★マイクロソフトは2000年末に,Windows 95のすべてのパッケージ販売とハードウエア・メーカーへのOEM提供を終了した。しかし,まだWindows 95を使っているユーザー企業はある。ユーザー企業にとってWindows 95の出荷終了は切実な問題だ。
★だが,急いでWindows MeやWindows 2000に乗り換える必要はない。提供が終わったとはいえ,Windows 95を使うこと自体はライセンス違反ではないし,実際にはWindows 95を新規・追加購入する方法は残されている。
★Windows 95に限らず,Windows 98やWindows NT 4.0の提供打ち切りも時間の問題だ。それらを見越した長期的な対応策を検討しておこう。

 Windows 95の提供打ち切りで混乱が生じている。出荷から5年経過したとはいえ,Windows 95を使っているユーザー企業は少なくない。社内の標準OSとしてWindows 95を採用している企業もあれば,基幹業務システムのクライアント端末で使用している企業もある。特に基幹システムで使用している場合は,OSを変えると再びアプリケーションの動作検証をする必要があるため,そう簡単ではない。ユーザー企業にとって,Windows 95の提供終了の衝撃は大きい。

図1●マイクロソフトはWebサイト上でWindows 95の提供終了を発表した
1.Windows 95の提供終了,2.修正プログラムの提供終了,3.技術サポートの有償化を明言している。http://www.microsoft.com/japan/win95/availsupport.htm

“ひっそり”と発表した出荷打ち切り

 ことの発端はマイクロソフトが昨年12月22日にWebサイト上で発表した「Windows 95の販売方法と技術サポートの変更に関して」である(図1[拡大表示])。ユーザー企業に広く報じられることはなく,“ひっそり”とWebサイトに掲示された。簡単に紹介すると次のような内容だ。

1.Windows 95の提供終了

2000年12月末出荷分をもってWindows 95のすべてのパッケージ製品の提供を終了する。PCメーカーへのOEM提供も同様に終了する。

2.修正プログラムの提供終了

2000年11月30日以降は,OSのバグやセキュリティ・ホールを修正する修正プログラム(QFE:Quick Fix Engineering)を提供しない。2001年12月31日までは有償で修正プログラムを開発するが,それ以降は終了する。

3.技術サポートの有償化

2001年3月31日で無償サポートを終了する。それ以降は有償となる。

 しかし,マイクロソフトの発表では一部不可解な部分がある。「すべてのパッケージ製品の提供を終了する。PCメーカーへのOEM提供も終了する」としながら,「Authorized OEM Distributor(正規OEM製品販売代理店)よりPCメーカーへWindows 95キットを提供する。プリインストール・マシンを購入希望の場合はPCメーカーへ相談してほしい」とあるのだ。

 これでは,結局のところ「Windows 95は入手できるのか?それとも,入手できないのか?」がはっきりしない。更に情報を混乱させている要因でもある。実際,ハードウエア・メーカーには「Windows 95のプリインストール・マシンを購入できるのか」という質問が多数寄せられているという。

今後もWindows 95を入手できる

 いくつかのハードウエア・メーカーに問い合わせたところ,実は今後も継続してWindows 95のプリインストール・マシンを購入できることが明らかになった。ただし,企業ユーザーが対象となる。

 Windows 95のプリインストール・マシンの提供状況を各ハードウエア・メーカーに問い合わせた結果が表1[拡大表示]だ。メーカーによって対応はまちまちだが,Windows 95マシンを入手できる。例えば,日立製作所やNEC,富士通などは「基本的に提供する」というスタンスであった。価格まで明らかにしているのが日立製作所とNECで,両者とも「Windows 98/Meプリインストール・マシンの価格に2万円を追加すれば,Windows 95をプリインストールしてユーザー企業に提供する」という。日立製作所は,機種は限定しているもののインターネット通販でプリインストール・マシンを販売している(図2[拡大表示])。コンパックコンピュータやデルコンピュータなどは「基本的にプリインストール・マシンは提供しない」というスタンスだが,ユーザー企業から相談があれば提供するという。

表1●Windows 95プリインストール・マシンの提供状況
メーカーによって様々だが,入手不可能というわけではない。インストール代行サービスという契約でプリインストール・マシンを提供するメーカーもある。
図2●日立製作所のインターネット通販サイト
一部の機種ではWindows 95プリインストール・マシンを選べる。価格はWindows Meモデルより2万円高い。 http://value-shop.hitachi.co.jp/

 ただし,「保証範囲が従来のWindows 95プリインストール・マシンよりも制限される可能性がある」,「本体に付属しているUSBポートやCD-ROMなどの周辺機器のデバイス・ドライバはWindows 95用に新たに提供しない」などといった制限事項もあるので,新規にWindows 95マシンを購入するときには注意したい。

