★マイクロソフトはMicrosoft.NET対応のサーバー群として「.NET Enterprise Servers」を発表した。これまでのWindows DNA 2000 Serversを改称したもので,一部ユーザーの混乱を招いている。
★基本的には既存サーバー製品のバージョンアップだが,BizTalk Server 2000とApplication Center 2000という2つの新製品を追加する。
★BizTalk ServerはXMLデータの交換だけでなく,ワークフローの実行機能も備える。Application Centerはクラスタを容易に実現するソフト。Windows 2000 Advanced Serverと連携して,Webサーバーの負荷分散機能を提供する。

図1●マイクロソフトのサーバー製品群
サーバー製品の総称としてのBackOfficeはなくなるが,サーバー・スイートのBackOffice Serverは残る。
 米Microsoft社が6月に発表した新戦略「Microsoft.NET」は当初,同社が何をしようとしているのか分からず,ユーザーは戸惑った。だがその後の一連の説明で,少しずつ輪郭が見えてきた(pp.171-180技術解説を参照)。

 .NETの一環として,マイクロソフトは7月26日,新しいサーバー・アプリケーション群「.NET Enterprise Servers」を発表した。これは,Microsoft.NETに対応させたサーバー製品をひとくくりにした呼び名である(サーバー・スイートが販売されるわけではない)。製品は個別に,2000年後半から順次出荷される予定だ。

 一方で,急転直下の.NET転換に開発者や管理者はいささか混乱気味である。たとえば,今回の.NET Enterprise Serversに含まれる製品のほとんどは,ほんの少し前まで,次世代の3階層システム・アーキテクチャ「Windows DNA 2000」を実現するサーバー製品「Windows DNA 2000 Servers」と紹介されていた。その姿がようやく見えてきたと思ったら,いきなり.NET Enterprise Serversに改称された。改称されたものの,Web対応の企業情報システムを迅速に構築するという目標自体は変わっていない。変わったとすれば,よりインターネット環境へのシフトを意識している点だろう。

 ともあれ,Windows DNA 2000は.NETプラットフォームに変わり,サーバー製品は.NET Enterprise Serversになった。名称を覚えることにはあまり意味はないが,それがどんな製品を指しているのかは今後のために知っておいた方がよいだろう。

サーバーの総称BackOfficeも消える

図2●Windows DNA Serverから.NET Enterprise Serverへの製品の進化
新たにBizTalk Server 2000とApplication Center 2000が加わった。各製品は2000年後半から順次提供される。
 .NET Enterprise Serversを説明する前に,サーバー製品の総称に関して整理しておこう。ややこしいのは,Windows DNA 2000 Serversが改称される少し前に,サーバー製品全体の総称も変更になったことだ(図1[拡大表示])。従来,サーバー製品はBackOfficeと総称されてきたが,Microsoftはこの名称を2000年以降徐々に使わなくなり,「Microsoft Servers」と改めた。BackOfficeを紹介するWebページもいつの間にかMicrosoft Serversというタイトルに変わった。

 この変更は特に発表もなく,しずしずと行われたので気付かなかったユーザーもいるだろう。ただし,Windows NT/2000とサーバー・ソフトをセットにしたスイート製品BackOffice Serverはこの名前で残る。

 Microsoft Serversはマイクロソフトのサーバー製品の総称であるが,.NET Enterprise Serversはどちらかと言えばマーケティング/戦略上の呼び名である。位置付けとしては,Windows DNA Serversの後継になる。マイクロソフトのサーバー製品には,このほかに,システム管理のSystems Management Serverやサーバー・スイートのSmall Business ServerとBackOffice Serverがある。

