★Windowsの次期版「Whistler(開発コード)」日本語版ベータ1が開発者向けにリリースされた。企業向けと個人向けのOSをWindows NT/2000のカーネルをベースに再編しようとしている。
★クライアントOSには企業向けのWhistler Professionalと個人向けの同 Personalの2種類がある。サーバーOSは現行と同じ3製品が出る見込み。Personalを除きIntelの64ビットCPUのItaniumで動くバージョンを用意する。
★新しいスタート・メニューでは,よく使うアプリの履歴を表示するなど,使い勝手が向上している。

 マイクロソフトは,Windows 2000とWindows Meの後継になるWhistler(開発コード)の日本語版ベータ1を開発者向けにリリースした。英語版のベータが2000年10月31日にリリースされてから約3週間後の11月20日にリリースされている。日本語版ベータ1は,Whistler Professionalと同 PersonalのクライアントOSのみのリリース。ここでは,日本語版ベータ1で見えてきた次期WindowsのクライアントOSの姿を紹介する。ただし,ベータ1であるため,これから仕様が変更される可能性は高い。画面のデザインも変わる可能性がある。

図1●開発者向けに出荷されたWhistler日本語版ベータ1
デスクトップに表示されていたマイコンピュータやマイドキュメントがスタート・メニューからアクセスできる。

 Whistlerは本誌12月号のニュース(p.19)で既報のように,ユーザー・インターフェースが一新されている。特徴的なのが,スタート・メニューだ(図1[拡大表示])。Windows 2000などではデスクトップに表示されているマイドキュメントやマイコンピュータにスタート・メニューからアクセスする方式になり,操作に統一感が出た。その分,デスクトップに表示されるアイコンの数が減ってシンプルになっている。

 Internet ExplorerとOutlook ExpressはWhistlerをインストールすると新しいスタート・メニューから起動できるようになっている。

 その他のソフトは,[プログラムの一覧]という部分をクリックすると表示される。ここは従来のWindows 2000のスタート・メニューに似たデザインのメニューが表示される。ワードパッドやペイント,ExplorerなどのWindows標準のソフトは,メニューの階層をたどって起動する。

 起動したソフトの履歴は,新しいスタート・メニューの左側に表示される。よく使うソフトを起動するのが簡単になる。Windows 95が登場したときに,スタート・メニューを採用した意義は大きかった。使いたいアプリをメニューから素早く選べる画期的な方法であったが,たくさんのアプリをインストールすると,使いにくくなる。マウスを動かすとインストールされているソフトのメニューが大量に表示され,使いたいアプリがどこにあるのか見つけにくい。Whistlerではそれを改善しようとしているようだ。

Windowsファミリの統一を目指す

図2●個人向けと企業向けWindowsファミリがWhistlerで統合
図3●Whistlerの主な機能
ProfessionalはPersonalの機能を含む。
図4●Windows 95/NTの互換モードで古いアプリを動かす

 Whistlerは現行のWindows NT/2000系列のOSとWindows 98/Me系列の統合を目指したものである。Windows 2000 Professionalの後継がWhistler Professional,Windows 98/Meの後継がWhistler Personalになる(図2[拡大表示])。実際に販売されるときには異なるパッケージになると思われるが,ベースはどちらもWindows NT/2000である。

 サーバーOSもラインナップされている。すでに,Whistler Serverと同 Advanced Serverの英語版ベータが開発者向けにリリースされている。資料には,Whistler Datacenter Serverの名前もあり,現行のWindows 2000 Serverファミリと同じ3種類の製品が登場する可能性が高い。ServerとProfessionalには,Intelの64ビットCPUのItaniumで動く64ビット・バージョンも用意される。

 気になる出荷時期であるが,公式にはProfessionalとPersonalは2001年後半を予定している。一部には2001年夏には出荷されるという報道もある。サーバーOSはクライアントOSの後に遅れて出荷されるようだ。

