パーティ製コンポーネントをVisual Studio.NETでも利用できるようにするためだという。Microsoftとサード・パーティは共同でラボを設け,互換性が保てるよう,ベータ1のフォーム機能を改良したという。

 なお,プログラムの作成手順や画面などの点ではベータ1と比べて大きな変更点はない(図3[拡大表示])。ベータ2を起動すると,VBやVCなどの共通の開発環境が立ち上がる。そこから開発ツールやターゲット・アプリケーションを選ぶといった作成手順や,VB 6.0のプロジェクト・エクスプローラに相当する「ソリューション・エクスプローラ」などはベータ1と同様になっている。

Webホスティング機能を搭載
Webサービスの動作検証が可能に

 ベータ2には,Webホスティングとサード・パーティ・ダウンロードの2つの新機能が追加されている。

 Webホスティングは,Visual Studio.NETで開発したWebサービスをWebサイトへ転送して動作検証をするための機能であり,[Start Page]ページの[Web Hosting]で実行できる(図4[拡大表示])。ベータ1では,開発したWebサービスの動作を検証するには,実行に必要なファイルを選んで,Webサーバーにアップロードするという作業が必要だった。開発中は何度もこの作業を繰り返さなければならず,手間がかかる。

 ベータ2では作成したWebサービスを,Visual Studio.NET上から.NETアプリケーションが動作するWebサイトにアップロードして動作検証できるようになった。

 アップロードできるインターネット上のWebサイトとして,現時点では,BrinksterとEraServer.NETの2つがある。製品版では日本語が利用できるWebサイトなどが用意されるだろう。

 一方のサード・パーティ・ダウンロード機能は,Microsoft製品や,開発用のコンポーネントなどを提供するサード・パーティ製品に関する最新情報をダウンロードする機能のことだ(図5[拡大表示])。ただし,現時点でダウンロードできる最新情報は宣伝が多く,物足りないものだった。

(小野 亮=akono@nikkeibp.co.jp)


再配布可能な.NET Frameworkを搭載
ヘルプもVS.NETと同様に変更

 米国のアトランタで開催されたTech・Ed 2001では,Visual Studio.NETベータ2のほか,.NET Framework SDKや,IE 6.0ベータなどのモジュールが提供された。これらは,米MicrosoftのWebサイトからダウンロードすることも可能だ。

 .NET Framework SDKは,.NET Frameworkソフトウエア開発キットで,.NETアプリケーションを動作させるためのランタイム・モジュールをはじめ,.NET Frameworkクラス・ライブラリのリファレンス,サンプルなどがある。開発者にとっては貴重な情報源となっている。今回提供された.NET Framework SDKも,Visual Studio.NETベータ2と同様に最新バージョンのベータ2として提供されている。

 .NET Framework SDKベータ2での主な変更点は,再配布可能な.NETアプリケーションのランタイムが含まれていることである。再配布可能な.NET Frameworkは,CLR(Common Language Runtime)などを含むランタイム・モジュールのことだ。このモジュールはVisual Basic.NETやVisual C++.NETといった複数の開発ツールで作成したアプリケーションを実行できるものだ。

 これまで,Visual Studio.NETベータ版と共に.NET Framework SDK(ファイル・サイズは約130Mバイト)を導入した環境以外では,.NETアプリケーションは動作しなかった。ベータ2では配布可能な.NET Framework(約17Mバイト)を組み込むだけで,.NETアプリケーションを実行できる。これにより,製品版を想定した幅広い動作検証が可能になる。

 .NET Framework SDKのオンライン・ヘルプも若干変更された。Visual Studio.NETベータ1や現行のVisual Studio 6.0のオンライン・ヘルプはHTML文をベースにして作られたコンパイルドHTMLヘルプ・ファイルであった。ベータ2のオンライン・ヘルプは,Visual Studio.NETのヘルプと同様,専用のビューアで閲覧するタイプに変更され,項目を選択してから項目に該当する文書を表示するまでのレスポンスが若干だが早くなった。