★中規模サーバー向けバックアップ・テープの新規格,「Ultrium」と「Super DLTtape」が登場した。
★両製品ともにテープ1巻当たり約100Gバイトの記憶容量と,11M~16Mバイト/秒のデータ転送速度を実現している。
★シェア争いを演じている両製品だが,今年後半にはソニーの「AIT-3」が登場。競争は増々激しくなりそうだ。

図1●中規模サーバー向けテープ規格のスペック推移
中規模サーバー向けテープ装置としては,これまで記憶容量50Gバイト前後の製品が主流だったが,UltriumやSuper DLTtapeなど約100Gバイトの記憶容量を持つ製品が登場してきた。
表1●NT/2000で利用できる主な中規模サーバー向けテープ規格(非圧縮時の記憶容量が50G~110Gバイトの製品)

 2000年秋から2001年春にかけて,テープ1巻当たりの記憶容量が100Gバイトを超えるテープ装置が複数のベンダーから相次いで出荷され始めた。その1つが今年3月に出荷を開始した「Super DLTtape」。米Quantumが提唱するDLTシリーズの最新規格だ。もう1つは,米Hewlett-Packardと米IBM,米Seagate Technologyの3社が共同で開発したテープ規格の「Ultrium」。国内では既に,日本HPや日本IBM,NEC,デルコンピュータなどが出荷を開始している。いずれも中規模サーバーのバックアップ用途だ。

 従来の中規模サーバー向けテープ装置としては,米QuantumのDLT 8000,ソニーのAIT-2,米ExabyteのMammoth-2,ノルウェーTandberg DataのSLR100といった4種類の方式があり,記憶容量は1巻当たり40G~60Gバイトだった(図1[拡大表示])。そこに上記2製品が登場したことで,記憶容量がほぼ倍増したことになる。

 表1[拡大表示]はテープ1巻当たりの記憶容量が50Gから110Gバイトの製品例をまとめたもの。いずれも,搭載するハードディスク容量が100Gバイト前後の中規模サーバーを対象としている。エントリ・サーバー向けのテープ装置である「DDSシリーズ」などは除いてある。本文中では特に断りがない限り,記憶容量と転送速度は非圧縮時の値を使用する。

 表には掲載していないが,今年後半にはソニーが提唱する次世代テープ規格「AIT-3」の発売が予定されており,中規模テープ装置の競争は激しさを増すと予想される。ユーザーにとっては,製品選択の幅が広がると同時に,価格が下がるチャンスだ。

 新しく発売されたUltriumとSuperDLTtapeの2つの規格について,規格のオープン性,テープの下位互換性などを中心に選択指針のポイントを探っていく。

中規模テープ市場に参入したUltrium
HPとIBM,Seagateの3社で安定供給

 Ultriumは,ストレージ・メーカーとして実績のあるHPとIBM,Seagateの大手3社が97年頃から共同で開発を開始したテープ規格。昨年秋に第1世代の製品として,HPが「hp surestore ultrium230」,IBMが「IBM 3580 Ultrium」,Seagateが「Viper 200」を製品化した。いずれも最大記憶容量が100Gバイト,データ転送速度が15Mバイト/秒(Viperは16Mバイト/秒)と高スペック化を実現した。

 Ultriumは新規に開発されたテープ規格だ。既存のテープ規格に対して,規格のオープン性を武器に市場に参入しようとしている。従来のテープ装置では,メーカーが異なるとメディアの互換性がなくなるケースが多いが,「UltriumならHP製のテープ装置で記録したデータをIBM製の装置で読み出すといったメーカー間に互換性がある」(日本ヒューレット・パッカード APプロダクトオペレーション システムマーケティング本部 ストレージマーケティングの渡辺浩二氏)。

 複数のベンダーがUltrium製品の開発に参入してくれば,市場が活性化し,低価格化や高性能化も期待できる。テープ装置やメディアは特定のメーカーに依存せず,安定供給が期待できるだろう。

 早速,Ultriumのオープン化の効果が表れ始めている。Ultriumテープ装置の価格は,HP製が98万円,IBM製が136万円(ともに標準小売価格)とメーカーごとに異なるが,OEM供給を受けて販売しているデルコンピュータのUltrium装置「PowerVault 110T LTO」は39万円と破格の価格設定だ。「一時は在庫が底をつくのではと心配したほどの売れ行き」(デルコンピュータ リレーションシップマーケティング本部 PowerVaultストレージマーケティング部の小幡憲治部長)と説明するとおり,ユーザーの反応もすこぶる好調だ。

 ただしHPとIBMの両テープ装置がいずれのメーカーのPCサーバーでも利用可能なのに対し,デルのPowerVaultは,デル製のサーバー以外で装置の接続に関するトラブルが発生した場合,サポート対象外になる点に注意したい。

