複数台のIDE(Integrated Drive Electronics)ハードディスクを組み合わせデータの消失などを防止する「IDE-RAIDシステム」を採用するPCサーバー・ベンダーが増えている。昨年2月,日立製作所はエントリPCサーバー「HA8000/30」にIDE-RAID搭載モデルを用意,富士通も2月と6月にエントリ・モデルの「PRIMERGY ES210/ES200」でIDE-RAIDを標準装備した。それに続き昨年末には,NECがExpress5800シリーズ「モデル110Ee」のオプションとしてIDE-RAIDを加えた。いずれも2台のディスクに同一のデータを書き込むことでデータの冗長性を高めるRAIDレベル1(ミラーリング)を構成できる。その他のPCサーバー・ベンダーも,多くがIDE-RAIDの搭載に前向きの姿勢を示している(表1)。

会社名 製品名 RAIDボードの種類と対応するRAIDレベル 発売時期 採用/不採用理由
日立製作所 HA8000/30A3 米AMI製HyperDisk
(RAID 1のみ)
2000年2月 低価格サーバーで高信頼性を実現するため
富士通 PRIMERGY ES200/ES210 米Promise製FastTrak66
(RAID 1のみ)
2000年2月/6月 ディスク台数やアクセス性能に制限はあるが、安価に冗長性が実現できるため
NEC Express5800/110Ee 米Promise製FastTrak66
(RAID 1のみ)
2000年12月 中堅中小規模やSOHOを中心に,安価RAIDなシステムの需要が見込めるため
日本ヒューレット・パッカード 製品化する方向で検討中 2001年度(予定) IDE-RAIDの需要が増加すると判断
日本アイ・ビー・エム 検討中 未定 マーケティングや技術的な観点から製品化を検討中
デルコンピュータ 未定
コンパックコンピュータ 現在のところ製品化の予定なし 信頼性とパフォーマンスを重視してSCSI-RAIDを採用
表1●各種PCサーバーのIDE-RAIDシステムへの対応状況の例

パソコン用のIDEをサーバーへ転用

 ハードディスクのインターフェースは,IDEとSCSI(Small Computer System Interface)の2種類に大別できる。PC/AT互換機がIDEインターフェースを標準で装備したなどの理由から,クライアントPCでは圧倒的にIDEハードディスクが普及している。入出力インターフェースは,33.3M~66.6Mバイト/秒の速度が一般的だ。

 一方,SCSIインターフェースは,より高速なデータ転送を実現するために策定された規格の1つで,SCSI-1に始まりSCSI-2やSCSI-3などの規格が決められてきた。現在主流のSCSI-3では,80M~160Mバイト/秒と高速なデータ転送が可能で,主にPCサーバーで採用されている。

 サーバー向けとしてIDE-RAIDシステムが注目された一番の理由はそのコストにある。同じ記憶容量のIDEとSCSIディスクの価格を比較した場合,IDEディスクの方が安価だ。PCサーバーに搭載するRAIDシステムとしては,現在SCSIディスクを利用する方法が一般的だが,サーバー本体の価格下落が激しく,「RAIDシステムを導入するともう1台サーバーが買えてしまう」という事態が発生しかねない。IDEディスクを利用すれば低コストでRAIDシステムが構築できる。特にエントリPCサーバーではIDE-RAID採用に拍車がかかっている。

RAID5対応の
IDE-RAIDボードが登場

写真1●RAID5に対応した米Promiseの「SuperTrak100」
最大6台のIDEハードディスクが接続でき,対応するRAIDレベルは0,1,3,5。Ultra ATA/100のハードディスクに対応している点が特徴。
 IDEハードディスクを利用したRAIDシステム自体は特に目新しい仕組みではない。これまでもパワー・ユーザーのパソコンやワークステーションなどで活用されてきた。サーバーで活用される機会が少なかったのは,「IDEのデータ転送速度がSCSIに比べ遅いことや,IDEディスクの信頼性に疑問が持たれていたため」(ハードディスクや各種周辺機器を販売しているシネックスの田中孝和マネージャ)。ところが最近では「IDEの技術革新が進み入出力インターフェースも最高100Mバイト/秒まで高速化している。信頼性も大幅に改善されてきた」(同)。

 サーバーに導入が進まなかったもう1つの問題がRAIDレベルだ。RAID5という3台以上のハードディスクを利用したRAIDシステムはSCSI-RAIDでは当たり前だが,IDE-RAIDボードでは「接続可能なハードディスク台数が2台まで」という制限を持つ製品がほとんど。そのためRAIDレベル0もしくは1しか構成できなかった。日本IBMは「RAIDレベルの制限がPCサーバーへの採用を見送ってきた理由の1つ」と説明する。

 これに対して,最新のIDE-RAIDボードではRAID5に対応した製品も出てきた。米Promise Technologyの「SuperTrak100」がその1つ。最大6台のIDEハードディスクを接続してRAID5構成を組むことができる(写真1[拡大表示])。実勢価格が6万円弱とIDE-RAIDボードとしては高価だが,6台のIDEハードディスクでRAID5を実現できた意味は大きい。

対応に時間をかけるベンダー

図1●IDE-RAIDシステムの導入で得られるメリットとユーザーが抱える不安材料
安価にRAIDが構築できるIDE-RAIDのメリットは大きいが,サーバー・ベンダーやインテグレータの取り組み状況が成熟していないなど課題もある。

 期待高まるIDE-RAIDだが課題もある(図1[拡大表示])。その1つがPCサーバー・ベンダーの対応状況だ。現状では表1で示したように,IDE-RAID対応のPCサーバーは各ベンダーごとに1~2機種と限定されている。また今後,IDE-RAIDボードを検討すると回答したサーバー・ベンダーも出荷の具体的な期日は未定だ。導入に前向きな日本ヒューレット・パッカードですら「2001年度中に出荷を目指す」と説明するにとどまる。コンパックコンピュータのように「信頼性に欠ける」との理由から採用に慎重なベンダーもある。

 RAID5というSCSIでは主流のRAIDレベルもまだサポートされていない。ユーザーは,RAID5に対応したボードをパソコン・ショップなどで購入,やる気さえあれば自分で装着することは可能だが,その場合PCサーバーの保証対象外になることも多い。やはりサーバー・ベンダーが標準もしくはオプションとしてIDE-RAIDを用意してくれた方が安心感が増す。

 しかし,いずれにしろエントリ・サーバーでIDEディスクが使用されている現在,安価にサーバーの冗長性を高めるにはIDE-RAIDの採用は避けては通れない。日本HPも「低価格サーバーにおいてIDE-RAIDの需要は今後より増えていく」と予想する。部門サーバーなどでRAIDが当たり前になる時期は必ずやってくるだろう。

(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)