★Windowsターミナル・サーバーの専用端末「Windows Based Terminal」の新製品が増えてきた。
★2年前に登場後あまり動きがなかったが,今回は,セキュリティが高い,小さい,壊れにくい,端末側の管理が不要――といった「個性」を強調している。
★画面の応答が遅い,256色しか表示できないといった問題も抱えているが,パソコンとは違ったコンピューティング市場の開拓に期待がもてる。

 今年の後半に入り新型のWindows Based Terminal(WBT)が続々と登場しはじめている。WBTは,ネットワークにつないで電源を入れるだけで,WordやExcelといった各種Windowsアプリケーションが使えるネット端末である。Windows NT Server 4.0, Terminal Server Editionが登場した2年前は,TCO(システムの総所有コスト)を削減するパソコンの代替マシンとして話題を集めたが,パソコン価格の急激な下落や,端末の選択肢がなかったこともあり普及が進まず,存在感が薄れていた。

図1●選択肢が広がるWindows Based Terminal
当初はデスクトップ型のみだったが,ディスプレイ一体型やハンディー・ターミナル型など個性あるWBTが増えてきた。
 最近登場した製品は,ICカード認証と組み合わせてセキュリティをより強固にしたものや,ディスプレイや無線LAN装置と一体型にして設置場所の自由度を高めたもの,商品管理用などの業務用途にターゲットを絞ったものなどがある(図1[拡大表示])。

 2年前と大きく異なるのは,単にTCOを削減するパソコンの代替機ではなく,パソコンとは違う「個性」を強調している点だ。「端末側にデータを保存しないのでセキュリティが高い」「ハードディスクが不要なので小さくて壊れにくい」「端末側にアプリケーションを導入不要」などといったターミナル・サーバーの特徴を前面に打ち出している。「万能だが管理が頻雑な」パソコンとすみ分けるという意図が見て取れる。

 オフィスのパソコンを置き換えるよりも,パソコンにはないメリットを打ち出すことで,振動などの問題でパソコンを設置しにくい工場,端末の管理が行き届きにくい店舗や公共施設,ネットワーク経由でアプリケーションをレンタルするASP(Application Serivice Provider)のユーザー企業などの市場へ広まることが期待できる。

ICカードでさらにセキュリティを強化

 WBTのセキュリティの高さと管理のしやすさを強調しているのが,高岳製作所と松下インフォメーションシステムズが共同で開発したICカード認証型の端末だ。

 そもそも,WBTはパソコンよりもセキュリティを高めやすいという特徴があった。ユーザーのデータなどはすべてサーバー側に格納されるため,端末本体を盗んだとしてもデータを盗まれることはないからだ。ただし,セキュリティはサーバーへログオンするユーザーのパスワードだけに頼っているため,このパスワードなどが漏れてしまうと元も子もない。

図2●ICカードでセキュリティを強化
ICカードにはユーザー名やパスワードなどが記録してあり,ICカードを抜き差しするだけでターミナル・サーバーにログオン/ログオフできる。
 ICカード型はこの課題を克服している。ICカードの中に暗号化して記録してあるのはサーバーにログオンするためのユーザー名やパスワード,接続先のサーバー名などであり,ユーザー自身はこのような情報を覚えておく必要はない。ICカードをWBT本体のスロットに差し込み,暗号を解読するためのパスワード(暗証番号)を入力するとデスクトップが開く(図2[拡大表示])。一方,カードを抜けば自動的に切断される。まるで家電のスイッチを入れるような感覚で使える。さらにICカードにはログオン情報以外も書き込めるため,社員証や会員証としても利用できる。

 もし,ICカードを盗まれても悪用される心配はない。暗号解読用のパスワードが盗まれない限りログオンできないからだ。また,誤ったパスワードを連続して入力するとICカード自体をロックして使えなくする機能もある。

端末を複数ユーザーで使うメリットも

 ICカード型固有の機能ではないが,1つの端末を複数のユーザーで共用するような環境にも適している。WBTでは処理を終了するときに「ログオフ」以外に「切断」という機能がある。ICカード型ならば,カードを抜くと自動的にネットワークを切断される。しかし,作業中の状態はサーバー側に保存されるため,もう一度カードを差し込む(接続する)と前回切断した直後の状態から作業できる。ネットワークにつながっていれば,どの端末を使っても自分のデスクトップ環境が再現される。「教育機関の実習端末や会員制のインターネット・カフェ,社内各所に置かれた社内情報アクセス用のフリー端末といった用途にも適している」(高岳製作所の牧村佳彦 情報システム営業グループ課長)。

 Windows NT/2000でも,ログオンしたユーザーごとにデスクトップ環境を再現する「移動ユーザープロファイル」という仕組みがある。しかし,ユーザーのファイルをすべて端末側にダウンロードするためログオンに時間がかかるし,パソコンのハードディスクも徐々に消費される。一方,WBTの場合は画面情報さえ表示できればよいため数秒でログオンでき,端末側のディスク容量を気にかける必要がない。

小さな本体をディスプレイに組み込む

 WBTはハードディスク装置などが不要なため,本体自体はとても小さい。デスクトップ型でも携帯辞書サイズだ。この小ささを生かし,NEC,ナナオ,高岳製作所は液晶ディスプレイと一体化した製品を投入した。

