★1.5Mビット/秒という高速性と月額6000円前後という低料金が魅力のADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)。今年に入り,個人ユーザーだけでなく企業向けのADSLサービスが増えてきた。
★企業向けADSLサービスの多くは,複数の固定IPアドレスが使えるインターネット接続サービスである。月額1万2800円という低料金で8個のIPアドレスを割り当てるサービスも登場している。
★ADSLを拠点間通信のアクセス回線として利用するサービスも始まった。高速性と低料金を武器に,これまでの専用線市場で価格破壊を起こす。

 ADSL接続サービスの加入者数が,今年に入り急速に伸びている。総務省の調査によると,2000年12月までの加入者数が9723だったのに対し,2001年3月には6万8746。わずか3カ月で約7倍に増えた。NTT地域会社(NTT東日本/NTT西日本)の2001年の事業計画では,2002年3月に155万回線に達すると予測している。東京めたりっく通信など他の通信事業者の数を加えると,200万回線を超える可能性が高い。

 ADSLの加入者数が急速な伸びを示しているのは,料金の安さと高速性を併せ持つからだ。個人ユーザーは自宅に居ながら,1.5Mビット/秒というメガビット級の通信速度でインターネットにアクセスできる。しかも,何時間使おうと,月額の利用料金は一定の6000円前後(プロバイダ利用料も含む)で済む。

 ADSLは個人ユーザーだけに魅力あるサービスではない。企業ユーザーにとっても,通信料を格段に安く押えられる魅力的なサービスなのだ。これまで1.5Mビット/秒という通信速度を手に入れるには,専用線を使って月額10万円以上の利用料金を支払う必要があった。このため,通信事業者やプロバイダは,企業ユーザーの取り込みを狙って,今年に入り相次いでADSLの企業向けサービスに進出してきた。

固定IPアドレスの利用が可能

図1●企業向けのADSL接続サービスには2つのタイプがある
現在企業向けに提供されているADSL接続サービスの多くは,インターネットに接続するためのサービスである。個人向けのサービスとは,(1)グローバルの固定IPアドレスが利用可能,(2)下りだけでなく上りの通信速度も高速である,などの点が異なる。また,2001年3月から,拠点間通信のアクセス回線としてADSLを利用するサービスが出てきた。これを利用すれば,通信コストを大幅に削減できる
表1●固定IPアドレスを利用できる主なインターネット接続サービス
 企業向けADSLサービスの多くは,グローバルIPアドレスをユーザーに固定的に割り当てる,いわゆる「固定IPアドレス」のインターネット接続サービスである(図1[拡大表示])。固定IPアドレスは,インターネットを介して本社と支社間で通信する場合や,Webサーバーやメール・サーバーなどを設置する場合などに必要になる。

 現在10社近くのプロバイダが企業向けのサービスを始めており,利用料金はIPの数や通信速度によって異なる(表1[拡大表示])。この中で最も割安感があるのは,NTTPCコミュニケーションズの「Biz ADSL8」だ。8個のIPアドレスが利用できて,月額1万2800円と,フレッツ・ADSLの利用料金4600円を含めても,2万円を切る低料金で済んでしまう。

 従来の専用線で,インターネット利用の多い「OCNエコノミー」は,128kビット/秒の通信速度で月額3万2000円である。つまり,ADSLサービスは,従来のインターネット接続専用線サービスと同程度の利用料金で,5~10倍の通信速度を実現しているのだ。実際に「法人契約では,OCNエコノミーから乗り換える企業が多い」(東京めたりっく通信広報室の平田佳世マネージャ)という。

 このほか,企業向けサービスの特徴として,通信速度が下り(局から加入者宅)と上り(加入者宅から局)で同じにしているSDSL(Symmetric Digital Subscriber Line)サービスを提供するところもある。東京めたりっく通信は,通信速度が768kビット/秒の「Biz768」,1.6Mビット/秒の「Biz1600」の2つのプランを用意している。同社では今後「技術的に8Mビット/秒ぐらいの通信速度は実現可能なので,まずは3Mビット/秒のADSLサービスを提供していきたい」(平田氏)という。