 ProfessionalとPersonalの違いは,ターゲット・ユーザーの違いのようだ。ProfessionalはPersonalの機能を包含している(図3[拡大表示])。Professionalは企業のネットワーク環境で使われることを想定し,セキュリティやバックアップ機能を中心に強化されている。

 ほとんどの機能はProfessionalとPersonalの両方が備える。例えば,CD-RやCD-RWに標準で対応する。専用の書き込みソフトがなくてもCD-Rを作成できるようになる。

 また,古いアプリを動かすために,Windows 95/NT互換モードを装備した(図4[拡大表示])。Windows 95のみ対応のアプリは,そのままではWhistlerで動かない場合が多く発生すると考えられる。そのようなアプリは,Windows 95の互換モードを利用することで,動かせるようにするようだ。Windows NT互換モードも同様で,Windows NT 4.0(SP5)をエミュレーションしてアプリを動かすことを目指す。

ネットワーク機能を強化

 Windows 2000やMeはOSのアップデート機能など,ネットワークに接続して使うことが前提になっている新機能が目立った。Whistlerも同様に,ProfessionalとPersonalの両方でネットワークで使う機能が強化されている。例えば,ネットワーク上にヘルプデスクを設置して,チャットなどで会話し,インタラクティブにサポートを受けられる機能を備えている。

 また,パーソナル・ファイアウオール機能を搭載しているので,使用しているコンピュータに不正に侵入されないようにできる。LAN経由だけでなくダイヤルアップ接続やADSL,ケーブル・モデム経由でインターネットと接続している場合も防御するようだ。

 これまで,サード・パーティ製のファイアウオールが必要だったが,OSに標準装備される。個人で使うコンピュータも,これからはインターネットに常時接続する場合が多くなると思われるので,企業だけでなく,個人のコンピュータを守るためにも重要な機能が搭載された。

Personalはドメインに参加できない?

図5●ドメインの参加に制限がある
ベータ1のPersonal版ではActive DirectoryやNTドメインに参加できなかった。
図6●OSの自動更新設定
更新ファイルをダウンロードするタイミングなどを設定できるようになる。

 ProfessionalとPersonalの見た目と内部構造は変わらないのに,Personalが個人向けのクライアントOSだと位置付けられているのは,ドメインによるユーザー管理ができないからかもしれない(図5[拡大表示])。

 Windows NT/2000と同様にWhistlerにもドメインに参加するための設定をするウインドウがある。Professionalでは,ドメイン名を入力すると問題なくNTドメインにもActive Directoryにも参加できた。一方,Personalにも,Professionalとまったく同じ手順でドメインに参加するための設定ウインドウを表示させることができる。ただし,ドメイン名を入力しても,いざ設定を適用させようとすると「ドメインに参加できません」という旨のメッセージが表示される。Active DirectoryだけでなくNTドメインへの参加もできなかった。

 これは,PersonalとProfessionalの役割を明確に区別するため,Personalではドメインに参加できないように制限を設けているのではなかろうか。あくまでもPersonalはドメインを必要としない個人ユーザー向けのOSとして位置付けているのだと思われる。

 ただし,Personalでもワークグループでネットワークに参加することはできるので,ドメインを構築していないSOHOや小規模な部門システムでは使えるだろう。もし,PersonalとProfessionalの価格の差が大きければ,Windows 95/98が企業で使われているように,Personal版も企業に入っていくかもしれない。

 このほかにもWhistlerに搭載された機能は多い。例えば,インターネット経由でOSをアップデートする機能は,Windows 98/2000にもあったが,Whistlerでは更新ファイルをダウンロードするタイミングなどを設定できるなど機能強化されている(図6[拡大表示])。Windows Meで搭載されたWIA(Windows Image Acquision)によるデジタル・カメラなどのイメージング機器の制御もWhistlerに引き継がれている。

(伊藤 康生=yaitou@nikkeibp.co.jp)