★Active Directory移行ツール(ADMT)の日本語版が,マイクロソフトのサイトでダウンロードできるようになった。
★複数のNTドメインを1つのWindows 2000ドメインに移行したり,複数のWindows 2000ドメインを統合するのに利用できる。
★GUIを使ったウィザードによって,オブジェクトの移行作業は簡単になる。ただし,ドメインの移行のプロセスそのものは,複雑であることに変わりはない。移行に当たっては,事前に入念な計画と検証作業が必要だ。

図1●複数のNTドメインを統合してWindows 2000ドメインへ移行する例
NTのシングル・マスタ・ドメインを,Active Directory移行ツールを使って,アカウント・ドメイン→リソース・ドメインの順にユーザー,グループ,コンピュータなどをWindows 2000ドメインに移行する。
 マイクロソフトは,Windows NT/2000ドメインのユーザーやコンピュータ・アカウントなどを,ウィザードを使って別のWindows 2000ドメインへ移行するツール「Active Directory移行ツール(ADMT:Active Directory Migration Tool)」日本語版の提供を始めた。同社のWebサイトからダウンロードできる (http://www.microsoft.com/
japan/windows2000/downloads/
deployment/admt/)
。複数のNTドメインを再構築して1つのWindows 2000ドメインにアップグレードしたり,複数のWindows 2000ドメインを1つに統合できる。

 ADMTはマイクロソフトにとって,NT環境からWindows 2000環境への移行を促進させる,戦略的なツールである。本来はWindows 2000の製品発売(2月17日:米国)と同時に提供する予定だったが,米国で今年3月,国内では5月8日にずれ込んだ。

Windows 2000はドメイン統合が理想

 既存のNTドメイン環境からWindows 2000ドメインに移行する場合,複数あるNTドメインの構造をそのままWindows 2000ドメインにアップグレードするのは比較的簡単だ。たとえば,ユーザーやグループだけを集中管理するアカウント・ドメインと,サーバーなどのコンピュータを管理するリソース・ドメインからなるマスタ・ドメイン・モデルの場合ならば,アカウント・ドメイン→リソース・ドメインの順に,同じWindows 2000のドメイン・ツリー内にアップグレードすればよい。ドメイン間には自動的に信頼関係が結ばれ,既存のユーザー・アカウントやグループ・アカウントもそのまま引き継がれる。

 しかしWindows 2000とActive Directoryの新機能のメリットを最大限に享受するには,複数あるドメインを1つのWindows 2000ドメインに統合した方がよい場合が多い。ドメイン内の管理単位である組織単位(OU)*を利用すれば,基本的にドメインを分散する必要はない。ユーザーやコンピュータなどのOU間の移動は,ドメイン間の移動に比べて簡単なので,ドメインを統合しておけば,アカウント移動時の管理も楽になる。

 図1[拡大表示]はドメイン統合の例である。シングル・マスタ・ドメインの環境を単一のWindows 2000ドメインに移行する場合,まずはアカウント・ドメインのユーザーやグループをWindows 2000ドメインに移行し,続いてリソース・ドメインを移行する。移行元のアカウントも過渡的に残せるので,システムを混在運用しながら徐々に移行できる。

 Windows 2000では,Windows 2000 ServerのCD-ROMからインストールできる「Windows 2000 Support Tools」に,ドメインの移行のためのコマンド・ツールが用意されている。ClonePrincipalやnetdom,movetreeといったツールを組み合わせて,ADMTと同様にドメインを移行できる。しかしこれらはキャラクタ・ベースのツールで使い勝手はよくない。GUIベースのADMTによって,移行作業は格段に楽になる。

オブジェクト別にウィザードを起動

 今回,Active Directory移行ツールを実際に使ってみた。図1のマスタ・ドメイン・モデルのWindows 2000ドメインへの移行をテストした。移行先となる新規のWindows 2000ドメインを作成し,既存のNTドメインを移行する。このとき,移行先のWindows 2000ドメインは,NTのバックアップ・ドメイン・コントローラが完全に取り除かれたネイティブ・モード*にしておく必要がある。移行できるのは,ユーザー,ローカル・グループ,ドメイン・ローカル・グループ,グローバル・グループ,コンピュータである。

