図1●初めて製品化されたiSCSI製品
上はIBMのiSCSI対応のディスク・アレイ「ToralStorage IP Storage 200i」。価格は299万9500円から。タワー型のほかにラックマウント型がある。下は米Cisco SystemsのiSCSIルーター「SN 5420」。
図2●ネットワーク・ストレージの接続形態
NAS機器やiSCSI機器は,IPネットワークに直接つなげられるが,SANはIPネットワークとは別の専用ネットワーク(FCなど)になっている。NAS機器とiSCSI機器の違いは,クライアントから見ると,NASがネットワーク・ドライブ,iSCSIがローカル・ドライブとして認識されるところが異なる。SANはあくまでサーバーにつながったローカルなストレージとして見える。
図3●iSCSIは,ブロックI/OをTCP/IPでアクセスできる
NASはIPネットワークにつなげられるが,ファイルI/Oを使う。SANはデータベース・アプリケーションなどに向くブロックI/Oを利用しているが,独自のネットワーク(FCなど)につなげる必要がある。

 iSCSI対応のストレージや関連機器の製品化が相次いでいる。

 「iSCSI」(別名,SCSI over IP)とは,SCSIのコマンドやデータを,TCP/IPのパケットに組み込んで,ネットワーク経由で通信する技術。IETF(Internet Engineering Task Force)が仕様を策定中だ(http://www.ietf.org/ids.by.wg/ips.html)。

 製品化されたのは,米IBMのディスク・アレイ「TotalStorage IP Storage 200i」(2月発表,日本は4月12日)と,米Cisco Systemsのルーター「SN 5420」(4月発表)だ(図1[拡大表示])。

 IBMのIP Storage 200iは,LANに直結するだけで,ネットワークで使えるディスク・アレイになる(図2[拡大表示])。アクセスするマシンの対応OSは,Windows NT/2000とLinux。ネットワークのストレージを拡張するのが主な用途だ。同じくネットワークに直結して使えるストレージ機器には,NAS(Network Attached Storage)という分野もあって,手軽にファイル・サーバーを増設できることから,最近普及が進んでいる。しかしNASは,他のマシンからネットワーク・ドライブとして見えるのに対して,iSCSIのストレージ機器は,アクセスするマシンから見ると,ローカルなSCSIドライブとして見える違いがある。利用するマシン側にはデバイス・ドライバが必要だ。

 一方,CiscoのSN 5420は,iSCSIのパケットとファイバ・チャネル(FC)のパケットを変換するルーターである(図2)。FCは,ストレージ専用のネットワークであるSAN(Storage Area Network)で採用されているインターフェースだ。SANを使ったストレージ・システムは,高速であることはもちろん,ミラーリングやバックアップなど安定性を高めるためのシステム設計ができるため,大型コンピュータやハイエンド・サーバーなど大規模なシステムに使われている。SN 5420を使えば,サーバーから離れた場所にあるSANにアクセスするときに,iSCSIによってローカルなストレージに見立ててつなぐことができる。

最大の特徴はブロックI/O

 iSCSIが登場してきた背景には,現状のSANやNASにできない,微妙な役どころを買われてのことだ。

 アプリケーション側からSANとNASのシステムを見ると,データへのアクセスの仕方がSANはブロックI/O,NASはファイルI/Oという違いがある(図3[拡大表示])。

 通常のアプリケーションは,ファイル・システムを利用したファイルI/Oを行っている。ところが,データベース・アプリケーションなどは,性能を上げるためファイルI/Oに依存せず,直接データを読み書きするブロックI/Oを利用しているのだ。

 SANのストレージ機器は,IPネットワークからは独立しており,サーバーから見ると“大規模なローカル・ディスク”として見えるので,アプリケーションはブロックI/Oを利用できる。もう一方のNASは,基本的にはファイル・サーバーなのでファイルI/Oに限定される。

 これに対してiSCSIは,NASのようにIPネットワークに直結できる手軽さがあり,なおかつアプリケーションからみてブロックI/Oが利用できる。いわば,SANとNASの両方の特徴を備えているのだ。

大規模なストレージ・システムも
低コストで構築できる

 iSCSI,NAS,SANの3つの方式を比較すると,iSCSIはあらゆる面で有利だ。iSCSIとNASともに,低コストで,IPネットワークにつなげられる利便性があり,WANにも対応できる。データ転送速度は,現状の最大が1Gビット/秒で,2001年後半は10Gビット/秒が登場してくる。

 一方SANは,FCのケーブルやスイッチ装置を使ってルーティングやミラーリングをして,安定性のある高速ストレージを実現している。しかし,記憶装置やスイッチ,アダプタが高価なことと,FCが足かせになってWANに対応しずらいのがネックだ。WAN対応の難しさに関しては,CiscoのiSCSI-FCルーターを使えば解決できる。

 さらに魅力的なのは,iSCSIの記憶装置を使えば,FCをそっくりIPに置き換えて,ルーティングやミラーリングをしたストレージ専用のネットワーク(SAN)を構築することもできる。現状のSANをFC-SAN,iSCSIを使ったSANをIP-SANと呼んで区別する。

 FC用のスイッチやストレージ機器は高価なので,「IP製品で置き換えられれば1/2~1/3のコストダウンにつながる」(日本IBM,ストレージ・システム製品事業部営業企画の南聖二氏)という。

 いいことづくめのように見えるiSCSIであるが,普及を前にして実証データが求められている。特に“遅延時間”に関しては気になるところ。ブロックI/Oの利点を引き出すほど処理性能を求める分野では,IPネットワークを通すことによるレスポンスの遅れがあるからだ。

(木下 篤芳=kinosita@nikkeibp.co.jp)