企業の拠点間通信での利用も始まる

 ADSLは,インターネット接続だけでなく,企業の拠点間通信にも利用できる(図1)。このようなサービスを提供する通信事業者やプロバイダも増える兆しがある。

 NTT地域会社は3月から,企業向けの専用線サービス「フレッツ・オフィス」と「フレッツ・ADSL」を組み合わせて,拠点間通信に利用できるようにした。他にも5月以降になると,プロバイダ事業を手がけるNTT-MEや,ネットワーク・サービスを提供するAT&Tグローバル・サービスなどが,ADSLを拠点間通信に利用するサービスを開始する予定だ。

 これらのサービスがもたらすメリットは,ADSLによるインターネット接続サービスと同様,同程度のコストで,現在の通信速度の5~10倍程度引き上げられることにある。

 現在,企業の拠点間通信では,拠点とNTT地域会社の収容局をつなぐアクセス回線として,NTT地域会社の専用線サービス「ディジタルアクセス」を利用する企業が多い。

 ディジタルアクセスには3種類あり,通信速度と月額の利用料金は,64kビット/秒(2万8000円から),128kビット/秒(3万8000円から),1.5Mビット/秒(約15万2000円から)となっている(利用料金はタイプ1の一般回線)。

 一方,NTT地域会社が開始したフレッツ・ADSLを使った拠点間通信のサービスでは,利用料金は月額4600円のみ。このように,既存の専用線のアクセス回線をADSLに置き換えれば,同じ通信速度で30分の1以下と,大幅に通信コストを削減できる。

サービスによって接続形態が異なる

図2●フレッツ・ADSLを利用した拠点間通信サービス
NTT東西の企業向けサービス「フレッツ・オフィス」は,企業の本社などとNTT東西の地域IP網を専用線で接続するためのサービス。このサービスとフレッツ・ADSLを契約すれば,地域IP網を利用した高速な社内ネットワークを構築できる。ただし,フレッツ間ではデータのやり取りが行えないため,各拠点間をすべて結ぶ拠点間接続はできない。また,他県にまたがった通信は行えないなどの問題点もある。NTT-MEの新サービスを利用すれば,この問題点を解消できる
 新規参入組みのNTT-MEとAT&Tグローバル・サービスの利用料金はまだ明らかにされていないが,NTT地域会社と比べて,ユーザーの接続形態の幅広さで特色を出そうとしている。それはNTT地域会社と比べて接続の仕組みに違いがあるからだ。

 NTT地域会社の場合,通信できる範囲は各都道府県ごとのIPネットワーク「地域IP網」の中だけだ(図2[拡大表示])。本社側はフレッツ・オフィスを使い,支社側はフレッツ・ADSLを使って地域IP網に接続する。

 このとき,地域IP網の中では,本社側は終端接続装置につながっており,本社と支社間のスター状のネットワークを構成する。したがって,通信できるのは本社と支社の間に限られる。支社同士の通信や他県の地域IP網への通信はできない。このネットワーク形態は,同一県内で,本社にイントラネット・サーバーを置き,各支社からそれを利用するなどイントラネットの利用に向く。

 これに対し,NTT-MEやAT&Tグローバル・サービスが提供する新サービスでは,スター状のネットワーク構成ではなく,各拠点間のすべてを結ぶメッシュ状のネットワークを構成している。したがって,本社と支社の間だけでなく,どこの支社同士でも通信できるようになっている。

 しかも,1つの地域IP網の中で閉じることなく,各県の地域IP網同士をつなぐバックボーン(図2のIP網)はそれぞれ全国規模ではりめぐらされているので,県をまたぐような拠点間通信も可能になるのだ。

(小野 亮=akono@nikkeibp.co.jp