★マイクロソフトのBizTalk Serverは,企業間電子取引(BtoB)でシステム同士を接続するためのソフト。
★BtoBのほか,マーケットプレースの構築や,企業内のシステム統合などにも活用できる。
マイクロソフトは,電子商取引(EC)などで企業の情報システム間を接続するためのソフトウエアBizTalk Server 2000を3月中旬から出荷する。BizTalk Serverは,Windows 2000 Server/Advanced Server上で動作するサーバー・アプリケーションの1つ。SQL Server 2000やExchange 2000 Serverのように既存ソフトのバージョンアップではなく,今までなかった分野をカバーする新製品という位置付けになる。
BizTalk Serverは,マイクロソフトが提供するEC分野の製品としては,Commerce Serverなどと並んで,重要な製品である。しかし,Windows以外のプラットフォームも含めたシステム間を接続するという裏方的な機能をもつことや,製品だけにとどまらずBizTalkフレームワークというメッセージ形式のガイドラインを複数の企業で規格化して公表しているなど,サーバー製品の中ではやや地味で異色な存在という印象を受ける。
既存のシステム同士を接続するゲートウエイを素早く作ることが重要
図1●BizTalk Serverを活用した企業間電子取引の概念図 標準化された構造の文書をインターネットを介してやり取りすることで,複数の企業の情報システムを連携させることができる。 |
しかし,各企業が独自に構築したシステム同士を接続して連携処理できるようにするのはそう簡単ではない。データベースの構造やビジネス・プロセスの違いなどのような大もとのレベルから,日付の書式などの細かいレベルまで,多くの違いをリストアップして対応付けや変換処理が必要になる。この対応付けをシステム上で実行するには,通常はゲートウエイと呼ぶ変換ソフトを個別に開発して対処する。しかし,ある企業と電子取引をするために個別にゲートウエイ・ソフトを作成するのでは,取引する企業と同じ数のゲートウエイ・ソフトが必要になり,現実的ではない。
また,業務の効率化のために,ビジネス・プロセスや処理するデータの書式などを見直して変更することが頻繁に起こる。この変更に合わせて素早くゲートウエイ・ソフトも修正する必要がある。
つまり,ゲートウエイ・ソフトに求められているのは,複数のシステム間を接続できる柔軟性と,素早く開発できてメンテナンスも容易な生産性の両方である。
データ書式を業種ごとにXMLで標準化
BizTalk Serverはこのようなシステムを必要としているユーザーをターゲットにしている。データ交換の基本的な技術としてXMLを採用することで,データ構造などが違うシステム間の対応付けが容易にできるようになっている。ただし,データ構造や表示書式が違うデータを単純にXMLで記述しただけでは,違いがそのまま残っているためあまり意味がない。
そこで,企業間の電子取引に必要なデータの書式をある程度標準化するためにBizTalkフレームワークと呼ぶ規約を決め公開している。BizTalkフレームワークは,企業間で交換するデータの構造(スキーマ)をXMLで記述する方法や,SOAPなどを利用していかにうまくシステムで処理するかについて記述したガイドラインである。
また,業界によっては,既にデータの書式や処理手順を標準化して専用ネットワークを運用している。日本では,例えば銀行向けの全銀協手順や流通業向けのJCA手順などが広く普及している。BizTalk Serverでは,サードパーティが提供する製品を利用することで,このようなネットワークへ接続できるようになるという。
企業内のアプリケーション統合にも有効
拡大表示])。大企業では,本社や工場などの拠点ごとに情報システムを持っているケースが多い。最初から相互接続を考慮して設計されていればよいが,独立に作られた既存のシステムを後から接続するのは,他社のシステムと接続するのと同じ問題が発生する。
BizTalk Serverによって,社内ネットワークやインターネットを介したシステム間の連携が容易になる。SAP R/3のようなERP(Enterprise Resource Planning)システムなどと連携する機能も備えている。
BizTalk Serverを利用して社内のシステムを統合する場合,接続する相手がWindows NT/2000上のシステムならば,LANや専用線を介してCOMコンポーネントを呼び出したり,MSMQ(Microsoft Message Queue Server)を活用するなど,より高度な連携が可能になる。
ビジネス・プロセスを画面上で描画
BizTalk Serverの機能は,大別するとBizTalkオーケストレーション・サービスとBizTalkメッセージング・サービスの2つで構成されている(図3[拡大表示])。オーケストレーション・サービスは,あらかじめユーザーが決めたビジネス・プロセスを既存のシステムと連携して処理する。どのタイミングでどのシステムにデータを受け渡すかなどを画面上の図形で指示する(図4[拡大表示])。処理手順を図形で表すことで,プログラミング言語でコーディングするよりも,処理の流れを把握しやすく,プロセスに変更があっても,修正すべき個所を見つけやすい。操作のインターフェースはマイクロソフトの描画ソフトVisioと同じになっている。
一方のBizTalkメッセージング・サービスは,HTTP(Hypertext Transfer Protocol)やSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)などの標準的なプロトコルでメッセージを送受信する役割を持つ。また,データ構造や書式を変換したり,暗号化などの機能もある。オーケストレーション・サービスと同様に,画面上でデータ項目の対応付けや変換方法を指定できるようになっている。例えば,受注処理などで単価と数量から金額を計算してから相手にデータを渡すといった内容を画面上で定義する。
BizTalk Serverは,Windows 2000 ServerまたはAdvanced Serverで動作する。また,SQL Server 7.0または同2000が必要になる。しかし,NTドメインやActive Directory環境はなくてもよい。つまり,通信に標準的なプロトコルを使っている限り,例えばUNIXとメインフレームを接続するためにBizTalk Serverを導入するといった使い方もできる。
BizTalk Serverには,Standard EditionとEnterprise Editionがある。Standard Editionは,1CPUのサーバーで,接続相手の数が5つまでという制限がある。Enterprise Editionにはこのような制約はなく,複数のサーバーによるクラスタ機能も備える。米国での価格は,Standard Editionが1CPU当たり4999ドル,Enterprise Editionが1CPU当たり2万4999ドル。国内での価格もこれとほぼ同レベルになる見通し。
国内では流通や製造など6社のユーザーがベータ版の段階からテスト導入している。その中のあるユーザーは,BtoBシステムのプロトタイプ・システムをBizTalkを使って約3カ月程度という短期間で開発できたという。