図3●どこにでも設置可能なディスプレイ一体型
液晶ディスプレイの背面に本体を内蔵している。厚さは一般の液晶ディスプレイとほぼ同じだ。ナナオはディスプレイを回転すると縦表示にする機能を追加している。
 パソコンでもディスプレイ一体型があるが,WBTの一体型はさらに薄くて小さい。「WBTを展示しても誰もが単なるディスプレイと思ってしまう」(ナナオの浅井二郎 企画部販売促進課販促2係係長)。ディスプレイの近くに本体が必要なパソコンでは,意外と設置場所に制約があるが,WBTの一体型であればディスプレイだけ置くスペースがあればよい。ディスプレイを上下・前後・左右に自由に移動できるフリーアームを使えば,机の上だけでなく柱や壁に取り付けることも可能だ(図3[拡大表示])。ナナオでは,ディスプレイを90度回転させると画面を縦長に表示するちょっと変わった機能も独自に作り込んだ。WebページやPDFで提供される帳票データなど縦長の画面イメージを見るのに便利だ。

Windowsアプリを業務端末で使える

 商品管理用など業務端末向けの専用端末も出てきた。タッチパネルや無線LAN装置と組み合わせたハンディターミナル型や,バーコードなどを読み取るスキャナ一体型などだ。業務端末型とオフィス向けのデスクトップ型の両方を販売しているネクストネットの後藤卓雄社長は「サーバー側で集中管理するWBTは,オフィス利用よりも業務用途の方がメリットが引き出せる。業務用途の方がオフィス向けよりも先に広まりそうだ」という。

 業務端末の多くは,今でも各端末ごとにアプリケーションを作り込んでいるケースが多い。Windowsアプリケーションを使うためのハンディターミナル型パソコンもあるが,データは端末側に格納されるため使用するたびにサーバー側と同期する必要があるといったデメリットがある。

 一方,WBTでは既存のWindowsアプリケーションをそのまま利用することができるし,そもそもサーバー側にデータを格納するため同期処理も不要になる。アプリケーションを端末に組み込む必要がないので,バージョンアップや修正が容易だ。「WBTはディスクなどデリケートな部品がないため振動にも強く,多少乱暴に扱っても壊れない」(後藤氏)という利点もあるようだ。

周辺機器を使うには拡張ソフトが必要
256色表示しかできないが年末に解消

表1●日本で販売中・販売予定のWindows Based Terminal
 パソコンと同じアプリケーションが使えるWBTだが,いくつか機能制限がある。「多彩なハード/ソフトを使うならばWBTではなくパソコンを使うべき」(後藤氏)といった意見もある。

 1つはフロッピやプリンタ,USB機器などの周辺機器を端末側で使用できない点だ。拡張ポートを備えている端末もあるが,シトリックス・システムズ・ジャパンが販売しているターミナル・サーバーの機能を拡張するソフト「MetaFrame」が必要になる。「データをフロッピに保存するために,パソコンを設置して対処しているケースも多い」(浅井氏)。

 もう1つは画面表示の問題だ。WBTでは圧縮した画面の差分情報をサーバーから受信して画面に表示する。しかし,全画面をスクロールするような処理をすると画像情報が増えるため一気に反応が鈍くなる。実際に試したところ数秒間,ひどいときには数分間応答がなくなる現象もたまに見られた。

 サーバー/端末両方の仕様上256色までしか表示できない点も問題だ。ワープロや表計算ソフトを使う程度ならば実害は無いが,Webページで写真を見たり,グラフィック・ソフトを使う用途には向かない。シトリックスによると2000年末に出荷予定のMetaFrameの次期版では,約6万5000色表示を可能にするという。ただし,端末側のファームウエアを入れ替える作業が必要になる。

(目次 康男=metsugi@nikkeibp.co.jp)

クライアント環境はサーバーで集中管理
アプリケーションの導入作業などは不要

図A●クライアントの処理はすべてサーバー側で実行するターミナル・サーバー
アプリケーションなどのクライアント側の処理はサーバー側で実行される。クライアント側には画面情報のみ送られてくる。
 ターミナル・サーバーはサーバー側に仮想的なクライアント・パソコンを作り出す機能だ。Windows NTでは専用OS「Windows NT Server 4.0, Terminal Server Edition」が必要だったが,Windows 2000では「ターミナル・サービス」として標準実装している。クライアント端末をネットワーク経由で接続すると,サーバー側に作られた仮想パソコンを遠隔操作できる(図A[拡大表示])。端末側にはサーバーで生成された画面を表示したり,キーボードやマウスなどの端末側の操作をサーバーに送る機能だけがあればよい。そのため,専用のクライアント端末(WBT:Windows Based Terminal)は,ハードディスクなど不要な装置を省いてある。クライアント・ソフトはマザーボードのROMに初めから記録してある。サーバー側に導入したアプリケーションをそのまま使えるので,端末側にWindows NT/2000やアプリケーションを導入する必要はない。ユーザーが作ったファイルやデスクトップ環境もサーバー側に格納される。クライアント側のメンテナンスが不要になるため,世に登場した当時(1998年9月)にはTCO(システムの所有コスト)の要として注目された。