XMLへの対応が共通の特徴

 .NET Enterprise Serversは,図2[拡大表示]に示した7つの製品で構成される。このうち「BizTalk Server 2000」と「Application Center 2000」は新製品で,そのほかは既存製品のバージョン・アップである。ただし,名称が変更になった製品が3つある。Site Server 3.0 Commerce Editionは「Commerce Server 2000」に,SNA Server 4.0は「Host Integration Server 2000」に,Proxy Server 2.0は「Internet Security and Acceleration Server 2000」(ISA Server)へと変わる。

図3●BizTalk Server 2000のメッセージング・ツール「BizTalkエディタ」と「BizTalkマッパー」の画面
BizTalkのメッセージング機能では,データの変換,形式チェック,暗号化,送信/受信などを処理する。
 .NET Enterprise Serversに共通する特徴の1つは,XML(Extensible Markup Language)対応である。ここでいう対応とは,データを扱うサーバー製品(SQL Server 2000,Commerce Server 2000,Exchange Server 2000,Host Integration Server 2000)が単体で,もしくはBizTalk Server 2000と連携することでXMLデータの蓄積や交換が可能になるという意味だ。

 .NETが目指す世界では,インターネット上のソフト部品(Webサービスと呼ぶ)がXMLを使ってデータ交換し,連携しながら各種機能を提供する。そのため.NET Enterprise ServersのXML対応は欠かせない。その中でも中核的役割を果たすのが新製品のBizTalk Server 2000である。

BizTalkはワークフロー機能も提供

 BizTalk Server 2000の基本機能は,XMLデータの変換と送受信,およびそれらの処理を含むワークフロー(ビジネス・プロセスと呼ぶ)を定義/実行することだ。それぞれをBizTalkメッセージング・サービスとBizTalkオーケストレーション・サービスと呼ぶ機能で実現している。

 BizTalkメッセージング・サービスには,企業間またはアプリケーション間の連携に必要なデータの変換,取引先の管理,通信プロトコルの選択,データの追跡とログ出力などの機能がある。そのためのツールがいくつか用意されている(図3[拡大表示])。たとえば,「BizTalkエディタ」ではXMLデータの構造をエクスプローラ風の画面で定義できる。また,「BizTalkマッパー」は異なる2つのデータ構造のレコードやフィールドを結んで(マッピング),データ変換を行うツールだ。内部ではXSLT*を利用している。

 もう1つのBizTalkオーケストレーション・サービスは,複数の組織やアプリケーションにまたがるワークフローを定義,実行する機能である。アプリケーション・デザイナーという描画ツール(同社のグラフィックス・ソフトVisio 2000をベースにしたもの)があり,そこでフロー図を描くだけでBizTalkオーケストレーションがフローを自動実行する。

クラスタの設定/導入が容易に

図4●Application Center 2000が備える2種類のアプリケーション負荷分散機能
複数のサーバーをクラスタにまとめることで,統一された1つのリソースとして使用する。
 .NET Enterprise Serversには,XMLとは直接関係のないサーバーも含まれている。ISA Server 2000とApplication Center 2000であり,これらはネットワークやシステムのセキュリティやパフォーマンスを向上させる。このうち,新製品のApplication Center 2000は,クラスタ機能を容易に実現できる製品として注目される(pp.14-15のレポート参照)。

 クラスタとは,複数のサーバーを1つのサーバー・システムとして管理/運用する機能だ。負荷が集中するサーバーの処理を複数のサーバーに分散することでパフォーマンスを向上させたり,1台のサーバーで障害が起きてもほかのサーバーでサービスを継続できるなどのメリットがある。

 具体的には,Application Center 2000は,Webサーバー(Internet Information Service)を最大32台のサーバーで分散する機能や,COM+*コンポーネントへの要求を最大8台のサーバーで分散する機能などを持つ(図4[拡大表示])。前者は,本来Windows 2000 Advanced Server/Datacenter Serverが備えるネットワーク負荷分散機能(NLBS)であるが,Application Center 2000のユーザー・インターフェースと組み合わせることで,設定や変更が容易になる。

(道本 健二=michi@nikkeibp.co.jp)