図2●Active Directory移行ツールの移行ウィザードの例
管理コンソールから,ユーザーやグループ,コンピュータの移行ウィザードを起動する。移行元ドメインと移行先ドメインを選択してから,ウィザードに従って各種オプションを設定していく。画面はグループ・アカウントの移行ウィザード。
 移行作業に当たっては,移行元ドメインと移行先ドメインに信頼関係*の設定が必要だ。さらに,ADMTを実行するユーザー・アカウントに,必要な管理者権限を設定する。移行元ドメイン/移行先ドメインの管理者権限や移行するコンピュータの管理者権限などが必要なので,事前に設定しておく。

 ADMTは,Windows 2000マシンにインストールする。ツールを起動したら,コンソールの「Active Directory移行ツール」のツリーを右クリックして,ユーザーやグループ,コンピュータの移行などのウィザードを実行する(図2[拡大表示])。たとえばアカウント・ドメインの移行では,グループ・アカウント→ユーザー・アカウントの順に移行する。移行を適切に行うには,ウィザード実行の順序も重要なようである。ADMTのオンライン・ヘルプには,アカウント・ドメインとリソース・ドメインそれぞれの移行手順が解説してある。

 ウィザードではまず,移行元のドメインと移行先のドメインを選択し,続いてオプションを指定していく。具体的にはユーザー・アカウントの移行ウィザードでは,移動プロファイル*をコピーするかどうか,移行先のアカウントのユーザー権限を移行元のアカウントと一致させるかどうか,移行したアカウントが所属しているグループ・アカウントを移行するかどうかなど,細かな指定ができる。

図3●移行ツールを実行したときのログ・ファイル
図は,アカウント・ドメインのグローバル・グループを移行したときのログ・ファイル。実際の移動処理をしないテスト実行でも,ログを確認できる。
 移行の処理をテスト実行するメニューも用意されている。実際の移行処理は行わず,実際に移行したときの処理内容を記録するログ・ファイルとレポートを作成する(図3[拡大表示])。いったんテストで移行作業が問題なく実行できるかどうかを確認してから,本番の実行を行えばよいだろう。

SID履歴を使いアクセス権を移行

 Windows NT/2000では,アクセス権をSIDというセキュリティ識別子を使って管理している。たとえば,フォルダにあるユーザーのアクセス権を設定する場合,フォルダのアクセス制御リスト(ACL)に,そのユーザーのSIDを保持する。ユーザーがそのフォルダにアクセスしようとすると,ユーザーのSIDとACLのSIDのリストを比較して,アクセスできるかを判断する。

 ドメイン間でユーザーやグループを移行する処理では,実際には移行先のドメインに新しいアカウントを作成している。そのためSIDはまったく新しいものが発行され,このSIDを使って元のドメインのリソースにアクセスすることはできない。

 Windows 2000では,ドメインをまたぐアカウントの移動を可能にするため,「SIDhistory(SIDの履歴)」という機能を提供している。移行先に作られるアカウントに,新しいSIDとは別に,元のドメインのSIDを格納できるのだ(図4[拡大表示])。ADMTでは,ウィザードでSIDを移行するオプションを指定できる。リソースにアクセスするときは,新旧2つのSIDを使うので,移行前のアカウントと同様にアクセスできる。

 また,移行完了後は,セキュリティの変換ウィザードを使って,リソースのACLを移行後のアカウントの新SIDに書き換えることができる。このとき,不要になったアカウントのSIDhistoryは,手動で削除する。

事前の入念なテストが必須

図4●移行後のユーザーが元のリソースにアクセスできる
移行ツールでは,ユーザーの移行のときに,元のユーザーのSIDをSIDhistory(SIDの履歴)として移行できる。リソースにアクセスするときは,新しいSIDとSIDhistoryにあるSIDの両方を使うので,移行前のユーザーにアクセス権を設定したリソースにアクセスできる。
 ADMTによって移行作業は簡単になるが,ドメインの移行そのものが複雑なプロセスであることは変わりない。ドメイン統合の必要性を検討した上で,統合の際には,事前に入念な計画とテストが必須である。ドメイン間の信頼関係や,グループ・アカウント,コンピュータ・アカウントなどのリストを作成して,移行の手順を検討しておかなければならない。また,フォルダやファイルへのアクセス権以外に,アプリケーションの実行権限の移行なども検証する必要がある。

(森重 和春=morishig@nikkeibp.co.jp)