 マイクロソフトはハードウエア・メーカーへのOEM提供を終了するが,引き続きAuthorized OEM Distributor(正規OEM製品販売代理店)にはWindows 95を提供する。そのため,メーカーが従来通りプリインストール・マシンを提供することは可能なのだ。2001年1月現在,国内では菱洋エレクトロなど5社が正規OEM製品販売代理店として登録してあり,ハードウエア・メーカーは「マイクロソフトOEMシステムビルダープログラム」契約を新たに結べばOEMライセンスを受けられる。

ライセンス販売制度を使う手もある

 プリインストール・マシンではなく,Windows 95のライセンスだけを追加購入することも可能だ。マイクロソフトが企業向けに用意しているライセンス販売制度(OpenやSelect)でWindows 98やWindows Meのライセンスを購入すればよい。企業向けライセンスでは旧型OSを使うことが認められているため,Windows 98/MeのライセンスでWindows 95を使用できるのだ。これを「ライセンスのダウングレード」と呼ぶ。

 マイクロソフトのライセンス販売制度を使えば,1セットのCD-ROMと社内で使うための共通のプロダクト・コードが与えられる。それを使ってインストールすればよい。なお,CD-ROMを紛失していたとしても,「ディスク・キット」としてWindows 95のCD-ROMを追加購入できる。

 なお,日本アイ・ビー・エムや日本ヒューレット・パッカードは,この方法を使ってWindows 95マシンを提供するという。ユーザー企業がライセンス販売制度でWindows Meのライセンスを購入したあと,メーカーがインストール代行サービスとしてWindows 95を新規マシンにインストールする。

 このようにライセンスをダウングレードして使う方法は,Windows 95以外でも適用できる。例えば,Windows 95と同様に2000年末で提供を打ち切ったSQL Server 6.5も,SQL Server 7.0やSQL Server 2000のライセンスを購入すれば,引き続きクライアント・ライセンスやサーバー・ライセンスとして利用できる。

メーカーを悩ますOSの保証責任

 Windows 95マシンを購入するユーザー企業にとっては,正規OEM製品販売代理店からOSを入手しようが,マイクロソフトのライセンス販売制度を使おうが同じに見えるだろう。しかし,OSに関する保証範囲(使用許諾書の内容)が,それぞれで異なる点は知っておきたい。保証範囲の違いが,ハードウエア・メーカーがWindows 95のプリインストール・マシンを提供しにくくする足かせになっており,各メーカーが異なる提供方法を採用する理由にもなっている。

 正規OEM製品販売代理店から提供されるOEM版Windows 95では,OSの保証責任がハードウエア・メーカーなのか,それともマイクロソフトなのかが明記されてない。可能性は少ないだろうが,もしOSに重大な欠陥があった場合は,マイクロソフトとハードウエア・メーカーとで責任のなすり合いになる。一方,マイクロソフトのライセンス販売制度を使った場合,OSの製品サポートや保証責任はマイクロソフト側にあるため,ハードウエア・メーカーが責任を負わずに済む。

 マイクロソフトは修正モジュールの提供終了を明言しているほか,OSのトラブルによる賠償責任は負わないことも使用許諾書に明記しているため,ユーザー企業にとっては大して差は無い。しかし,メーカーにとっては,OSが自社の保証範囲になるのか否かは重要なため,各メーカーのプリインストール機に対する対応も変わってくる。特に外資系メーカーの場合は契約条項を重視するため,安易にOEM版のWindows 95を使えないようだ。

避けられないバージョンアップ問題

 マイクロソフトはWindows 95の提供終了を発表したが,今すぐにWindows 95マシンが入手不可能になるのではないし,Windows 95を使い続けること自体はライセンス違反にはならない。しかし,Windows 95提供終了の発表を理由に,Windows MeやWindows 2000への乗り換えを強要されることもあり得るので,ユーザー企業は注意してほしい。

 とは言え,ソフトウエアが次々とバージョンアップし,それをサイクル化することで収益をあげてゆくコンピュータ業界のビジネス・モデルが崩れない限り,使用しているソフトウエアの提供終了はいずれ来る。今回のWindows 95の提供終了と同様,いずれはWindows 98やWindows NTの提供終了も予想される。取材の中で「近いうちに,米MicrosoftがWindows 98とWindows NTの提供終了や修正モジュールの提供終了スケジュールを発表する」といった噂も耳にした。

 マイクロソフトは「製品リリース間隔が短くなっているため(Windows 95からWindows 98までが3年,Windows 98からWindows Meまでが2年,Windows MeからWindows XPまでが1年),製品の“世代”で区切るのは現実的ではない。ユーザーや市場状況などを考慮して,今後の提供終了時期などを決める」との方針を示してはいるが,いずれは製品ラインアップから外れる時が来る。

 現在の状況が続く限り,ユーザー企業はOSのバージョンアップ問題からは逃れられない。今回のようなことが今後も立て続けに起こり得るので,それらを見越した長期的な対応策を検討しておくべきだろう。

(目次 康男=metsugi@nikkeibp.co.jp)