下位互換性を重視したSuper DLTtape
2種類の記録ヘッドを装備して対処

 この3月に,DLTシリーズの最新規格「Super DLTtape」が登場した。第1世代に当たる製品が「SDLT 220」。テープ1巻当たりの記憶容量が110Gバイト,データ転送速度は11Mバイト/秒を実現した。QuantumとTandberg Dataの2社が製造・供給している。価格は78万円(日本クアンタムの希望小売価格)。Ultriumを意識した価格帯に落ち着いた。

 Super DLTtapeの販売戦略はUltriumのそれとは大きく異なる。すでに中規模向けテープ市場で8割近くのシェアを握るDLTだけに,既存のユーザーを相当意識している。

 Super DLTtapeの開発にあたり,力を入れたポイントの1つがデータの下位互換性だ。SDLT 220では,DLT 8000と同7000,同4000で記録したテープが読み出せるよう設計されている。Super DLT専用の記録ヘッドに加え,従来のDLT 8000用のヘッドを備えることで実現した。

 このほか,目を引く新技術の1つにLGMR(Laser Guided Magnetic Recording)がある。LGMRは,テープ背面の光学ガイド・トラックをレーザー光線で読みとって,サーボの位置を調整する仕組みのこと。「データ記録面であるテープ表面をトラッキングに利用しないことで,Ultriumと比べ同じテープ長でも20%以上の記憶容量が実現できる」(日本クアンタムストレージ マーケティング部/技術部の藤森康郎氏)と技術的なポテンシャルの高さを強調する。

 米Quantumは当初,SDLT 220より記憶容量と転送速度を低めに設定した廉価版「SDLT 160」の開発を表明していたが,すでに計画は中止している。代わりに,記憶容量200Gバイト(転送速度16Mバイト/秒)の「SDLT 400」の開発が進められている模様だ。

新規需要に期待高まるUltrium

 複数ベンダーによる供給体制を敷くUltrium製品群が,中規模テープ装置市場において一定のシェアを奪うのは間違いなさそうだ。ただし,短期間のうちに,UltriumがDLTシリーズのシェアを逆転すると考えるのは早計だろう。Ultriumの本格的な普及には,DLTからの乗り換え需要が1つのキーとなるが,特別な理由がない限りDLTから他のテープ装置に乗り換えにくいのも事実だ。「DLTユーザーの多くはメディアの互換性を重視する傾向が強い」(藤森氏)ため,そのままSuper DLTtapeに移行する可能性が高い。

 HPは,DLTメディア上のデータをUltriumに変換するユーティリティ・ツールを用意して対抗する。しかし,データの移行作業はサポート対象外と,乗り換えの決定打となるにはやや力不足だ。Ultriumは当面の間,新規のバックアップ・システム需要を中心に拡販が進んでいくと予想される。

 今年後半に発売予定のAIT-3は,SuperDLTやUltriumとほぼ同等のスペックながら50万円前後の価格帯での出荷が予想されており,中規模サーバー向けテープ装置の競争は激しさを増すばかりだ。今年から来年に掛けて,テープ装置のシェアに変化が訪れる可能性は十分ある。


DLTテープのデータをUltriumに変換可能
既存DLTユーザーからの乗換を狙う

 米Hewlett-Packardは,DLTテープのデータをUltriumテープへ移行するためのデータ・マイニング・ツール「Tape Tools」を開発,Web上で無償配布を開始した(http://www.hp.com/cposupport/swindexes/hpsurestor24426_swen.html)。米Quantum製のDLT4000と同7000,同8000のデータをサーバーを経由してUltriumフォーマットに変換できる。既存のDLTユーザーからUltriumへの乗り換えを促進するのが狙いだ。

図●データ・マイニング・ツール「Tape Tools」の操作画面
HP Ultriumでは,無償のツールを利用してDLTのデータをUltriumに変換することが可能だ。

 実際にDLT 8000からHPのultrium 230にデータを移行してみた([拡大表示])。OSはWindows 2000 Server,バックアップ・ソフトにはBackupExec8.5を利用した。100Mバイト×10個(合計1Gバイト)の移行にかかった時間は5分40秒。1Mバイト×1000個のデータでもほぼ同時間で移行が完了するなど,ファイル・サイズに起因するオーバーヘッドは見られなかった。移行したデータは問題なく復元できた。

 Tape Toolsの利用に当たっていくつか注意点がある。本ツールはHP製のUltriumテープ装置用のため,他メーカーのUltrium装置では利用できない。また,データの移行に失敗しても,HPでは保証していない点も考慮する必要がある。同ツールは現在のところ英語版のみだが,近日中に日本語版のツールを提供する予定という。

(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)